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令嬢は独り言にて黒を纏う

作者: さち

勢いで書いたものなので何も考えず読んでいただけると思います。


よろしくお願いします。


評価、ブクマ、いいね、誤字報告ありがとうございます!

皆様ごきげんよう、わたくしビネガー辺境伯家の末娘の

メリッサ・ビネガーと申しますの。


ええ、名前で察して下さった通り我が家はビネガーが特産ですのよ。健康志向のご夫人、ご令嬢から御贔屓にして頂いておりますわ。

最近はビネガーサワーなるお酒も生産しておりまして、紳士の方からもご好評頂いております。


さて、この度デビュタントを迎え生まれて初めて王城に来ておりますの。

皆様ご存知かしら、王城はすごいのですよ。

重厚な佇まいなのに、柱にも壁にも天井にまで至る所に彫刻が施されておりますの。品がない…コホン、いつの様式だったかしら?

後で手を加えている?あら、そうですの。下品だなんて、フフフ…


カーテンも派手な刺繍がされているようですわね。確か二、三年前に流行った柄かしら?

え?五年前?まぁ嫌だわ、忘れっぽくてごめんなさいね?


それにしても、王城の舞踏会なのに薄暗いのではなくて?

?上を見るの?

うそっ、なんでロウソクなの?どうやってつけてるの?梯子を登って?!まぁ危ない!

どうして魔道具を使わないの?高いから?王城なのに?よくわからないわ。


もう何よ、お兄様


「言葉使い元に戻していいんじゃない?誰かに話す時にキチンとしてれば」


「あっ」


ううう…、頑張ってたのにやっぱり駄目ね、付け焼き刃じゃあ。

こんな事でお婿さんなんか見付かるかしら。

末娘なのにお婿さんなんておかしいわよね、でも家族が皆私を溺愛してて側から離したくないんですって。

もちろん私も家族が大好きよ!


我が家は先程言った通り辺境伯家なんだけど、我が領地は大きな港もあるし、隣国にも面しているから貿易が盛んで国への納税が半端ないらしいの。なので扱いとしては侯爵を通り越して公爵扱いなんですって。

寝返られないように必死よね。我が家は忠誠心なんてない商人気質の腹黒だから仕方ないわね。


それでなんだったかしら、そうそうお婿さんね。

五人兄弟の一人娘の末っ子なもんだから皆私が可愛くて仕方ないらしくて、お父様の持つ伯爵位をあげるから婿を取れって言われたの。

私も家族と離れたくないから嬉しかったけど、王都に来てびっくりしたわ。

だって私たちを田舎者扱いするのよ?おかしいわよね?


今ご令嬢方が着てるドレスなんて去年家の領地で流行った物よ。

出されてる軽食も食べ飽きた物だし。飲み物は、それビネガーサワーよ。

あら?あのご令嬢が自慢しているネックレスはいつの型落ちだったかしら。


プリプリしている私を宥めるように微笑んで、果実酒を渡してくれるお兄様。

やだノンアルコールじゃない。私今日から大人よっ。

そう言うと人差し指をちょんと鼻に当てて「私たちのかわいいお姫様が酔っては大変だからね」って言うのよ。失礼しちゃうわ。


そして側のご令嬢方の黄色い声。うるさっ。

お兄様は見目麗しいから仕方ないけど。

それでもねビネガー()()()って知ったら尻込みするのよ。

田舎はちょっと…みたいにっ。

お父様とお母様に似てお兄様たち皆見目がいいのにこんな感じなの。


でもいいわ、今日エスコートしてくれている一番上のお兄様は四年前に結婚したお義姉様とラブラブだもの。ラブラブ過ぎてただいま三人目を懐妊中でお留守番してるんだけど。

留守番と言えば領地を離れられないお父様が泣いてたわ。

他のお兄様たちも付いて来たがってたけど、一番上のお兄様から仕事を押しつけ…言付かって諦めてたわ。

勝てるわけがないからよせばいいのにね。

あらやだお兄様笑顔が黒くなってるわ。考えてた事がわかったのかしら怖いわ。


あ、ほらあちら今度お取引する侯爵家の次期様じゃないかしら?

「よくわかったね」って頭をそっと撫でられたわ。子供扱いだけど嬉しいものね。

ご挨拶に行くの?じゃあお邪魔だからこの辺に居りますね。

知らない人に付いて行っちゃあダメって、私デビュタントしましたのよ!

笑いながら離れて行くお兄様の背中に扇で隠して舌を出したら背後からクスクスと笑い声が聞こえたから振り向いたら、懐かしい顔があったの。


「お久しぶりね。デビューおめでとう」


「ご無沙汰、そちらこそデビュタントおめでとう」


慣れないカーテシーをしたら、ボウ・アンド・スクレープで返してくれたお母様の従姉妹の三人息子の末っ子、私と同じ年の再従兄弟だった。

赤髪に金色の瞳。目立つ容姿をしていてお兄様たちとは違うかわいい系って言うのかしら?

でも中身が真っ黒なのを私は知ってる。

長期休みの度に一番上の再従兄弟と一緒に我が領地に来て、お兄様たちに師事してたもの。

年々腹黒になるのにおば様たちは喜んでいたけどいいのかしら。

まぁ、来てくれる分には私も嬉しかったのだけど。

何を隠そう一緒に来てた一番上の再従兄弟が私の初恋だったりするの。


お兄様たちと同じ年の再従兄弟が商売っ気を出して腹黒街道を突き進む中、彼だけは物静かに本を読んだり、畑に出て植物を観察してた。知的な眼差しがとても素敵だったわ。

そうそう、畑の植物の病気を見付けてくれて被害が最小限に収まった事もあったわ。

思えばあの時「お婿さんに欲しいっ!」って思ったのよね。

だけど嫡男だしもう婚約者がいてすぐに失恋したんだったわ。


いえ、まだ失ってないわね、だってまだ好きなんだもの。

勝手にだけど私がまだ好きなら失った事にならないわ。

そう思いながら、色彩は違うけど面差しが似ている同じ年の再従兄弟の顔を見ると不思議がって小首を傾げた。この仕草とても似てるわ。

彼はこの国では珍しい黒髪黒目だからもっと落ち着いた感じなんだけど、そこがまたいい。お兄様たちは痘痕も笑窪って言うのよ、失礼よね。


なんとなくお兄様を探すとその手前、フロアの中央に黒髪の男性の後ろ姿を見付けてドキッとしたわ。会いたいなぁと思ってたからかしら。

顔が熱くなって扇で扇いでいるとその黒髪の男性に向かい合った男女の女性の方から怒鳴り声が聞こえたの。はしたないわね。と思ったんだけどそれより内容の方にもっと驚いたわ。


「婚約を破棄しますわっ!」


って聞こえたのよ。それで私ピンっときたのよね。

これはデビュタントのパーティーの前の余興だって!


だってね平民向けの劇の演目にあったのよ、夜会で婚約破棄して断罪するの。そして真実の愛で恋人と結ばれるってメイドのメアリーが夢中になってたもの、覚えてるわ。


それにしても変ね、女性のあの鮮やかなコバルトブルーの髪色。あれは王家独特の色のはず。

同じ年の再従兄弟に確認するとやっぱり私たちの一つ上の末の姫様だって。

なんてこと!姫様自ら私たちデビュタントをお祝いして下さるのね!


でもそれにしては衣装が失敗よね?わざとかしら?

だってコバルトブルーの髪色に真っ赤なドレスなのよ。しかもいい絹を使っているせいか光沢があって目が痛い程なんですもの。

あら?でも隣の多分恋人役の方も真っ赤な髪色にコバルトブルーの衣装を着てるからやっぱりわざとかしら。


ねぇこれってコントよね?なぜ?ってだって、あのドレスの型三年くらい前のだし、いくら恋人役だからって本来あんな目に痛い配色じゃなくもっと工夫するはずだもの。わざと舞台映えするようにしたのよね?


あら再従兄弟も周りの皆様も笑ってるからやっぱりコントなんだわ。

ん?姫様と目が合ったかしら?ファンサっていうのよね?芸が細かいわ。でもファンじゃないのよね。手を振るべきかしら?


さらに険しい表情になって迫真の演技ね。


「貴方は根暗で植物の事ばかりで、しかも弟を虐げてる!更に髪も目も真っ黒で地味過ぎて、わたくし貴方の色なんて着たくもないわ、穢らわしい!」


あらあら?やだ、後ろ姿だったから気付かなかったけど、もしかして彼じゃない!?

えっ?じゃあ、弟って言ってたから、恋人役は真ん中の再従兄弟なの?

うちの領地に来たことがなかったから初めて見るわ。

ということは配役もリアルなのね?!すごく凝ってるのねぇ、残念な方にだけど。


今度は恋人役の再従兄弟がこっちを見たかしら?

ファンサが多いわね。それよりあなたセリフはないの?


「わたくしもう耐えられないわ、解放して頂戴!」


「ああ、おかわいそうに姫様。僕がお慰めして差し上げたい!」


あ、セリフあったのね?そして抱き合わんばかりの二人。盛り上がるところだけど、本当の婚約者でもないのに大丈夫なの?姫様の評判に傷がつかない?折角の余興なのに余計なお世話かしら。


それにしても大体男性の方から婚約破棄するお話が多いけど、こちらは女性からだからちょっと新鮮ねって思ってたけど、内容は余り変わらないのね。…なんだかつまらないわ。

姫様が演じて下さってるのに不敬かしら、内緒にしてね。


ほら、笑ってないでちゃんと観ないと!

盛り上がってきたわよっ。


「貴方が弟にしてきた罪で廃嫡されればいいのよ!」


「兄上、今までのこと謝って下さったら僕は許しますから」


「私は何もしていな…」


「ああっ!なんて優しいのかしら!跡を継いでわたくしが嫁ぐのは貴方しかいないわっ!」


「姫様!」


あっ、本当に抱き合ったわ!

というか彼のセリフ遮ったわねっ?!やっとだったのに!

姫様でも演技でも許すまじよっ!

そんな私の気も知らずに姫様は抱き合いながら最後のセリフをきめた。


「衛兵、この者を捕らえてここから連れ出して頂戴!」


シーン…


誰も動かないし誰も何も言わないけど、終わ…ったのよ…ね?


じゃあ、もう彼の側に行っていいかしら?!

だって前の長期休み以来なのよ!

ご挨拶して、激励しなくっちゃっ!


私は我慢できずに拍手をしながら彼に近寄った。役者に近寄るのは早い者勝ちよね?


「お久しぶりですわ!素晴らしい演技でしたわね!」


私がそう言うと彼が小首を傾げてキョトンとしてる。ああやっぱり同じ年の再従兄弟より四つ上の彼の方が大人なのにかわいいわ。大好きっ。


「ちょっとあなた誰よ?」


姫様が不機嫌そうね。真ん中の再従兄弟も眉間にシワを寄せちゃって…、あら私ったら姫様にご挨拶もなしに無作法だったわね。

姫様からお声掛けされたからご挨拶してもいいのよね?

ちょっと緊張するけど、カーテシー頑張るわよ!


「姫殿下にご挨拶申し上げます。わたくしビネガー辺境伯家の末子メリッサ・ビネガーと申します。

この度はわたくしどもデビュタントの為に素晴らしい演技を披露して下さり感激致しております」


噛まずに言えたわ。なのに姿勢を直していいと言われない。なんでかしら?

ちょっと姫様を窺ってもいいわよね?

そう思ってたんだけど私の後ろから笑い声が近付いて来た。同じ年の再従兄弟だわ。


「くっくっくっ…、メリッサ最高ー!あのな演技じゃないから、本物だから!」


お腹抱えて爆笑しだした。


「そしてお前の思ってることっていうか独り言、皆に聞こえてるからっ」


私はわけがわからず、彼を見ると眉を下げて困った顔をしてる。

そんな顔もかわいい。


ハッ!


じゃあもしかして、私が彼が初恋だとか、大好きだとか言ってたのも聞かれたのっ?!

やだー!!恥ずかしいっっ!

扇を開くのも忘れて両手で顔を覆った。同じ年の再従兄弟がひーひー言いながら背中をバンバン叩いてくる。ちょっと痛いわよ。睨んでいたら姫様がキレた。


「そういうことじゃないのよっ!」


あらまだ、駄々漏れだったのかしら?

彼と同じ年の再従兄弟と一緒に貴族にあるまじき頭の下げ方をする。

商人ではよくあることなのよ。頭下げるのはただだものね。

お兄様も寄ってきたわ。これは後でお説教コースかしら。

そう思ってたのに普通に話し掛けてきたわ。姫様に不敬じゃないのかしら、今更?


「メリッサなんで演技だって思ったの?」


「だって国王陛下主催の夜会なのよ?他国からもご来賓がお越しなのに本気で平民が好む婚約破棄の断罪劇なんてすると思わないじゃない。だから姫殿下直々にデビュタントのお祝いに余興でコントをして下さってるって思ったんだもの」


そう言ったら姫様と真ん中の再従兄弟が益々キレて掴みかかってきた。


「止めなさい!」


私たちに触れる寸前、重い威厳のある声が聞こえてきた。

お兄様たちがすかさず最敬礼をするので倣う。この声国王陛下ってことよね?

姫様も真ん中の再従兄弟も驚いて棒立ちだけどいいの?


「楽にしなさい」


直ぐにそう言って下さった。

国王陛下は王座の前に立ち険しい顔をされてる。お隣の王妃殿下も。

それから視線を下げていくとお母様の従姉妹のおば様と旦那様で宰相のおじ様もいらした。

あら~、あの笑顔だけど目が笑ってない感じお母様とそっくりだわ。

真ん中の再従兄弟死んだわね。

え?私も?やらかしたかしら?


「姫よ、申し開きはあるか?」


「っ!わたくしは正義を貫いたのですわ!弟を虐めぬく輩に嫁ぎとうはございません!」


「兄弟を虐めたぐらいでは罪にも問えぬし、婚約もなくなりはしないが。…証拠はあるのか?」


「彼が虐められたと言いました!」


言ったーーーー!

言っちゃいましたわよっ、演技ではなく本当に言う方がいるとは思いませんでしたわ。

ちょっとお兄様、同じ年の再従兄弟も肩が震えてますわよ。

国王陛下も呆れたのか長いため息をつかれた。


「もうよい。国王主催の夜会を乱した事、王命である婚約を勝手になきものとした事、追って沙汰を出す。二人を引っ立てい」


そう言うと今度こそ、衛兵の方々が暴れる二人を強引に連れていった。

わぁ、やっぱり国王陛下は威厳があるわぁ~。

なんかここまでがお約束の茶番って感じよねぇ~。


気が抜けた私はそんなことを考えていたの。

人生に一度きりのデビュタントでとんでもないことになったわ。

王都は大変だから早く帰りたいわ~。




そう、早く帰れる訳もなく。

姫様も真ん中の再従兄弟も謹慎のうえ再教育する事になったり(もちろん虐めなんてない)、実は同じ年の再従兄弟が家を継ぐ話が出ていて姫様の素行も悪かったので婚約を白紙にする話がすでにあったりして、本当に彼が姫様有責で婚約を破棄したり、そんな中私の彼への想いが駄々漏れだったりして


「本を読んだり、植物の研究をしたりして当主になる能力に欠けている私ですが、貴方を支えるために婿に貰ってくれませんか?」


物静かな彼が顔を真っ赤にしてそう告げてくれたりしたのでした。

私の答えはもう決まってますわよね。



これって棚からぼた餅って言うのかしら。

ありがとうございました。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼



よろしければ他の話もご覧下さい。


○第三王子は慄いた【短編】


○転生攻略者はかく語る【完結済】


○勇者パーティーにハーレム要素は必要か?【連載中】

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