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東京メトロポリタン美術館4


17


「そんなときに柏本が近づいてきました。電力会社の専属カメラマンの仕事をやらないかというんです。私としては一も二もない。ようやく腕が認められた、収入も安定すると喜んでいた。しかも、しばらくして出品していた『夏空』も内閣総理大臣賞を獲ったんです」

「よかったな」

 葉柴が満面の笑みを見せる。

「ええ。でも、この話には裏があった。受賞の知らせを受けた次の日、柏本から父を紹介しろと依頼されたんです」

「……」

 優貴は先を促した。

「実は、私の父はミュージシャンの山上虎二です」

 葉柴は優貴の表情を伺った。何度も瞬きする

「悪いが、おれは音楽に詳しくなくてね」

 優貴は微かに左口角をあげて応える。

「そうですか」

 期待した賞賛の反応を得られずに、葉柴がうつむく。

「ただ、認知はされていません。なので、私はそれを隠して活動していたんですが、大分前にぽろっとそれを誰かに話したことがあります。それを聞きつけた柏本が私に父を紹介しろと言ってきた」

「それで?」

「認知されてもいないのに、紹介できるはずがないでしょう?」

 葉柴の声のトーンが上がる。

「まぁ、そりゃそうだ」

「それは無理だと断ったんですが、柏本はなかなか引かなかった。柏本は父を引っ張り出して俗っぽいCM用の音楽を作らせるとスポンサーに大見得を切ってたらしいんです」

「見切り発車か、広告屋にはありそうな話だな」

「ええ、ですが、出来ないものはできません。断り続けていたら、ある日、柏本が血相変えて現場に乗り込んできました」

「柏本はなんと?」

「私が、私がウソを吐いているというんです。山上の息子なんて大ウソだ。本当の息子は一人しかいない、しかもフランスで画家をやっていると」

「……」

「激高した柏本は、私から仕事を取り上げると叫びました。そして……」

「そして?」

「おまえの大したことがない写真に、大賞を獲らせてやったのになんてことだ。裏から手を回すのにどれだけカネがかかったと思ってるんだと……柏本は、柏本のやつは言った……しかもスタッフの前で」

 その時の怒りか、屈辱か、それとも気恥ずかしさか、おそらくそのすべてがぜになった情動に肩を震わせて葉柴が唇を噛みしめる。

「仕事のことなんてどうでもいい。前の生活に戻るだけだ。でも、おれの写真を、おれの作品を汚した。許せない、絶対に許せない」

 優貴は黙って肩を震わせ身悶えする葉柴を見詰めた。批判の色は一片もない。ただありのままを受け入れる眸で葉柴を見つめる。

「それで?」

「そんな時です。良子様に出会ったのは」

「良子様?」

 どこかで聞いた名前だと優貴は首をひねった。いままでちょっかい掛けて来た女の中に思い当たる名前はないが。

「優貴、昔のこと思い出してるだろう?」

 膨れっ面で莉愛が悋気を作ってみせる。遊びだ。

「思い出さなくていいのだ。良子ってのは内藤隼人といっしょにいた女だ。加藤良子、バロネスだ」

「ああ、絢の話にあったな」

「あなたがたは良子様を知っているので?」

「ちょっと、縁があってな」

 優貴は話を戻すために葉柴に先を促す。

「良子様は言うことを聞けば復讐させてやると言って、わたしをマシアスに誘いました。そして、私は不死身の躰を手に入れた。良子様の麗人スロールになったんです。」

「なるほどな」

 優貴はそう言って立ち上がった。後の話は聞かなくても判る。フュシスを与えられた麗人スロールは上位の者たちの命令には絶対服従だ。女マシアスたちの男漁りの手伝いや殺人稼業ウェットワークをさせられたのだろう。そのために格闘技も身に着けたというところだ。だが、まだ一つ疑問が残る。

「で、柏本はなぜマシアスに?」


次回のアップは8/21の5PMです。

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