15話 いざ、ダンジョンフィッシュの体内へ
私の体内にある宿屋からだいぶ離れた場所。地面以外真っ白になっている何もない空間。
地面には大きな魔法陣が均等に配置され、その数ある魔法陣の周りを、グループに分かれた冒険者達が陣取っている。
一部の冒険者は武器を構えながら魔法陣の中を睨みつけている。皆んなやる気で溢れているようだ。
「さてと……皆んな、準備は出来たかな?」
「「「「おう!!」」」」
ウルさんの問いかけに対し、周りにいる冒険者達は威勢のいい大声で答える。
私も出来る限りの大声で応じたが、他の冒険者達の声にかき消されてしまった。こんな事なら周りにいる分身全員で返事をすればよかった。
「いい返事だねぇ……では、行ってくるよ」
「ばいばーい」
1番速く走れるウルさんとミミンさんがこの場から離れ、私の口を通して外のダンジョン5階の安全地帯に移動した。
2人は中央で大口を開けたまま停止しているダンジョンフィッシュの前へと移動した。ダンジョンフィッシュの口内は真っ暗だ。
「此処から見てもわかるくらいに深いね」
「普通に探索したら時間がかかるよ」
奥は暗闇なのに、2人は中の様子がはっきり見えているようだ。道具か魔法を使用しているのだろうか。
「モヨ、此処から中は確認出来るかな?」
『分かります!物凄く広くて壁が張られていて、まるで迷宮のようです!』
「頑張れ〜」
「出来ればコアまでの道が分かればいいんだけどねぇ……」
『むむむ……!』
私は今まで以上に頑張り、ダンジョンフィッシュの体内を確認していく。
『…………よし!最深部が見えました!道中の迷路の全貌も、中をうろつく魔物も、そして最先端で進めるルートも把握しました!お2人にこの情報を共有しますね!』
「おぉ……うん、バッチリ把握できたよ。では、出発しよう」
「れつごー」
『頑張ります!!』
こうして私達はダンジョンフィッシュの口から体内に侵入。ついにダンジョンフィッシュのダンジョン攻略が幕を開けた。
ダンジョンフィッシュの広過ぎる体内。床も高い天井も固い物質で覆われ、地面の至る所から突き出ている謎の長くて頑丈な壁が私達の前に立ちはだかる。
「(此処は右!)」
「(次は左!その後はずっと真っ直ぐ!)」
2人は私の出したルートを物凄い速さで突き進んでいく。
「ギャア!!(侵入者!)」
「ギィギィ!(倒せ倒せ!)」
「出た!」
途中で魔物が飛び出して来たが、2人は冷静だ。
「モヨさん!」
『はいっ!』
ウルさんとミミンさんはあっという間に魔物を捉えると、大口を開けた私に向かって思い切り放り込んだ。
放り込まれた魔物達は、私の体内にある魔法陣の中に1体ずつ放り込んだ。
『皆さん!魔物が来ました!』
「出たわね!!」
「叩けーー!!」
「ギェーーーッ!?!?」
魔法陣の前で武器を構えていた冒険者達の前に出て来た魔物達は、冒険者の手によってあっという間に倒されてしまった。
この魔法陣は魔物縛りの効果があり、そこに放り込まれた魔物は魔法はおろか指一本すら動かせなくなる。つまり、こちらから一方的に殴り放題なのである。
『おかわり来ました!』
「よっしゃ!」
「任せろ!」
ウルさん達はやって来た魔物を、私の口の中に次から次に放り込む。そして私の体内に現れた魔物達は魔法陣の中央に放り込まれ、待ち構えていた冒険者達によって次々にタコ殴りにされる。
『喰らえーーーっ!!』
『ム!!』
バスラとナワも積極的に討伐に参加する。バスラは円状の刃物に変換した身体のまま念力で飛び回って魔物を切り付け、ナワは丸めた鉄の糸玉を物凄い速度で何発も相手に撃ち込んだ。
私の体内で冒険者が暴れ回る中、魔物を処理し終えたウルさん達は間髪入れずに先へと進んでいく。
「(右!左!)」
物凄い速さで奥へ奥へと走っていき……
「(見えた!最深部!)」
あっという間に目的地である最深部の部屋へと到着。部屋の奥には大きなコアのような物が宙に浮かんでいる。
『来タナ!侵入者!!』
そのコアの前には、道中で見た魔物よりも遥かに強いと思われる大きな魔物が待ち構えていた。見た目は不気味かつシンプルだが、無駄が殆ど無さそうだった。
『此処マデ来タ腕前ハ大変素晴ラシカッタ……だが、貴様ラノ命ハココデ終ワリダ!!』
「ねえ、赤い魚が来なかった?それ回収したら帰るから」
相手が無駄に叫ぶ中、ミミンさんは相変わらずのマイペースな口調でエミルさんの有無を尋ねる。
『帰ル?ハッ……マサカ貴様ラ、此処カラ生キテ帰レルト思ッテンノカ?残念ダガ……』
「なら少しだけ話とかできるかな?君とダンジョンフィッシュはどんな関係か気になってねぇ……」
一方ウルさんは、ダンジョンフィッシュのコアを守る魔物に興味津々だ。
『此処ニ来テベラベラト無駄話トハ……マサカ俺ニ勝テナイカラ、命惜シサニ命乞イデモ始メル気カ?ギャハハ!残念ダガオ前達ノ命ハ此処デ全部散ラスト決メタンダ!!観念シナ!!』
「そういうのじゃないよ」
『ア?』
「私はただ、君がダンジョンフィッシュとはどのような関係を持っているのかを知りたいだけだよ」
『知ルカ』
そう一言告げた途端、目の前から魔物の姿が消えた。次の瞬間
『グェェエエ!?!?』
中途半端な所で魔物の姿が現れたかと思うと、物凄い速さで後方に飛んでいき、そのままコアと激突してしまった。
一瞬だが見えた。魔物が戦闘体制のままウルさん達に向かって飛び、飛んできた魔物をウルさんがすかさず殴り返した所を。
つまり、先程魔物が後方へと吹き飛んだのは、ウルさんが全力で魔物を殴ったからだ。
「そういうのいいから。で、先程の質問の答えは?」
『シ……知ラン……!俺ハ……何モ知ラ……!』
「知らない。成る程、よく分かった……よっ!」
魔物が全てを言い終える前に、私の前にいたウルさんが高速で走って魔物の前に。そして、地面に倒れている魔物の顔を全力で踏みつけた。
『グフゥ!?』
「モヨさん、護衛は私達に任せて!」
『(護衛というかもはや一方的な暴力では?)』
その隙を見てミミンさんが、周囲に魔法陣を展開。ダンジョン内をうろつく魔物達が寄りつかないように結界を張ったようだ。
「コアを守るボスは、コアを破壊しないと消えないよ。しかも大怪我してもすぐに回復するから物凄く厄介」
「モヨさん!今のうちに例のヤツの準備を!」
『わっ、分かりました!』
2人に急かされた私は、急いで口を大きく開けて次の準備を始めた。
『ナ、ナンダ……?』
私はドアを出す時よりも更に身体を大きくして、それに合わせて口も大きく開けていった。
そして、私の大口の向こう側に現れたのは……黄金色に輝く巨大な魔法陣。
『準備万端です!!』
上から見下ろした魔法陣。私の口の向こう側で動く人達はほぼ頭のてっぺんしか見えない。そのうちの1人が上を見上げ……つまりこちら側に顔を向けた。
「ようやくワシの出番か!!」
巨大な魔法陣の前でスタンバイしていたのは、私に勉強を教える先生として私の体内に来ていた錬金術師のゲンノさんだ。
「ずーっと前から、喉が震えるくらい待っとったぞ!」
実は約1時間くらい前から、ゲンノさんが特大魔法の準備を進めていた。
この魔法は本来、決まったルートを通る装甲の硬いドラゴンを撃ち落とす為に作られた、物凄く強力な魔法だ。しかし、準備にこれまた物凄く時間が掛かるために実戦での活躍はあまり無い。
もし仮に作ったとしても、強風大雨、妨害魔法等によって少しでも邪魔をされれば、あっという間に魔法はダメになってしまう。魔法で守ればいいのだが、準備に手間がかかる上に物凄く使いづらい。非常に非効率な魔法だ。
これをやるくらいなら巨大な魔導具を手間をかけて持ち出した方が数十倍ましだ、との事。
だが、外敵も何もない私の体内ならこの魔法を、何の心配もないまま作り上げる事ができる。しかも、このようにスタンバイも出来る上に、目当ての方向に向かって口を開けるだけで、簡単に特大魔法を撃てる。
「目標補足!」
『オイ!?マサカソレヲ俺ニ撃ツツモリカ!?ヤメロ!』
魔物は目に見えて慌て始める。因みにウルさんは、いつのまにか魔物の前から姿を消していた。
「コアに向かって…………撃てーーーーっ!!」
『ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!』
魔物の悲鳴に近い制止の言葉に聞く耳など一切持たず、ゲンノさんは魔法陣に物凄い量の魔力を注ぎ込んだ。
魔法陣から轟音と共に放たれた魔力の光線は、私の口からコア目掛けて飛び出した。
『ヤメロォォオオオオオ!!』
光線は魔物の懇願もろとも綺麗に吹き飛ばしてしまった。身体の半分を吹き飛ばされた魔物は壁に激突し、ズルズルと地面に落ちていった。光を帯びた煙で周囲の視界が悪くなる。
やがて視界が晴れ、コアがあった場所が目視ではっきり見えるようになった。
「あ……」
「これは……」
コアは消えていなかった。あれほどの力を浴びても尚、コアには傷一つついていなかった。
『コアが消えてません!』
「さっきの魔法で、コアの周りを覆う結界が吹き飛んだだけだね」
『ギャハハハ!コノ程度ジャ消エネーヨ!!』
魔物は体を何とか起こしながら私達をあざ笑った。魔法に巻き込まれて重傷を負った魔物の身体がじわじわと回復していく。
『本体がソンナ簡単にヤラレル訳ネーダロ!悔シカッタラ、サッキノ奴ヲモウ1発ウッテミナ!!イヤ、アンナ攻撃、何度モ撃テルワケネーカ!!ギャハハ!!』
魔物は私の口の向こう側にいるゲンノさんを睨みつけながら下品に笑う。
「また撃っていいのか?じゃあお言葉に甘えて……」
『ハ?』
口の向こう側にいたゲンノさんは魔物の台詞に対し大喜びしながら、力を失った魔法陣の上を走って何処かへと走り去った。私はゲンさんに合わせて、口の向こう側の視点を横にずらした。
『ア……?』
私の口の向こう側に見えたのは、先程と変わらない輝きを放つ黄金の魔法陣だった。
「おーい!次の魔法陣の準備はいいか!」
「バッチリです……!(出番が来た!)」
「ゲンノさん!あのムカつくヤツをブチのめしてください!!」
アマリリさんやヤツメさん含む魔法使いのチームが、先程と同じ魔法陣を少し離れた場所で準備していたのだ。
『オイオイオイ!?ナンデマダソレガアルンダ!?』
「とりあえず10回撃てるくらい準備しとるが……」
ゲンノさんの言う通り。このエリアには、先程放ったものと同じ魔法が発動できる魔法陣があと9回準備されている。魔力を通せばすぐ放てる、実に便利だ。
『ンナ馬鹿ナ!?』
「お?錬金術師に向かって馬鹿と言ったか?」
『ソウ言ウ意味ジャネーーー!!』
「そうか。ま、そー言う訳で……撃てーーーーっ!!」
ゲンノさんは魔法陣に再び多量の魔力を流し、巨大でまばゆい光線を放った。
『グワーーーーッ!?!?』
2度目の攻撃により、奥に見えるコアにようやく傷がついた。その影響か、魔物の回復が少し鈍くなったようだ。
「まだ元気そうにしとるな?じゃ、次行くぞ。撃てーーーーっ!!」
『ヤメロヤメロヤメローーーッ!!!!』
「いやー楽しいのー!そら、撃てーーーーっ!!」
『楽シンデンジャネーーー!!』
ゲンノさんは有り余る魔力を次々と魔法陣に流しては魔法を発動していく。コアは目に見えて傷付いていき、魔物の身体が回復できず逆に崩壊を始めた。
『ヤ、ヤメテクレ!』
5発目を放った所で魔物がストップをかけた。
『目当テノモノガアルナラ渡ス!ダカラ命ダケハ助ケテクレ!!(コノママジャ死ヌ!)』
「え〜?ホントに?」
「嘘じゃないのかな?さっき「私達の命は此処で散らすと決めた」と君が言ったのを聞いているんだよ。そう簡単に信じられないねぇ」
ウルさんは疑いの目を魔物に向ける。
『ホントダ!ダカラタスケテクレ!!(クソッ!隙ヲ見テ奴ラヲ襲イ、後デ頭カラユックリ食ッテヤル!)』
「ふーん……じゃ、心が分かるモヨちゃんに聞いてみよっか」
『ア?』
「モヨさん、彼は本当に心から反省してるのかな?」
『隙を見て襲い、頭からゆっくり食べるって言ってます』
私の回答に皆んな無言になり、一瞬だけ周囲が静まり返った。
「そんな詳しく分かるものなんだねぇ……」
「じゃ、魔物ちゃんさよーなら」
『マテ!話セバ分カル!!』
「撃てーーーーっ!!!!」
ゲンノさんの手によって6発目の大魔法が炸裂した。
『ギャアアアアアアアアアアアア!!!!』
まばゆい光線はコアを魔物ごと貫き、ついにコアは破壊された。
魔物は消し飛び、身体を保てなくなったダンジョンフィッシュは身体を振るわせ、身体を崩壊させていく。
「よっと」
ウルさんはポケットから綺麗な丸い石を取り出すと、真上に向かって放り投げた。石が直言した天井に綺麗な大穴が開いた。
「さあ、脱出するとしよう」
「オッケー」
ウルさんは大きなカラスに姿を変え、棒立ちしているミミンさんの肩をガッチリ掴むと、穴が空いた天井に向かって大きく羽ばたいていった。
『おー……』
「おいモヨ、大口を開けてないで脱出せんか」
『あっ、そうでした!』
ゲンノさんに指摘されて我に返った私は、身体を一瞬で元の大きさに戻して2人の後を追って外へと脱出した。
『脱出!!』
私が天井から飛び出した頃にはダンジョンフィッシュの身体はほぼ壊滅しており、ダンジョンフィッシュの落とし物が周囲に散乱していた。
だが、その中にエミルさんの姿は無かった。
『あ、あれ?エミルさんは……?』




