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四ッ谷2



「だろうな。ディが莉愛を欲しがったのは、フュシスを手に入れて、自身の若返り、マシアスの不死身性を維持するためもあったが、太古の昔のように人を直接支配して『絶対精神』という目標を思い出させ、それに向かわせるというのが最終目的だった。若返って、何不自由ない生活を手に入れるのは手段に過ぎない。すべてを支配し、さらなる自由、完全な自由を手に入れるという目的を思い出させ、それに向かう。マシアスがそれを目的にするのは考えられる」

「『絶対精神の顕現』か」

 絢が嘆息する。

「多くの人は忘れてるかも知れないけど、アメリカのパワーエリートは忘れてない。『理性によって世界を自分の分身とする、すべてが思い通りになる絶対的自由の世界』の達成。それはつまり、自由、平等、友愛の世界、神の国の達成。アメリカの理想よ」

「だな。欧米の支配層は、ディと同じものを目指してる。さっき出た科学的に若さを手に入れようとすることも、寿命という不自由を失くそうとすることだし。まぁ、なにより、金儲けってのは不自由を失くそうとすることだ」

「だから、成長と収益性を目指したグローバル資本主義が加速してるんだ。徹底した金儲けをして、その先にある『絶対精神』を目指してる」

 莉愛の言葉に二人はうなづく。

 ユーラシア大陸の西方で太古の時代にディたちに提示された知的生命体の究極理想イデア=『絶対精神』という目標と、その後伝授された『神の知』という方法によって、世界は西欧に席巻された。彼らの子孫ともいえる世界のセレブたちがあくなき金儲けと、そこで出た収益を宇宙開発などに投資するのは当たり前のことだ。世界のすべてを知って、不自由を失くす=思い通りにするというのが目標なのだから。

「その点に関しては、マシアスは高みの見物を決め込んでもいいが、まぁ、何かにつけ手を貸すのは間違いない」

「怠惰と無能の切り捨てね。昔ながらの」

「禁酒法から始まる奴だね。今は、新自由主義と名乗っている」

「お、よく知ってるな。莉愛」

「えへん。これでも西洋史学科です」

「とすると、マスアスが積極的に、動くのは勤勉だが『絶対精神』に向かわない、繁殖するだけの連中に対してね」

「ああ、その人々に『絶対精神』という目標を思い出させ、奴隷にするのが一つ、もう一つは」

「排除ね……」

 絢の顔が引き締まる。一瞬、マシアスの活動を阻止しなくていいのではないかと思ってしまったのだ。

 ただ自分の欲望を満たし環境を汚染する怠惰で無能な人間は当然だが、自分の安楽のためにだけ勤勉に働き、地球を食いつぶす中産階級なぞも、一掃してしまった方が、アメリカの理想を達成しやすいだろう。

 だが、それはそれで問題だ。あくまでアメリカの理想は自分たちの手で達成されなければならない。人類の主人は人間であるべきだ。

 グローバル資本主義の加速はマシアスと人類の共犯だが、『絶対精神』に向かわない中産階級どもの奴隷化、もしくは排除をマシアスにやらせるわけにはいかないのだ。それをやるのは人間でなければならない。

 絢は奇妙な二律背反アンビバレンツに陥っていた。目標、目的は同じなのに、それを牽制し合わなければならない。マシアスと。

 所詮、主導権争いか。絢の表情が寂しくなる。

「ところで、質問!」

 突然、莉愛が手をあげて見せた。絢は莉愛の繊細さに躰が温かくなる。莉愛は絢の寂しさを感じ取り巫山戯たのだ。元気づけようとしてくれている。

「はい、莉愛君」

 優貴は莉愛を指さした。

「前から疑問だったんだ。何でディは人類を導いて一緒に『絶対精神の顕現』を達成したいんだろう?」

 莉愛がは小首をかしげて優貴を見た。さらに、自分たちだけで達成すればいいのに、と続ける。

「そりゃ、ディが寂しがり屋だからだろ?」

「違うのだ、あいつは」

 莉愛が言下に否定する。莉愛は以前ディに酷い目に遭っている。

「まぁ、真面目な話、全世界、全宇宙と言ってもいいけど、『絶対精神』ってのは、そのすべてを使って作らないと、すべてが思い通りになる、不自由のない世界にならないからな。人類は部品や道具として必要なのさ」


次回のアップは7/26の5PMです。

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