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1話 転生したらワタみたいな物体になってました

 私は、ほのぼのファンタジーが大好きな社会人だ。


 主に小説やゲーム、アニメや漫画等々……そこに可愛いファンタジーがあれば何でも手を出して楽しむタイプだった。


 今日は待ちに待ったゲームの発売日。可愛い世界をのんびり見て回るタイプのファンタジーRPGゲーム(名前は難しくて忘れたがPVの内容がとても可愛かった)を買う為に街の歩道を歩いていた。筈だった。




 突如、私の身体に衝撃が走り視界が暗転した。




 次第に意識がはっきりし、周りの景色が鮮明になってくる。だが、私がよく知る街の景色では無かった。



 辺り一面薄暗い森だった。



(えっ……?何これ……!?)


 しかも現実にある普通の森とは似ても似つかぬものだった。


 私を囲う木々の葉っぱは文字通り真っ青で、銀色のどんぐりのような形をした大きな実がくっ付いていた。幹もよく見たら鈍い銀色をしていた。地面に生えている草も見慣れないものばかりだ。


 近くには池もあったが、その池に浮かぶ謎の四角い物体も何だか不気味だ。


 ……と、池を覗き込んだ際に私の姿らしきものが写ったのだが、それを見た私はひどく驚いてしまった。



(えっ!?何これ!?)



 池に写り込んでいたのは、フワフワしたホコリのような丸い物体。しかもこの物体は私が右に動いたら右に進むし、左に動いたら左に進む。


 ……そう、私は奇妙な綿埃のような物体になっていた。足元を見ても自分の身体が見当たらないし、地面から離れて浮かび上がっているし、よく見たら少し光っている。本当に訳が分からなかった。


 だが、私はこの現象に少し心当たりがあった。



(もしかして私、異世界転生したのでは……?)



 前に読んだ小説で見たことがある。現実で死んで異世界で生まれ変わってしまう架空の話だ。


 最後に感じたあの衝撃からして、恐らく私は事故に巻き込まれたのだろう。


(どうしよう……)


 だが理解出来た所で、ただうろたえるしか出来なかった。せめて人間か、物凄く強い魔物にでも生まれ変われていたら良かったのに、よりによって訳の分からない光る物体に生まれ変わってしまったのだ。もはや背景の一部である。


 人間に干渉出来るかどうかすら怪しいし、魔物や動物に見つかったらオモチャみたいに適当に遊ばれる可能性だって……



ガサガサッ!



 なんて考えていたら、木の上から私より大きい真っ黒のフクロウが飛び出してきた。しかも私のことをじっと見つめている。


(逃げなきゃ!)


 フクロウから逃げようと身体を動かすが、埃の姿をした私の移動速度はめちゃくちゃ遅かった。のろのろと移動している間にもフクロウはのしのしと歩いて私に近付いて来る。



『やだ!あっち行って!!』



 私が心の中で必死にそう叫んだ。すると……



「(あっち行って、とは随分なご挨拶だなぁ……)」


(……えっ?)



 フクロウが喋った……?


『私の……人の言葉が分かるの?』


「(人の言葉が分かるか、だって?どう言う事なのか分からないけど……君が何を伝えたいのかだけは分かるよ)」


『えっ……?』


「(って言うか君、僕の考えてる事覗いてるでしょ)」


『えええっ!?いやいや、勝手に心を覗くなんてそんな事は……!』


「(いや覗いてんじゃん……僕、さっきから一言も喋ってないんだけど……考えてる事を読める奴なんて初めて見たよ)」


 まさかこれはテレパシーなのだろうか。この光る生物にこんな力があったとは……


「(まあいいや。とりあえず僕も忙しいし、僕もこの辺の面倒な魔物に会いたくないから、このままどっか行くね。じゃあね〜)」



バサバサバサバサッ!



 フクロウはその場で力強く羽ばたき、空へと消えてしまった。フクロウからこの世界の事を色々と聞きたかったのだが……


 だが、とりあえずこの世に魔物が存在する事は分かった。



(これからどうしよう……)



 だが、謎の光る物体やテレパシーが存在する時点で、此処は魔法が存在する異世界で間違い無い筈だ。


 もし私が人間や強い魔物だったら、あちこち走り回って色んなものや景色を見て回ったのだが、この足の遅さでは途方もない時間が掛かるし、魔物に出会ったらあっという間に襲われてしまうだろう。


 だが、私にはテレパシーがある。これを使えば先程フクロウと会話出来たように、人や魔物とも会話が出来る筈だ。



(つまり……優しくて強い人間の仲間になれば、私でもこの世界を冒険出来る!)



 ならば私がやる事はただ一つ、心優しい人間を探して会話を試みるだけだ。


 だが、いくら心優しい人間でも、何もしない奴を隣に置くような真似はしないだろう。ならば明かりの代わりになったり、テレパシーを使って会話を手助けしたりと、自分なりに精一杯活躍すればいい。



『よし!頑張って人間と交流して、この異世界をとことん楽しむぞ!!』


 と、私は1人で異世界での目標を掲げた。





 ……あれからどれほど経ったのだろうか。私はずっと人を探しているのだが、此処には人どころか、人が居た形跡すら見つからない。


 唯一見かけた生物は、空を飛ぶ真っ青な小鳥や、見た事もない姿をした小動物ばかりだ。


 人を探しながら素早く動く練習もするが、体が軽すぎるせいなのか素早い動作をするのがとても難しい。しかも、ずっと頑張って動き続けていると、すぐに疲れが出てしまう。


 だけど私の身体は疲れは出るが眠気は来ない、つまり今の私は眠る必要が無いのだ。現に、ここに来てから睡眠は一切していない。大きな木の枝の上で少し休めばあっという間に元気になれた。


 そして、3日程経ったある日の事。



「(……)」「(……)」「(……)」



 茂みの奥から、大きな生き物の気配がする。感覚からして3体程居るだろう。私は幹の影に隠れながら、生き物を待ち構えてみる事にした。


「ギィギィ(ナンカイルゾ)」


「ゲッゲッ、ギィギィ(サッキアカリミエタ、テキカ?)


「ギィ(ソットチカヅケ)」


 ギィギィと鳴きながら近付いて来た生き物の正体は、まるでゲームに出てくるゴブリンのような見た目をした生き物だった。


 人間より背は低く、肌は真っ青で身体中に白い模様がある。腰にはボロボロの布切れを身につけ、手には鉈のようなものを握っていた。


(この子達、もしかして魔物かな……?)


 3日動き回ってようやく見つけた知的生命体だ。折角なので私は、このゴブリン達と交流してみる事にした。


『あの〜、こんにちは〜……』


「ギャッ!?(ナンダ!?)」


「ギギッ!(キノウラダ!)」


「ギギッギギ!ゲッゲ!(サッキノアカリダ!)」


『そうです、光る玉です。あの、少し話を……』


「ギャッギギッ!(コイツツカマエロ!)」


『えっ?いや、私は皆さんと話を……』


「ギャッギャッ!!(タタキオトセ!!)」


『えええっ!?ちょっ、武器振るのやめ……!』


「ギャッギャッ!!(トラエロ!!)」


『やめて!!攻撃するのやめて!!!』


「ギギーッ!!(ツカマエロ!!)」


 前言撤回!あいつら知的生命体なんかじゃなかった!心が分かるのにまるで会話が成立してない!!


 ゴブリンは私の発言を無視して次から次へと攻撃を仕掛けてくる。私は頑張って高い所まで飛んでゴブリンの猛攻を避けるが、相手はジャンプしたり武器を投げたりと、工夫を凝らして私を叩き落とそうとしてくる。


(こんな事なら話しかけるんじゃなかった……!)


 と、自身の軽率な行動を後悔していると……



シューーーーー!



「ギャッ!?(ナンダ!?)」


「ゲーッ!?グェッ!?(ケムリ!?カジ!?)」


「ギャーッ!?(ナニモミエナイ!?)」



 突然、周囲を濃い煙で覆われてしまった。しかも、ゴブリンに気を取られて気付かなかったが、近くに1匹の生き物の気配も感じ取れた。


『うわっ!?』


 その生き物は私の身体を掴んで牢屋のような物の中に入れると、その場から一目散に走り出した。


(何!?私何に捕まったの!?)


 慌てて牢屋の外を見るが、生き物は牢屋を両手に抱えて走っている所為か視界が非常に悪く、外がどうなっているのかは全く分からなかった。唯一分かったのは生き物の荒い息遣いだけだ。


 やがて生き物は足を止め、私を閉じ込めていた牢屋の戸を開けてくれた。


(い、一体何が起こって……?)


 私は恐る恐る牢屋から出ると、そこには……


「もう大丈夫だよな……君、大丈夫?怪我は無い?(無理矢理掴んだのは良くなかったかな……)」


 なんと、私が必死に探し求めていた人間が目の前に居た。


 彼は中々にガタイが良く、茶髪にグレーの目、格好は丈夫そうな布の服、腰にはポーチと大きな剣を提げている。この格好からして彼は恐らく旅人なのだろう。


 後、私を閉じ込めていたものは牢屋ではなく、火のついていないランタンだった。


『だ、大丈夫です……あの、助けてくれてありがとうございます!』


「おっ!君は話が通じる上に喋れるのか!?まさか返事が返ってくるとは思わなかったよ。君、この辺はブルーゴブリンの縄張りだからあまりうろつかない方がいいよ!(この子、賢そうなのに何でこんな危ない場所に居たんだろう……)」


『はい!次からは気をつけます!!』


 しかもこの人、結構優しい性格をしているみたいだ、これはチャンスかもしれない。まずは手始めに、私の特技をアピールしなくては。


『あの!折角なのでお礼をさせて下さい!この辺は結構薄暗いですし、灯りの代わりとか出来ますよ!貴方が望むならもっと光れます!』


 明かりの調整は結構簡単で、最弱から最強まで自由自在だ。だが、最強は辺りが見れなくなるぐらいに眩しく光る上、長時間維持するのは物凄く大変だ。


「明かりかぁ……申し出は有り難いけど、この辺で明かりを点けるのはちょっとね……(魔物に見つかっちゃうしなぁ……)」


『生き物の気配もある程度感知出来るので魔物避けにもなりますよ!』


 気配に関してはテレパシーで遠くの生き物の感情を察知してある程度理解する事が出来る。


「そうかい?じゃあ出口までついて行って貰おうかな?(中々素直で可愛い子だな、せめて安全な場所で保護とかできないかな……)」


 (この人、ずっと私の心配してくれてる……何だか雰囲気も良い感じだし、中身も凄くいい人みたいだ……!)


 こうして、私の生まれて初めての小さな旅が始まった。私はランタンに入り、必要な時にだけ強く光って辺りを照らしたり、遠くの気配を察知して旅人に警告したりした。



そして……



「本当に魔物に遭遇せずに出口まで来れた……!」


 私達は魔物に一切遭遇する事無く、無事に森の出口にたどり着いた。初めてにしてはかなり上手に出来たと思う。普段から生き物探しの為に、テレパシーを利用して辺りの気配を探っていたおかげかもしれない。


『良かったー!旅人さんが無事で本当に良かったです!!』


「ありがとう!君、以外と凄いんだね……!(ブルーゴブリンにちょっかいかけたら、怒って群れ総出で敵を探し回る筈なのに……!)」


『えへへ、それほどでも〜!』


(よし、此処で旅の付き添いの話でも……)


『そうだ!あの、実は……』


「ちょっと、そこのアンタ!」


『ひいっ!?』


 私が本題を切り出そうとした瞬間、女性の鋭い声が私達に飛んで来た。


 この時の私は気を抜いてたから、背後から来る生き物の気配に全く気付けなかった。


「マルク、少しいいかい?」


 茶髪の旅人に声を掛けてきたのは、赤髪の美人な女性だった。

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