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11話 能天気タルタさん

「…………」


 若草草原にて。ソニアさんは地面に近づき、薬草となる植物を黙々と採取していた。


『(ソニアさん……)』


 どうやら私にやって欲しい事があったらしいが、ソニアさんはこれ以上、私と話す気がないようだ。それどころか……


「(どうしようどうしようどうしよう……!私、絶対にモヨさんに失礼な態度取っちゃった……!言い方も悪かったかもしれないし、何よりも会話をつづけようとする気遣いすら見せられなかった……!でも、モヨさんってどんな話をするんだろう……)」


 ソニアさんは薬草を採取しつつ、脳内でずっと1人反省会をしていた。どうやら先程の私との会話が失敗したとの事で、その光景を脳内で何度も再生しながら1人で怯えていた。


「(本当は……本当は、冒険者の仲間が欲しいから会話力を上げたくて……モヨさんに会話のしかたとか、教えてもらいたかったけど……今、この空気でそんな事……絶対に言えない……!)」


『(そうだったんだ……)』


 どうやらソニアさんは、もっと会話が出来るようになる為の練習がしたかったらしい。しかも冒険者仲間も欲しがっている。ソニアさん、会話の練習なら補助の妨げにならない程度で練習台になってあげるから!


「(これから生きていく上で必要なのに、今言わないでどうするの私!モヨさんと会話しなさい!)」


 あっ!ソニアさんの脳内にポジティブなソニアさんが現れた!いけいけ!その調子でソニアさんを説得して!


「(何言ってんの?ギルドスタッフにも、モヨさんにもあんな失礼な態度取って……今更虫が良過ぎるでしょ)」


 ああっ!ソニアさんの脳内にネガティブなソニアさんが!大丈夫だよソニアさん、さっきの事はそんなに気にしてないよ!


「……はぁ(駄目だ……声を掛けるキッカケが無い……)」


 ああ、ものすごくもどかしい!心の声が分かるのに何もしてあげられないなんて……!下手に介入したら心閉ざしちゃうかもしれないし…………ん?



『ああっ!?』


 突然、此処から遠くに見える森方面から異常な数の魔物の存在を察知した。私は思わず大声を上げた。


 その時に誤って私の驚く声をソニアさんに流してしまい、ソニアさんも驚いたのか無言のまま再び飛び上がってしまった。しかも座った姿勢のままで。


「急に大声出さないで(びっくりした……!って、またこの言い方……!物凄く嫌な言い方……!私の馬鹿!)」


『すいません!ソニアさん、魔物です!ゴブリンの群れが深緑森方面から現れ、若草草原に走って来ます!15匹もいます!』


「ゴブリン……!?(何でこんな所に群れで……!?普段は森の中で活動して、若草草原には滅多に出てこない筈なのに!)」


 ソニアさんの言う通り、ゴブリンは本来こんな若草草原に、しかも群れで現れるような真似はしない。


 大体の魔物は基本、マナの薄い所を嫌うらしい。


 ゴブリンは、若草草原よりマナが発生する深緑森に住んでいるので、今住んでいる土地よりマナが薄い若草草原に、何の意味も無く出てくるような真似はしないそうだ。


 時折、弱いゴブリンが若草草原に現れる事はあるそうだが……こんな元気なゴブリンが、群れで大量に現れるのは異例中の異例だ。



「本当だ、向こうからゴブリンの群れが……(ゴブリンの群れに遭遇したら大変!)」


 ソニアさんは急いで立ち上がると、手袋の魔道具を使って補助魔法を自分自身に掛け、物凄い速さで若草草原を走り出した。


『凄い速いです!』


「モヨさん、黙って!(走りに集中できない……!)」


『あっ、すいません!』


 私はソニアさんが集中できるよう無言になった。その間もソニアさんは、魔物避けが貼られている安全地帯に向かってひたすら走り続けている。


 その間もゴブリンはどんどん近付いてくる。だが、前にレイトさんと一緒に見たゴブリンはこんなに足は速く無かった。何かがおかしい。


「(ニンゲンニンゲン!)」


「(ツカマエロ!)」


 異常な速さで接近してきたゴブリンから心の声が聞こえてくる。どうやらゴブリン達は、人間を捕まえようとしているようだが……


「(やばいやばい!薬が切れる前に!とにかく安全地帯まで走れー!!)」


 ゴブリンの群れから、ゴブリン以外の心の声も聞こえてきた。この感じからして、声の主は人間だろう。どうやらこの人もゴブリンに追われているらしい。念の為にこの冒険者の事もソニアさんに伝えておこう。


『森方面から、ゴブリンの他に人の気配がします』


「人?」


『こちらも物凄い速さで、安全地帯に向かって走ってるみたいです。どうやら冒険者のようです……』


 なんて言ってる間に、ソニアさんはゴブリンが来れない安全地帯に到着した。遅れて、後ろから走って来た謎の冒険者も安全地帯に飛び込んで来た。


「ぜぇ……はぁ……あーびっくりした!」


 安全地帯に飛び込んで来たのは、ショートの赤髪で、銃を装備した元気そうな女性冒険者だった。彼女はゴブリンを見つめながら必死に息を整えている。


「はぁ……あー、何とかなって良かった!ねえ、そこの君!」


「……私?(うわー!!知らない冒険者に声掛けられたー!!)」


 ソニアさんは突然声を掛けられた事により、心の中でプチパニックになっていた。


「こんな事に巻き込んでごめん!実はちょっとしたトラブルでゴブリン暴走させちゃって……!」


「…………別に(気にしてない気にしてない!それよりも、この人も無事で本当に良かった……!)」


 ソニアさん!その心の声、直接本人に言ってあげて!


「そっか!良かった〜!(トラブルをあまり気にしない人で良かった〜!)」


 ソニアさんは素っ気ない態度だったが、相手はそれを好意的に捉えて喜んでいた。なんてポジティブな人だ。


「あ!自己紹介がまだだったね!私の名前はタルタ!宜しく!」


「……ソニア(ひぃ……自己紹介とか学校でして以来……)」


「ソニアちゃんだね!宜しく〜!(おっ、この子はランク1の新人かぁ!)」


 このタルタって人、結構コミュ力高いかも……ソニアさん、大丈夫かな……あ、私も自己紹介しとこ。


『タルタさん初めまして!私はモヨです!』


「おわっ!?ランタンが喋った!?……あっ!もしかして最近巷でちょこっと話題になってるあのモヨ!?」


『多分そうです!……あの、タルタさん』


「なーに?」


『何で大群のゴブリンに追われていたんですか?タルタさんは何か事情を知ってるようですが……』


「あーそれね。私、さっきゴブリン狩りしてたんだけどさ、木の上で休憩してる最中に魔力薬……身体強化のやつを飲もうとしたら手を滑らせて落としちゃって……木の下に居たゴブリン達に強力な魔力薬、全部ばら撒いちゃった!」


『えーーーっ!?じゃああのゴブリンの群れって、身体強化の効果で無敵になったと勘違いしたゴブリン達が暴走してる姿って事ですか!?』


「あはは!そう言う事!」


 そう言う事!って笑ってる場合じゃないでしょ!?


『タルタさんもっと危機感持ってくださいよ!どうするんですかアレ!よりによって初心者が集まる若草草原に暴走したゴブリンが放たれるなんて!』


「えー?薬ばら撒いたのは私だけど、ゴブリンが若草草原に来たのは……あ、私のせいだった。暴走したゴブリンに追われてこっち来ちゃったんだった」


 タルタさん危機感なさ過ぎるよ!!


「いやー、あのゴブリンも流石に若草草原まで来ないでしょって思ったけど……群れて強気になってたのか、薬の効果で何か勘違いしたのか、普通にゴブリンもついて来ちゃったし、土地変わっても全然弱らないし……って、何もかも上手く行ってないね!あはははは!」


『(タルタさん何でこんな事して何で笑ってんの!?)』


 ソニアさんは気にしすぎだったけど、タルタさんは逆に気にしなさすぎ!物凄く怖いよ!



「…………タルタさん、何で笑ってるんですか?」


「えっ?」


 そんな中、無言でタルタさんを見つめていたソニアさんが唐突に話しかけてきた。どうやら怒っているようだ。


「魔物に薬ばら撒くなんてとんでもないミス犯して、更には他の人まで巻き込んで……(この人、なんでこんな酷いミスをしたのにヘラヘラ笑ってるの……!?)」


「だよね!ごめん!(やっぱ気にするよね!しかも初心者巻き込んでる訳だし……そりゃ怒るよ!)」


 あ、タルタさんがちゃんと怒りを受け止めて謝罪してる。素直な人だなぁ……


「謝罪なら後にしてください。今はゴブリンの群れを何とかする方が先です(これ、私1人じゃどうする事も出来ない……)」


「だよねー!あれ何とかしないと初心者が怪我しちゃうもんね!何とかしないと!(めちゃくちゃ怒ってるじゃん……まあ、こんな事に巻き込まれたら誰だって怒るよね!本当にごめん!)」


 ソニアさんに怒られたタルタさんは笑顔を引っ込め、ソニアさんに全力で謝罪した……この2人、さっきから何かいい感じじゃない?


「……さて、初心者冒険者が此処に集まる前にゴブリンを何とかしないと!ねえ、ソニアさんって魔法使いだよね。どんな魔法が得意?」


「補助魔法」


「そっか!じゃあさ、私は此処からゴブリンを狙撃するから、ソニアさんは私に補助魔法掛けてよ!」


「……分かりました(学校卒業してから、初めての共同作業……間違えないようにしないと……)」


『2人とも頑張ってください!私は隠れているゴブリンの位置を教えますね!』


「宜しく!じゃあ、準備が出来たら早速始めるよ!」


『はい!』

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