4.トランスジェンダーとは何か?
越境性差とは何か?
性同一性障碍と何が違うのか?
多くの人が気にかかっているだろう。
簡単に言えば、医学的根拠があるのが性同一性障碍で、なくてもいいのが越境性差だ。
「性同一性障碍」は医学用語である。だからこそ診断基準が存在する。例えば、身体に違和感があるだとか、性別適合手術を望むだとか、その意志が持続しているだとか、統合失調症などの精神障碍の可能性がないだとかだ。そして行われるのが治療――ホルモン投与や性別適合手術などである。
つまり、性同一性障碍とは「違う性別へと身体を変えたがる症状」だ。
この症状のある人や、身体を変えて症状を消した人は、「越境性別」と呼ばれる。読んで字のごとく、性別を越境する人のことだ。
一方、「越境性差」とは何か?
こちらは、医学用語でも何でもない。
簡単に言えば、男らしくない人や女らしくない人の総称だ。性自認・性格・服装など、何か一つでも性差を越境していたら越境性差である。
「総称」のことを英語では Umbrella Term という。直訳すれば「傘言葉」だ。なので、越境性差という概念を説明するとき、次の図がよく使われる。
見ての通り、「越境性差」という傘の下に、「越境性別」「両性具有」「異性装者」「Xジェンダー」「女っぽい男」「男っぽい女」などがある。
つまり、女装しただけでも「越境性差」なのだ。
「そんな馬鹿な」と思う人がいるかもしれない。しかし、これは国際連合が提示した定義でもある。
"Transgender (sometimes shortened to “trans”) is an umbrella term used to describe a wide range of identities whose appearance and characteristics are perceived as gender atypical —including transsexual people, cross-dressers (sometimes referred to as “transvestites”), and people who identify as third gender. "
「越境性差(「越境者」とも略される)とは、一般的とされる性差とは外見や特徴が異なる様々な人々を表す総称である――越境性別・異性装者(「越境服飾」と呼ばれることもある)・第三性差など。」(千石試訳)
https://www.unfe.org/definitions/
「ジェンダー」という言葉には様々な意味がある。多くの人が知るのは、「社会的・文化的に作られた性差」だろう。一方で、英単語の gender には「性別」という意味もある。
「gender とは
性、(人の)性、性別、ジェンダー」
https://ejje.weblio.jp/content/gender
越境性差という言葉が作られた当初、この言葉は、社会的・文化的な性差を越境した人のみを指していた。すなわち、越境性別は含まれなかったのだ。
この言葉を作ったのは、ヴァージニア゠プリンスという男である。
プリンスは、一九一二年・カリフォルニア州のロサンゼルスに生まれる。女装を始めたのは、およそ十二歳の頃からだ。二度の結婚と離婚を経験したが、一度目の離婚の原因は彼の女装癖だった。
二度目の離婚の後は、会社員として働く傍ら、「シュヴァリエ」という小さな出版社を作る。そして、女装する異性愛者のための雑誌『トランスヴェスティア』を刊行した。
プリンスが「越境性差」を名乗り出したのは、六〇年代末から七〇年代のことだという。
プリンスが定義した「越境性差」とは、身体を変えず、女装して女性のように生活している人や、男装して男性のように生活している人のことだ。
すなわち、元々は性自認さえ無関係だったのだ。
それがいつの頃からだったのか――越境性別やXジェンダー、「女っぽい男」「男っぽい女」まで、様々なものを含む総称へと変化したのは。
最初、自分のことを「B」だと私は思っていた。ところが「B」と言うには違和感がある。やがてⅩジェンダーという言葉を知ったので、それならば「Q」だと思った。しかし驚いたことに「T」だったのだ。




