7.5話 ギルドの日常
おまけの話。
此処はグリーンタウンのギルド。
日々、様々な冒険者がやってくる受付の裏側では、ギルドを影から支える存在である『ギルドスタッフ』が懸命に働いている。
そして今日もギルドスタッフ達は、冒険者を相手に元気に働いていた。
「失礼します!」
倉庫から元気よく現れたのは、赤の混じった黒髪に獣耳が生えた男性ギルドスタッフだ。
彼の名前は『ガレオ』。彼はギルドスタッフの中で年も職歴も1番若い新人だ。
彼はそこそこガタイのいい身体を器用に曲げて他のスタッフを避け、目当ての先輩の元へと歩いていく。
「ゴードさん!荷物整理終わりました!」
「ありがとうガレオ。いや、悪いね……俺が手を滑らせて散らかしちゃった道具を、君に全部片付けてもらっちゃって」
襟足の長い明るい髪型の男、ゴードは申し訳なさそうな顔でガレオに謝罪した。
「いえ大丈夫です!ゴードさんには早めに済ませないといけない大事な仕事がありましたし!それに、こういうのは力が有り余ってる奴がやるのが1番なんで!」
「そう言ってもらえると助かるよ、後は喋る時の声をもう少し抑えてくれるとありがたいかな。そうだ、折角だから今日のお昼は何か奢らせてくれよ。ガレオは何か嫌いなものとかアレルギーはある?」
「えっ昼飯奢ってくれるんすか!?あざっす!!えっと、俺はダニアレルギーなんで……虫以外なら割と何でも大丈夫っす!!」
「虫が出ない所ね、分かった。それにしてもいい返事だね、俺も奢り甲斐があるよ。後は喋る時の声をもう少し抑えてくれるとありがたいかな」
「分かりました!!」
「話聞いてた?」
「ガレオさんにゴードさん、何の話をしてるんですか〜?」
ガレオとゴードが会話をしていると1人の女性スタッフのセレナが現れ、可愛らしいボブカットの髪を揺らしながら2人の間に割って入ってきた。
「いや、あんな大声で喋ってたら流石に聞こえてるでしょ。ガレオが俺の仕事を手伝ってくれたから、お礼に昼ご飯奢るよって話をしただけだよ」
「え〜、ガレオさんに一体何を食べさせるつもりですか〜?また虫とかスライムとか食べさせたりしませんよね〜?」
「えっ、流石にそんな事は……」
「虫?スライム?あの、セリナさん……それは一体どういう事っすか?」
セリナの妙なセリフを不思議に思ったガレオは、怪訝そうな顔でセリナに尋ねた。
「あ、ガレオさんは新入りだからゴードさんの趣味を知らないんですね〜?あのですね、ゴードさんって魔物にものすご〜く詳しいですよね?」
「はい!ゴードさんの魔物知識は物凄いっす!魔物の知識ならギルドの中では1番なんじゃないかとも思ってます!」
「うん、凄いですよね〜。魔物への愛が知識だけに留まっていれば良いんですけど……魔物への愛が膨らみ過ぎた結果なのか、ありとあらゆる魔物の部位を食べるようになってしまったんです〜」
「ありとあらゆる魔物……?」
「最近は魔物食が流行ってますが、ゴードさんが食べるのは『ミノタウロスステーキ』とか『マンドラゴラサラダ』みたいな美味しそうなやつじゃなくて、リザードマンの尻尾焼きとかスライムスープとかアルラウネサラダとか、ゲテモ……かなり攻めた食事を好んでるんですよ〜」
「……………………マジすか?」
「いやいやいやいや!誤解だって!皆んな食わず嫌いしてるだけでスライムもグリーンワームも美味しいんだって!」
2人のやり取りに耐え切れなくなったのか、ゴードが大声で反論した。
「ゴードさん、それらを俺にも食べさせる気だったんですね…… 」
「いや、無理矢理食べさせたりしないって!さっきだって事前にガレオの苦手な物聞いたでしょ!?ガレオが苦手な虫だけは絶対に食べさせないから!!」
「虫以外に何食わせようとしたんすか!?やめてくださいよゴードさん!!」
ガレオは必死に喰らいつくゴードにドン引きし、ゴードからかなり距離を取った。
「そこまで拒否しなくていいじゃん!?むしろさ!俺は君達が普段食べてるエビやロブスターの方が遥かに気持ち悪いと思ってるけどね!!あんな硬くて足だらけの中途半端に長いヤツをさ!!」
「苦し紛れに嫌な事言わないでくださいよ!!」
「ゴードさんは幼少期に海で足つって溺れて以来、海の幸全般大嫌いになったんでしたっけ?」
「そうだよ!海なんか大嫌いだよ!!」
「海とばっちりじゃないっすか!!と言うか、セリナさんゴードさんに結構詳しいんすね!?」
「噂で聞いただけですよ〜」
「…………正直、何の罪もない人間を襲う魔物も大嫌いだよ。だけど、奴らの落とし物である食材自体に罪はないからさ…………………………………………魔物の珍味、食べてみない?」
「食べませんよ!!何でこの流れでいけるって思ったんすか!?」
「貴方達、うるさいわよ」
3人で言い争いをしていると、机で作業をしていた眼鏡で美人の女性スタッフのレイが近づいてきた。
「あ、レイさん……すいません」
「今は仕事中よ。お喋りはそのくらいにして、急いで元の持ち場に戻りなさい」
「はーい」
「すいませんでした」
「分かりました!!」
「皆んなさっさと戻りなさい。ガレオ、貴方はもっと声のボリューム下げて」
レイの一声で全員が自分の場所に戻っていく。去り際、ゴードはガレオの耳元にそっと口を寄せた。
「ガレオ、昼休憩になったらギルドの裏に集合な……」
「俺絶対に行きませんからね!?」
「ガレオ、もっと声のボリューム下げて」
「すいません!」
ガレオは大声で謝罪しながら急いで仕事に戻った。その直後……
「レイさん、深緑森方面からの火花を確認しました」
1人の真面目そうな女性スタッフがレイに駆け寄り、真剣な顔で報告をした。
「レイさん!冒険者の方から「深緑森から妙な植物のツタが複数伸びたのを見た」と報告が入りました!」
更に別のスタッフが受付から慌ただしく走ってきてレイに報告をした。
「深緑森ね……分かったわ。今からランク6までの冒険者達全員を深緑森に向かわせないようにしてちょうだい。そして……」
と、レイが全て言い終える前に、ギルドの仕事場に1人の人物が入って来た。
「あーそうそう……栄養剤ならモヨの体内にあるかもな。体内にある宿の外に……訳が分からんだと?宿の外を見りゃすぐ分かる」
ギルド長のレイトだ。彼は手に持った鏡に向かって会話をしながら歩いてきた。
「だからな、薬の製造も使用も俺が全て許可する。分かったな?……レイ、冒険者から鏡を通して連絡が入った。深緑森にルビーティアラ・アルラウネと思われる個体が現れたらしい」
「ルビーティアラ……!分かりました。深緑森は封鎖し、ルビーティアラを討伐させる為に上級冒険者達に声をかけて周ります」
「頼んだ」
その後、レイは他のスタッフ達に指示を出しながら冒険者達に鏡を通して声を掛けて回る作業を始めた。ギルドスタッフ達は大忙しだ。
「ガレオ。貴方は若草草原に向かって、そこにいる冒険者を全員連れ戻しに向かいなさい。既にランクの高い冒険者達に頼んではいるけど、念の為に貴方も現場に向かって」
「ウッス!分かりました!」
ガレオは上着を脱ぎ、髪を綺麗にかき上げてオールバックにして気合いを入れた。
「あっガレオ!レイさんを前にそれはやめといた方がいい!!」
「そうです〜!そんな身なりを整えるような事したら……!」
「何言ってんすか?そんな事より……レイさん!冒険者を連れ戻す以外に若草草原でやる事ありますか!?」
「……………………」
ガレオはレイに指示を仰ぐが、レイはオールバックのガレオを見た途端、何故か無言になってしまった。
「レイさん!どうしたんすか!?」
「……えっと……お名前は?」
「えっ……俺はガレオっすけど……」
「へぇ……あの、とても素敵なお名前ですね……えと……ご趣味は?」
「どうしちゃったんすかレイさん!?」
「ガレオ、レイさんは見慣れない男性を前にすると緊張するんだ。特に身なりを整えた男性を見ると、あのようにお見合いモードに入ってしまうんだ……」
「何なんすかそれ!?」
「レイさんは昔から男性とはほぼ無縁の生活を送っていたそうで……男性とは一切喋れなくなる性格を何とかする為に、両親に頼み込んで無理矢理に何度もお見合いをしたそうです。結果、男性とはある程度喋れるようにはなりましたが、無理矢理行ったお見合いが原因なのか、身なりが整った男性を前にすると「お見合いの定型文」でしか喋れなくなってしまったそうで……」
「何なんすかそれ!?ってか、何でそれをセリナさんが知ってるんすか!?」
「噂で聞いただけですよ〜」
「噂の一言で片付く情報じゃないと思うんすけど!?」
「まあ、とにかく……レイさんと喋るなら適当な格好になれって事かな」
「(このギルド、何でこう変なスタッフばかりなんすか!?)」
その後、ギルドスタッフ達と冒険者達の力で初心者冒険者を深緑森から遠ざけたり、道の一部を通行止めにしたり、手の空いている上級冒険者を森に向かわせたりと色々頑張り、何とかこれ以上に被害が出ないよう全力で力を尽くしたのだった……




