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芝浦倉庫4


12


 紅蓮の炎に優貴のショート丈のダッフルが焦げ、榴弾片が穴を穿つ。買ったばっかりなのに穴だらけだ。服飾費は経費にならないっての。

 優貴は背中の痛みに歯噛みしながら、葉柴を捕らえる方法を考えていた。


 現場に一番に到着したのはCIAの偽装警察だった。またぞろ、大坂誠が出て来る。まったく仕事熱心なことだ。

「にいさんも、よくもまぁ酷い目に遭いますなぁ」

「好きなんだよ」

「酷い目にあうのがですかぁ」

「ちげえよ、闘うのがさ」

「判ってて言ってます」

 こいつもだいぶ人を食うようになってる。以前は金儲け金儲けとぎすぎすした男だったが。

「で、柏本は?」

「生きてまっせ」

 優貴は莉愛を見た。

「もう少しなのだ。待て」

 腰から背中の中ほどにかけて包帯を巻いてくれていた莉愛がそれを固定する。早くも血が滲んできているが贅沢は言っていられない。

「いいぞ」

 莉愛の許しが出て優貴は立ち上がった。担架に乗せられた柏本に近寄る。

 全身に火傷を負い、榴弾片が刺さっている柏本が薄目を開けた。裂けてしまった口唇が動く。

「殺せ、あの嘘つきのチンピラを殺せ」

 優貴は渋い顔をした。どうしてどいつもこいつも、人を強制しようとするのか。

「悪いがおれは殺し屋じゃないんでね」

 優貴はそう言うと柏本に背中を向けた。


 マツダ2のトランクから新しいシャツとジーンズを取り出して着替える。備えよ、常にだ。急なお泊りに備えて用意してあったのだが、こういうときにも役に立つ。

 シートに座ると優貴は絢に連絡を取った。流石に背中が痛む。

「ミッションコンプリートね。柏本はぼろぼろだけど生きてるし、葉柴っていうマシアスの手がかりもつかめた。お手柄よ。報酬は現金振り込みでいいわね」

「ああ、それはいいんだが、ちょっとまずってね。おれにとってはコンプリートってわけじゃないんだ」

「あら、どうしたの?」

「矛先がこっちに向いたのさ。で、ちょっと葉柴ってやつのことを聞きたい。どうせ、もう調べてんだろ?」

「いいわよ、でも、請求書出すわよ」

「安くしといてくれ」

「葉柴拓也。東都電力の専属カメラマン。最近、東京メトロポリタン美術館の写真コンテストで内閣総理大臣賞を獲ってるわ」

「そんな奴がどうして柏本に恨みを?」

「う~ん、それは判らないわ」

 絢が困ったように答える。

「あ、だけど、この葉柴って男、かなりのウソつきよ」

 優貴は柏本が経歴詐称のチンピラカメラマンと叫んでいたことを思い出した。

「東都電力と契約する前は特にひどかった。自分を大きく見せるために、大手のIT企業と契約しているとか、優秀な新人カメラマンが出てきたら指導したのは自分だとか吹聴してた」

「なるほど」

 優貴は怒りの奥にあった葉柴の濁りを思い出した。あれは自己欺瞞の不安だったのだ。

「なかでもよく言ってたのは、自分はミージシャンの山上虎二の隠し子ってウソね。まぁ、大きいウソはバレにくいっていうけど、世界的に有名な山上の隠し子とは恐れ入るわ」

 優貴は絢の口調が微妙に変わっていることに気づいた。

「なんだ、直接調べたみたいな口調だな」

「そうよ。柏本にちょっと頼まれて調べてやったの」

「じゃあ、葉柴が嘘つきってのは確定か」

「そういうこと」

 優貴はため息を吐いた。ったく、ひとってのは可愛い生き物だ。

「絢、葉柴のトレースは?」

「それが」

 絢がめずらしく言い澱む。

「それが見失ってしまって。葉柴はIRシステムを潜り抜ける方法を知ってるみたいね」

「了解」

 優貴はそう言うと絢にもうひとつ頼みごとをする。これで報酬はパアだ。逆に請求が来る。


次回のアップは8/11の5PMです。

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