14話 ダンジョンフィッシュ
ブルーベリー鉱山ダンジョンの5階、安全地帯にて。
『さ、魚に呑まれた……』
地面からスルリと現れた巨大な魚が、人魚の魔物に姿を変えたエミルさんを飲み込んで再び地面へと潜っていってしまった。
「なんて事だ、まさかこんな所にダンジョンフィッシュが現れるとは……」
『ダンジョンフィッシュ…………』
私は体内にある図書室で魔物図鑑を漁り、すぐさまダンジョンフィッシュの項目を発見した。
『ありました!えーと……ダンジョンフィッシュは魔物かどうかまだ判別されていない……人嫌い……で、滅多に姿が見られない珍しい存在……?何ですかコレ?』
「普通の攻撃や魔法は絶対効かない、体内に広大な迷路を持つ人間嫌いの謎の生物。人を襲わないから魔物と判定するかどうか難しい所だと言われているが、多分魔物の類かな。魔物を捕食するタイプの珍しい魔物だよ」
ウルさんは私に顔を向け、丁寧な口調でダンジョンフィッシュの説明を始めた。
「奴は普段から地面の奥深くに生息し、魔物を捕食する為に時折ああやって地表に飛び出してくるんだよ」
「人がいる所には絶対出てこないけど、時々間違えて人を飲み込む事もあるんだって。ミミンも前に一回だけ、ダンジョンフィッシュが飛び出すを所見た事あるよ」
『えっと……体内がダンジョンみたいになった珍しい生き物であり、魔物になったエミルさんを飲み込んだという事は分かりましたが、どうやってエミルさんを救出すればいいのか……』
なんて言っていると、真下から再び大きな魔力の反応が。この魔力からしてダンジョンフィッシュである事は間違い無いだろう。
『ダンジョンフィッシュがもう一度来ます!!』
「この感じからして……相手は宿泊所内に飛び込むつもりかな?」
「んー」
私からダンジョンフィッシュの反応を受信したミミンさんは、駆け足で宿泊所の前まで移動した。
『宿泊所の中から魔物の反応多数、恐らくエミルさんの仲間ですね……突然姿が変わって皆んな混乱しているみたいです。このままでは皆んな飲み込まれてしまいます!』
「ふーん」
私の報告に適当に相槌を打ちながら杖を構えるミミンさん。
「ほいっ」
ダンジョンフィッシュが宿泊所の真下まで来た所で、ミミンさんが軽く杖を振り下ろした。と、次の瞬間
「グェェエエエエエエ!?!?」
宿泊所を逸れて地面から巨大な魚が飛び出し、物凄い叫び声を上げながら安全地帯の地面の上に巨体を叩きつけた。
「ェエ……ェ…………」
魚は次第に元気を失っていき動きが鈍り、やがて体を硬直させたまま動かなくなってしまった。
「この魚はね、魔法は効かないけど呪いとかは効くんだよ。とりあえず呪いで縛ったから一日中寝たまま」
『そうなんですか……ミミンさんすごいですね……』
「えへへ」
「あ、因みにこれは気絶してるだけだから安心してねぇ。これでダンジョンフィッシュに簡単な魔法は通用するようになったから、外から動かしたり眠らせたりできるようになったけど……どちらにせよ外部からの攻撃が通用しないのは変わらない。この魚は中のコアを破壊しないと絶対に消滅しないよ(また面倒なヤツが現れたな……)」
「ウル、お魚はとりあえずこの辺に置いとくね」
「頼んだよ」
ミミンさんは気絶した魚を魔法で持ち上げ、大口を開けたまま停止させた。
「でも、宿泊所のみんなは呑まれずに済んだかな?モヨさん、宿泊所の中の様子はどうかな?」
『えっと……突然の魔物化に混乱しているのか、宿泊所内はしっちゃかめっちゃかで全然分からないです!』
「そっか……ミミン、とりあえず安全地帯の結界を張り直してきてくれないかな?私は宿泊所の中にいるエミルの仲間を拘束しつつ薬を与えてくる」
「うん、分かった」
そして2人揃って宿泊スペースに乗り込むと、ミミンさんは宿泊所付近にある魔法陣で結界を張り直し、ウルさんは宿泊所内にいるエミルの仲間と思われる魔物達を道具で拘束しつつ薬を投与して周った。
「とりあえず全員確認できた……かな?(流石に全員は助からなかったけど……)」
やる事を終えたウルさんは、ポケットから取り出した鏡を使用して外と連絡を取った後、合流したミミンさんと一緒に私の体内の宿屋に入った。
「大変な事になったねぇ(早くエミルを探さないと……)」
「うん」
ウルさん達は部屋で装備を万全に整え直すと、2人は部屋から出てエントランスに向かって早歩きで移動を始めた。
『あの、この後ウルさんとミミンさんはどうするんですか?』
「さっき捕まえたダンジョンフィッシュにエミルが飲み込まれた可能性がある。だから私達はこれから、ダンジョンフィッシュの体内に潜るつもりだよ」
『あの魚の中に入るんですか!?』
「魚を眠らせて消化を遅らせてるけど、それでも丸一日くらい経過したらエミルが魚に溶かされちゃうから」
「溶かされるだけなら良かったんだけどね……」
『?』
「ダンジョンフィッシュの体内には魔物も出るから、準備は万全に整えないと……」
『魔物出るんですか!?』
「説明している時間は無い。とにかくエミルを救出しに行かなくては……けど、2人だけでは心許ないから、共に来てくれる仲間を募りにエントランスへ向かうよ」
『仲間探しですね!それならば私が、余裕がありそうで暇を持て余している冒険者の方々に声を掛けてみますね!』
「ありがとうモヨさん。そうだ、『ダンジョンフィッシュランク5の討伐依頼。私とミミンと共に来てくれるランク6以上の冒険者募集。報酬は相場の倍を払う、望むならアイテムでも支払い可。事態は一刻を争う緊急事態、依頼を受ける冒険者は早急にエントランスに集合せよ』……と、伝えて募集してほしい」
『はい!』
私は自分の分身を動かして、周りにいる冒険者にダンジョンフィッシュ討伐依頼を知らせて回った。
数分後……
「結構集まったねぇ……」
私の依頼の話を聞いた冒険者達が、万全な装備を揃えた状態で宿屋のエントランスに集合していた。20名程いる冒険者の群れの中にルンさんやヤツメさん、フーラさん率いるグループの姿もあった。
「モヨちゃんすごい。これ、ほぼ全員集まったよね」
基本は報酬目当ての人が大半だが、一部冒険者はウルさんやミミンさんの為だったり、ギルド関係者からの依頼を達成して名誉を得る為だったりする。何はともあれ、沢山集まってくれた冒険者達には感謝しかない。
「本来なら定員オーバーだからある程度数を減らす所だけど……モヨさんがいるから全員で探索出来るねぇ。疲れても道中で交代できるし、怪我した冒険者はモヨさんの体内で速やかに治療を受けられる」
「モヨちゃんの口から石投げたり、顔とか武器とか出せたりしないかな?」
「アイテム投げるのはいいアイデアだよ。それができたらもっと探索が楽になるかもしれないねぇ……」
「ちょっといい?」
ウルさんとミミンさんが話し合いをしていると、フーラさんが会話に口を挟んできた。
「モヨがいれば道中の魔物をパスできるわよ」
「パス?」
「文字通りよ。実は私達、道中で出会ったどうでもいい魔物をモヨの口に放り込んでたのよ」
「……モヨさんは魔物を食べれるのかな?」
「体内にいるモヨちゃんに倒させてたんじゃない?」
ミミンさんは周りにいる私の分身を指差しながらマイペースに述べた。
『そうです!フーラさんが弱らせて口に放り込んでくれた魔物を、仲間や分身で囲って倒してたんです!』
「じゃあ、道中に出てくる魔物は全てモヨさんの口にパスすればいいんだねぇ。そしてパスした魔物はモヨさんの体内にいる冒険者の皆んなが倒す……と」
「魔物が出る場所に魔物拘束する魔法陣を敷けば更に楽になるよ」
『魔物が飛び出す場所は調整出来ます!望むなら魔法陣のど真ん中に設置できます!私の仲間の魔物も合わせれば更に楽になると思います!』
「仲間の魔物?」
「モヨ、プラチナワームとシルバースライムを庭で飼ってるのよ」
「へー、どっちも珍しい魔物だね」
『とりあえず呼んでみますね!ナワ、バスラ、おいで!』
私は自分の分身にナワとバスラを呼ばせ、急いで宿屋に連れてきた。
『こちらが私の仲間のナワとバスラです!』
私の後ろをついてやって来たのは、大型犬並みに大きくなったプラチナワームのナワと、球状のまま宙に浮遊するシルバースライムのバスラだ。
「ぷぅ(こんにちは)」
「うわっ」
「ぎゃーーーーっ!?あのプラチナワームが何でそのままの姿でこんなでかくなってるのよ!?!?」
普通より大きいサイズのプラチナワームの挨拶に、周りにいる冒険者の数名が驚いたり悲鳴を上げたりしていた。ナワはその否定的な反応に対し、特に気に留めてない様子だ。
『ナワは性格が温厚でマイペースで、食事が何よりも大好きなんです!』
「ほぉ……これは短期間で多量の栄養を蓄えたワームに見られるものだねぇ…… 普通ならこれより小さい姿で過ごして最後には蝶の姿に変わるけど、このまま行くと別の進化を辿るだろうねぇ」
『ナワは金属質の糸を吐き出して相手を拘束出来ます!そしてこっちの元シルバースライム、今はマジックボールであるバスラは、念力で相手を止めたり攻撃したり出来ます!』
『皆さん初めまして!僕はバスラ!宜しく!』
「ミミンだよ。宜しくね」
「マジックボール!魔法とはまた違う未知の力を使うというあの珍しいマジックボールがモヨさんの仲間にいるとは!」
マジックボールのバスラがテレパシーで喋った瞬間、ウルが目を輝かせながら物凄い速さでバスラに駆け寄った。
「バスラさん!君はどうやってマジックボールになったのかな?!」
『気がついたら周りの景色が平面から立体になって、いつのまにか喋れるようになってたよ!』
「ほぉ……これは興味深い……!」
『バスラがマジックボールになった原因は今の所、私が毎日テレパシーで会話したのが原因だと言われています!好奇心旺盛で人間好きです!』
『僕、武器に変身して飛び回れるんだ!きっと今回の戦闘でも大活躍できるよ!』
「成る程成る程!マジックボールは複雑な武器や道具を使いこなし、時には複雑な構造のアイテムの作成までこなす、様々な謎が残っている実に不思議な魔物……!まさかモヨさんの仲間にこんな素晴らしい……」
「ウルちゃん、時間が勿体無いからそれくらいにしてね」
「うっ……」
興奮するウルさんをミミンさんがそれとなくなだめる。
「残念だねぇ……」
『また時間があった時に僕とおしゃべりしようよ!』
「うん!喜んで!」
そんなウルさんに対しても尚お喋りを試みるバスラは、中々に肝が据わっているのかもしれない。
「さて、改めて本題に入るとしよう……これから私達はダンジョンフィッシュに飲み込まれたエミルを救助する為に、推測ランク5のダンジョンフィッシュの体内に潜る」
気を取り直して真面目な顔になったウルさんは、静まり返った冒険者達を前に説明を始めた。
「エミルが消化されて消滅する前に何とか救助しなくてはならないが、そこそこ育ったダンジョンフィッシュの体内は物凄く広い。ダンジョンと同様に魔物も湧いているから、一筋縄ではいかない。しかもダンジョンフィッシュの最深部にあるコアは非常に頑丈な上に、コアを守る強力な魔物まで存在する。だから作戦としてまず……」
そしてウルさんは集まった冒険者達を前に作戦会議を始めた。ウルさんは集まった冒険者達の役割や配置を伝え、時折冒険者が意見を述べたりと、とにかくいかに安全かつ効率よくダンジョンフィッシュの体内を駆け抜けるかについて真剣に議論した。
そして、作戦会議が佳境に入った時……
「うーん……どうしても、コアの破壊は時間がかかるようだねぇ。コアを破壊するチームと、コアに寄ってくる魔物を対処するチーム、あとコアの破壊方法について色々と考えなくては……」
「ねえモヨちゃん」
『はい?』
「モヨちゃんに放り込んだ魔物を、モヨちゃんの体内の好きな場所に配置出来るなら、その逆もできたりしない?」
『逆?』
「ああ。モヨの口と繋ぐ場所を、別の場所に変更したいという事かな?普段モヨは口から宿屋のドアを出しているけど、それをレストランとか庭とか、好きな所に繋げたい……と。そう言いたいのかな?」
「うん。バスルームとお口を繋げて、外に沢山のお湯を出すとか……」
『それなら勿論出来ますよ!』
「やった。ミミンね、ちょっとやってみたい事があるんだ、それはね……」
そう言うと、ミミンさんはある1つの考えを皆んなの前で披露した。
『そんな凄いものがあるんですね……!その作戦、いいと思います!』
「そうか……!ソレが出来ればあっという間にコアを破壊できる!この運用なら、その作戦の欠点もほぼ無いに近いし……これはいける!」
「ミミンさん流石です!」
「やった〜えへへ〜」
ウルさん含め、周りの皆んなもミミンさんの作戦に乗り気のようだ。
『(この作戦が上手くいけば、ダンジョンフィッシュをあっという間に倒せる!エミルさんの捕獲の為にも、この作戦は絶対に成功させなくちゃ……!)』




