4話 ギルドで働く事になりました
ギルドに保護された次の日、レイトさんの部屋の中にて……
「モヨ、お前には今日からギルドで働いてもらう訳だが……お前はまだ生まれたばかりで、この世界やギルドの基礎知識を一切知らないそうだな」
『はい、生後3日目くらいなので……』
「本当に生まれたてだな……冒険者全員はある程度の基礎知識があるとは言え、冒険者の補助として働くモヨも最低限の知識は欲しいところだ」
『その通りですね……』
「そこで、今日からモヨにはギルド関連の基礎勉強をしてもらう。ある程度知識が身についたと判断したら、その時に正式にギルドで雇うという形になる。それまでは見習いとして、俺の元で勉強に励んでほしい」
『分かりました!レイトさん、宜しくお願いします!』
「おう」
こうして私は、ギルドで正式に働く為の勉強を開始した。
「まずはギルドと冒険者の基礎知識だ。この本で勉強をするぞ」
『はーい……って全部絵本!?ギルド関連の絵本なんてものがあるんですね……!しかもこんなに沢山……』
「子どもにも分かるよう、簡単な言葉で簡潔にまとめられているぞ。モヨが分かるまでじっくり教えるからな」
『(こんな綺麗な絵本、お金持ちにしか買えないのでは……?)』
基礎知識は、レイトさんによる絵本の読み聞かせで丁寧に教えて貰った。幸い、私は文字の意味を理解する能力があったので、読み書きの勉強をする前に最低限の知識はあっという間に身についた。
「次は野外授業だ。冒険者の初心者がよく来る『若草草原』で、魔物や野草の観察をするぞ」
『綺麗な所ですね!注意深く探ってみると、あちらこちらに僅かに魔物の気配がしますね』
「この辺の魔物は他と比べて比較的穏やかだ。だが、腐っても魔物と言うべきか……奴らは弱そうな人間を見つけたら問答無用で襲い掛かってくるぞ」
実際に外に出て、実物大の薬草や魔物を観察した。レイトさんは知識が豊富で、目に入った気になる植物を見つけては丁寧な解説をしてくれた、
レイトさんの解説は本当に分かりやすかった。分からない所も優しく丁寧に教えてくれたので、私も楽しく学習する事が出来た。だが、そんなレイトさんの授業にも1つだけ欠点が……
「……よし、この辺で休憩するか。モヨ、岩でも食うか?」
『……えっ?食べられる岩とかあるんですか?』
「冗談だ」
レイトさんは隙あらば分かりづらいボケをちょくちょく挟んでくる人だった。
どうやらレイトさんは最近お笑いにハマったようで、お笑い芸人さんのような面白いジョークを独自で日々研究しているらしい。
『あの……今のジョークは私には分かりづらかったかも、ですね……えと、知識のあるレイトさんが言うと、妙に説得力があると言いますか……』
「そうか、なら次はもう少し分かりやすく……いや、この説得力を活かした冗談を……」
私はお笑いに詳しい訳ではないが、とりあえずレイトさんのギャグに付き合う事にした。勉強を教えてくれたお礼を少しでも返す為だ。
まあ、そんな感じで順調に勉強を続けてあっという間に数十日が経過し、ついに……
「……よし、これなら若草草原辺りの案内をモヨに任せても大丈夫だな。よく頑張った」
『本当ですか!?やったーー!!』
ついにレイトさんに認められ、晴れてギルドの仲間入りを果たしたのだった。
次の日……
「今日からモヨには冒険者の補助として働いてもらう。普段は俺の部屋で待機し、指名されたら専用のランタンに入って冒険者に動向するように」
『はい!』
「俺は此処で仕事をするでな、モヨは指名されるまでは俺の部屋で好きに過ごすように」
『分かりました!』
補助が必要な冒険者が来るまではレイトさんの部屋で勉強する事にしよう。私はレイトさんが作ってくれた『本をめくってくれる装置』の上に移動した。
「モヨさーん!冒険者のサラサさんからご指名が入りましたー!」
『えっ!?もうですか!?』
呼び声と共にギルドスタッフの女性が室内に入って来た。
「若草草原で自由探索するそうです。モヨさん、ご準備の方を……」
『はい!』
私は思わず驚き慌てながらも、近くに置かれていた専用のランタンの中に入り込んだ。ギルドスタッフは私が入ったランタンを手に持ち、
「初仕事だな。頑張れよ」
『はっ、はい!頑張ります!』
レイトさんに応援の言葉を貰って更にやる気を高めた私は、そのままギルドスタッフに運ばれてギルドの受付へとやって来た。
「サラサさん、お待たせいたしました」
「はっ、はい!」
ギルドスタッフが名前を呼ぶと、近くで棒立ちしていた若い女性の冒険者が緊張混じりの大きな返事をした。見た目や仕草から察するに、この人は恐らく初心者の方だろう。
「こちらが貴方のお手伝いとなる、ヒカリダマのモヨさんです」
「よっ、宜しくお願いします……!」
初心者っぽい冒険者のサラサさんはぎこちない動作で手を伸ばし、ギルドスタッフが差し出したランタンを受け取った。
「えっと……探索が終わったらこのギルドに返せばいいんスよね?」
「はい」
「分かりました!で、では……行ってきます……!」
サラサさんは私が入ったランタンをバッグに付けると、早足でギルドから飛び出した。
早歩きで街から出て、若草草原へと移動するサラサさん。途中でピタリと足を止めると、ランタンを顔の前まで持ち上げた。
ポニテにした明るい茶髪、まん丸で可愛い目、サラサさんの緊張で強張った顔がしっかり見えた。
「とりあえず挨拶を……モ、モヨさん、はじめまして……」
サラサさんはランタンの中にいる私に向かって挨拶をした。とても真面目そうな人だ。
『はい!サラサさん、はじめまして!』
「うわっ!?本当に喋った……!?(ヒカリダマから声が……!)」
私の返事にひどく驚き、危うくランタンを落としそうになった。
「っとと……!あっ、ごめんなさい!まさか本当に喋るとは……!えと……はじめまして、自分はサラサです!数日前にギルドから冒険者として認められた、新入りの剣士です!」
とても素直で真面目そうな人だ。最初にお仕事をする相手が良い人そうで良かった。
『剣士のサラサさんですね!宜しくお願いします!今日は徹底的にサラサさんをサポートしますね!』
「はい!宜しくお願いしますっ!!」
心の声があまり聞こえてこない。この子は裏表が殆ど無いのだろう。
「あの、モヨさんは魔物を探知出来る能力があるとお聞きしたんスけど……それってホントッスか?」
『出来ますよ!……と、言った所で早速ですが、あの道の端にある茂みにスライムが1体発見しました!こちらにじっと狙いを定めてるようです!』
「えっ!?ホントッスか!?」
サラサさんはランタンを腰に提げ、手に剣を構えて茂みにそっと近付いた。私の指摘通り、茂みの中から1体のスライムが表に飛び出し、サラサさん目掛けて襲い掛かってきた。
「はあっ!!」
サラサさんは見事な剣捌きでスライムを一刀両断、初手で無事に魔物を倒す事が出来た。
「や、やった!」
『サラサさん凄いです!迷い無い剣筋で、一撃でスライムを仕留めましたよ!』
「えへへ……自分、こういう身体動かすやつは得意なんスよ。それにしても、スライムにもごく稀に知能が高い奴が現れるとは聞いてはいましたが……まさか早速出くわすとは!モヨさんの指摘が無かったら今頃怪我してました!」
『お役に立てたようで良かったです!』
サラサさんは大喜びでスライムが落としたアイテムを拾い、1つ1つ丁寧に確認しては鞄に入れていく。
「モヨさんのお陰で、不意を突かれる前に魔物を始末出来ました!ありがとうございます!」
『どういたしまして!この調子でもっと頑張ります!』
「頼もしいッス!」
サラサさんはとても素直で優しかった。今回は何のトラブルも無いまま仕事が出来そうだ。
「モヨさん!今日はとにかく魔物を倒したいんで、魔物の居る場所を教えて欲しいッス!」
『分かりました!』