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四ッ谷4

「柏本はわれわれの情報提供者アセットなのだが、四日ほど前から、暴行を受けている」

 モニターの画像がスライドし、変形した胸部が現れた。胸の中央が陥没している。

「莉愛」

 優貴は手を伸ばし、莉愛の頭を抱えた。小さな顔を自分の胸に押し付ける。

「見るな」

「うん」



 案の定、次に現れたのはきつい映像だ。つるっとした面長の顔が変形し、左目が潰れていた。

「そして、これが今朝の状態だ」

「うっ」

 最後はもっときつかった。まっすぐだった鼻筋は曲がり、口唇が捲れ上がって歯茎が剥き出しになっている。不思議なのはこれが四日間で行われたことだ。いずれも全治にはひと月以上かかる傷に思えるが、すでに完治している。むろん、肉体の変形という後遺症は残っているが。

 アダムスのアバターも同じことを言って、マシアスの関与を匂わせた。

「肉体の損傷の急速な治癒は、柏本がマシアス化、つまり不死身化している可能性を示唆しているが、問題は肉体の復元がなされていないことだ。また、加えて、昨日から柏本が激痛に苛まれるようになったこともある」

 アダムスは柏本が肉体損壊の恐怖と痛みに錯乱していると続ける。そりゃそうだろう。目が覚めるたびに面相が変わるだけでも気がおかしくなりそうなのに、次には痛みも来たのでは正気を失う。

「現状、柏本を失うのは得策でない。博通による世論誘導には彼の力が必要なのだ。ゆえに、柏本がこれ以上の被害を受けないように保護することをお願いしたい。むろん、保護の過程でこの怪現象の解明とマシアスとの関わりが明確化されることも期待する。当局は、この依頼の了承と速やかな実行を望む。なお、君あるいは君の仲間が作戦行動中、捕まり殺されても、当局は一切関知しないものとする」

 動画が停止する。悪ノリしてても最後は本気だな。絢の野郎。

「ひどい話だ、これ」

「ああ」

「で、どうするんだい?」

 胸に顔を押し付けていた莉愛が、顔をあげて優貴を見た。

「こういうのは知っちまったら、ほっとけないわな」

 莉愛がにっと笑う。

 それで決まりだった。


「その女性、秋吉瞳と出会ったのが一週間前ってことですね」

 優貴と莉愛は柏本勇が緊急入院した病院を訪ねていた。鎮痛剤を投与され、ベッドに横たわった柏本が何とか答える。

「え、ええ。そうです。それ以来、瞳は毎日僕のマンションに来ていました。だが、四日前から来なくなった」

 大きく捲れ上がった口唇のためにうまく発音できない柏本が不明瞭な声で答えた。

「そのかわり、朝起きると躰に異常があった」

「そ、そうです。起きるとこんなことに……」

 初めのイケメンの画像とはまるで違う面相になった柏本がふたりを見る。鼻が無残に折れ、左目が潰れて陥没している。口唇が捲れ上がっているために絶えず流れ出る唾液をガーゼで押さえている。

「四日前の夜から何か変わったことは?」

「変わったこと? 変わったことなんかありません。ぼくは普通にベッドに寝て起きただけだ。なのに、こんな、こんな目に遭うなんて」

 柏本が頭を枕に叩きつけた。そうでもしないとやり切れないのだ。

「た、助けてください。明日は右目がなくなってるかも知れない。もしかすると腕をもがれてるかもしれない。ぼくは何も悪いことはしていない。なんでこんなことになるんです。あなたがたCIAに協力してるのだって、国のためを思えばこそです。それなのに、この様だ。いったい今までどれだけぼくがCIAに協力したと思ってるんです。そのお返しはきちんとしてくださいよ。ああ、ぼくの顔を返してください。整形手術の手配はしてくれてるんでしょうね。費用ももちろんCIA持ちですよ」

 話しているうちに興奮してきたのか柏本は途中から吐瀉するように言葉を吐き出し始めた。不自由な口唇で、こんな目にあうのは全部他人のせい、CIAのせいだと繰り返す。バーで秋吉という女に引っかかったのは自分のせいではないらしい。

「秋吉という女と連絡は?」

 優貴は柏本の言葉ゲロの合間を突いて、なんとか質問をねじ込んだ。

「知らないよ。連絡してもつながらないんだから」

「了解です。そっちも私の方で調べます」

「そ、そんなことはどうだっていいんだ!」

 柏本が突然大声を出した。


次回のアップは7/30の5PMです。

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