狩場
神々の顕現https://ncode.syosetu.com/n3979hu/の続編第2弾です。
前作シオファニィ、スロール1を読まなくても、できるだけ愉しめるように書いています。
敵は、神の眷属、不死身のマシアスたち。
シオファニィでは描き切れなかった『絶対精神』とはなにか? それを達成するため太古の昔からマシアスが何をしてきて、そして、何をしようとするのかを描いていきます。
主人公の田村優貴と前田莉愛のところに持ち込まれる事件をどう解決していくか?が読みどころです。
神々の麗人シリーズは、中編を連作で書いていくつもりでいます。原稿用紙100枚前後の短いものですので、気楽にお愉しみください。
隔日で5PMアップの予定です。
神々の顕現
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神々の麗人1 (続・神々の顕現)
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1
エレベーターの電子音が廊下に響いた。ドアが開き、二人の男が下りてくる。片方はベージュのステンカラーコートにネクタイをしたビジネスマン。大型のキャリーバッグを引いている。もうひとりは黒革のジャケットにTシャツ、胸元にはシルヴァーのじゃらじゃらしたアクセをぶら下げた小男だ。
たまたまエレベーターに一緒になったとしか考えられない取り合わせだが、ふたりは廊下を同じ方向に進むと、同時に立ち止まった。
ステンカラーが目の前の部屋のベルを押す。
ドアの向こうで人が動く気配がすると、すぐにドアが開いた。
男ふたりが同時に息をのむ。
ホテルの薄明りの中、全裸の女が立っている。
長身で細身の躰に豊満な乳房が誇らしげに実っている。贅肉の着いてない削げたような下腹が艶めかしい。
「時間通りですね」
男たちの視線にさらされた乳首を女が左手で隠した。整った顔に僅かに羞じらいが現れる。男たちが喉を鳴らす。
「生贄は気を失ってます。後はお願いします」
女はそう言うと踵を返した。ぷりっと持ち上がった臀がバスルームに向かう。
「お、おい」
その背中にステンカラーがかすれた声をかけた。
「はい」
女は素直にふり向く。
「おまえ、何位だ?」
「あ、あたしは従四位、レディです」
ステンカラーが生唾を飲み込んだ。
「相手しろ」
女の顔にえっという表情が浮かぶ。だが、女は素直にうなづいた。上位の者には絶対服従なのだ。
「でも、あたし、このあと阿部様に呼ばれてます」
ふらふらと女の体に触ろうと手を伸ばしたステンカラーの動きが固まる。
「あ、阿部様に……」
「はい。そのあとでよろしければ」
「あ、ああ、もちろんだ」
女はこくんとうなづくとバスルームにはいる。
「バックの中に名刺があります。連絡くださいね」
そう言ってドアを閉める。
「くそがっ」
ステンカラーがビジネスマンらしからぬ悪態を吐いた。
「行こうぜ」
小男の黒革が奥に進み、ベッドを見下ろす。
背中を向けた肥満漢がシーツにくるまっている。おやじ特有の饐えたすっぱい体臭が鼻を突く。
「こんな奴が、いい思いしやがって」
「命と引き換えだろ、一回きりの快楽だ。大目に見てやれよ」
ステンカラーに黒革が答える。
「さて、仕事にかかるか」
黒革がシーツに手をかけた。
突然、絶叫が響いた。
シーツから転げ出た全裸のおやじがベッドの向こうに落ち、立ち上がる。肥満漢だが、デカい。一八〇以上あるだろう。
「こいつっ」
黒革が戦闘態勢に入った。腕を上げ、ムエタイガードに構える。
「く、来るな! 何だてめえら、美人局か!」
ヒキガエルのような顔をした薄毛のおやじが、黒革を見下ろす。小男と見て勝てると踏んだヒキガエルが、両手をめちゃくちゃに振って黒革に迫る。滅多矢鱈な攻撃でも当たれば黒革は昏倒する。なにしろ身長差で二〇センチ、体重差なら三〇キロはある。
だが、
「げほっ」
ヒキガエルの顔が苦悶に歪んだ。
黒革の猛烈な爪先がヒキガエルの脇腹に突き刺さっている。
ヒキガエルが膝を折り、その場に突っ伏した。ボディに攻撃を受けると息ができなくなる。悶絶の苦しみだ。
ぷ~んとアンモニア臭が漂った。失禁したのだ。
「汚ったね」
黒革がヒキガエルを見下ろす。
と、もの恐ろしい嗜虐の笑いがその顔に浮かんだ。無抵抗な人間を痛めつける快楽を知り、機会を逃さない人間の笑いだ。
「だいぶトレーニングを積んでるんだな」
ステンカラーが黒革を感心したように見た。
「当り前じゃねえか、俺らはのんびり過ごすために、力と権力を持ってるんじゃないんだぜ」
「確かにな。私も精進するよ」
ステンカラーがそう言うと、黒革がヒキガエルに視線を戻す。ヒキガエルはまだ動けない。