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病室

「そ、そんなことはどうだっていいんだ!」

 柏本が突然大声を出した。



「問題はぼくの躰だよ! あしたはどうなるか。ぼくがシンタイになるなんておかしいだろ! なんで、優秀なぼくがこんなみっともない無様な躰にならなきゃならないんだ。このままじゃ済まさないぞ、こんなことが続くならママに言って、知ってることを洗いざらい報道してもらうからな。何とかしろよ! もう!」

「その点は安心してください。今夜は私たちが寝ずの番をします。何か異常があればすぐに対処します」

 優貴はこれ以上の情報は引き出せないと判断して切り口上に言った。腰を上げる。

「ま、待てよ。本当だろうな。本当にあんたたちで対処できるんだろうな」

 柏本が躰を起こして問いかける。だが、優貴と莉愛はすでにドアを開けていた。

「やれることはやりますよ。無様かもしれませんけど」

 優貴はそう言うと病室を出た。


 五時間後、莉愛と優貴は病院の駐車場に停めたマツダ2の車内でモニターを見つめていた。夜、十時を過ぎている。

 コンソール中央のマルチファンクションモニターに映っているのは、柏本の病室だ。

「カルテでは柏本の傷は完治している。左眼破裂痕、鼻梁および口唇部裂傷痕はあるけど、痛みを引き起こす薬物などは検出されていない」

「つまり、暴行を受けた形跡だけがあるってことか」

「うん」

「変な話だ。フュシスで復元しないってのは」

 フュシスによる肉体再生復元力は圧倒的なのだ。F35の25ミリ砲弾に吹き飛ばされた左腕だって元通りに再生する。そんなことあるかって? 信じられないことにあるんだ。経験者のおれが言うんだから間違いない。

「じゃあ、他の組織かな?」

「それも考えにくいな。再生してないとしても柏木の傷は治ってる。あれだけの暴行を受けて、一晩で治るなんてフュシスしか考えられない」

「確かにね。でも、マシアスの目的はなんなのかな?」

「それも謎だな。第一、暴行を加える理由がよく判らない。フュシスを受けてマシアスになった人間は上位者に絶対服従だ。暴力に訴えなくても、想いのままに操ることができる」

「なんだか嫌な想像しちゃうね」

「ああ」

 二人はそれを言葉にせずにおいた。手慰みや時間つぶしに下位の者に暴力を揮うことは人間ならよくある話だ。

「それに、どうやって柏木を痛めつけているかも判らない。おそらく、夜中に呼び出して痛めつけて帰すんだろうが」

「上位の人がしゃべるなと言われればしゃべれないしね」

 莉愛がモニターを見つめる。

「柏木さん、何とかしてあげたいけど」

「けど?」

 優貴は莉愛を悪戯っぽく見た。

「やる気がなくなるのだ」

 莉愛の正直さに優貴は笑い出した。

「確かにな」

「なんだか、ぜんぶ人のせいなんだもん。正しいのは自分で悪いのは周りの人。あたしたちが警護するのも当たり前と思ってる。あたしたちは警備犬じゃないのだ」

「ワンワンって鳴こうか、マシアスが来たら」

「あはは。それいいかも」

 優貴の冗談に莉愛が笑顔になる。

「仕方がないさ。人を自分の道具にしか見られない奴ってのはいるからな。それに」

 優貴は口角をあげて莉愛を見た。

「保護対象がどんな奴だっていいのさ。おれたちは感謝してもらいたいからやってるわけじゃない」

「あ、そりゃそうだ。そうだった。やりたいからやってるだけだ。愉しもう」

「そういうこと」

 優貴がそう言ったとき、モニターの中で柏本が動いた。枕元のスマートフォンを手に取る。

「逆探知は?」

「無理なのだ。向こうのスマホにスクランブルがかけてある」

「だろうな」

 その間に柏本は一言二言、話をすると通話を切った。ベッドを降りてクローゼットからチノパンとトレーナーを取り出し、ボア付きのダウンコートを羽織る。


次回のアップは8/1の5PMです。

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