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白銀髪の騎士と黒髪の聖女  作者: 桝克人
精霊のゆりかご
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第9話

騎士団から旅の許可を得たニーナとヒューと共に南方へと向かうこととなった。突然の出立にも関わらず、領主のマルセル・ネーゲルは見送りにやってきた。


「聖女様のご出立だというのに、馬車も出せずに申し訳ございません」


長く吹き荒ぶ風の影響か馬たちがおびえてしまい到底役に立たないのだと言う。


「その代わりと言っちゃなんですが、このわが愚息をどうか存分にこき使ってやってください。丈夫さが取り柄ですから」と豪快な笑い声とヒューの背中を力強く叩いた。ヒューは恥ずかしそうにしながらもマルセルの誇らしげな顔に嬉しさが滲んでいた。


「まずはヴェニエス町から東に向かってダンテ町に行ってください。そこで馬車の手配ができるはずです。しかしそれまでの道のりは決して楽なものじゃないでしょう―――いや、そんなこと皆様方においては百も承知か」


聖女の巡礼の旅はいつの時代も決して順風満帆ではないのは、歴代の聖女たちの旅路が伝聞として語り継がれているので誰もが知っている。無論誇張された物語が語られることもある。マルセルを始め、ヴェニエスの住人は今の状況からして十分身に染みている。町周辺の瘴気にまみれた土地に蔓延る魔物の退治で手がいっぱいだ。領主としては、聖女の巡礼に自身の領地の騎士を何人かつけることは大いなる名誉でもある。しかし目下の問題は民の安全だ。


「道中お気を付けください」

「ありがとうございます。必ず戻ってきます」


ヴェニエスの町を出立し、何度か瘴気の獣と遭遇したが、大きな災難に見舞われることもなく、非常に順調な旅路となった。とくに騎士団に所属しているヒューはクリスたちよりも経歴が長いだけあって実戦に強い。


「ヒュー殿はどうして地方騎士を選んだんですか」


一日目の野宿のためにヒューと天幕を広げながら、オリヴィエは尋ねた。身のこなしや戦闘の技術をとっても王都騎士―――いや、聖騎士でもやっていけそうだと思ったままに言う。


「それは買いかぶりすぎですよ。オリヴィエ様やクリス様こそ卒業してすぐに聖女の騎士に任命されたんでしょう。うちのような田舎でも十分名声は届いておりましたが、いやはや噂以上の実力の持ち主だと実感しております」

「流石代々騎士を輩出するレスター家のご子息だ。エネロでの瘴気を浄化したことや、呪術師を追い払った話、聖騎士様方のご活躍で持ち切りですよ」

「それもこれもすみれ様がいらしてこそですよ」

「無論それは承知ですが聖騎士様おふたりのお力がなければ苦難に立ち向かうことは難儀なことです。それに今までになかった脅威…いや我々が知らなかった脅威があるのですから」


それは呪術師のことを指しているとすぐにオリヴィエは察する。瘴気をまき散らす元凶であり、オリヴィエにとってはレスター家自体を滅ぼしかねなかった。それどころかその毒牙は聖女へ、この国をも食らいつくしかねない敵だ。


「実際どのようなものですか、奴らの存在は」

「正直申しますと得体が知れないという他ないでしょう。人の弱みに付け込み懐柔し、自分の代わりに人殺しまでさせるような輩です。しかし実態としてなぜそのような行為に及ぶのか…他国の攻撃なのか反乱分子なのか、それすらもわかっていないのです」


得体が知れないのに、前の聖女であるローズの騎士が洗脳され、ローズは危うく命を落としかけたこと、今は落ち着きつつあるが、全土に渡って瘴気が蔓延していること、また大精霊の居場所まで把握され遺物が穢されていること―――今がどれ程の国難に立たされている深刻さは二人の中では計り知れないことであった。


「エネロでは聖杯が穢されているんでしたよね。ヴェニエスでも同じように聖遺物の穢れが今のような事態なんでしょうか」

「可能性はあります。ですが俺個人の意見ではそれだけとは思えないんです」


オリヴィエの実父でありローズの元騎士であったエリックがペンダントとして身に着けていた鳩のチャームが穢されており、聖杯を介して瘴気を広めていた。風の大精霊がいるフラーメン村がただ瘴気に包まれるだけでなく、村を囲うように瘴気が渦を巻き、それも次第に大きくなる様子は、聖杯を穢す以上の何かがあるのではないか、オリヴィエは嫌な予感がしていた。


「奴らは直接大精霊様を攻撃する術があります。考えたくはないけれど今はどのようになっているか…」

「トレヴァー様もあの神殿に留まっておいでなのに。早くどうにか手を打たなくてはなりませんね」


ペグを打つ音がかつんと一際大きな音が鳴る。

ニーナが聞いた精霊の言葉でイフリートの神殿に向かうことになったのは唯一の手掛かりで小さな希望だ。しかしあまりにも頼りなげな希望であった。イフリートの神殿は決して近くはない。手掛かりがあるのかもわからない。手掛かりがあっても間に合わないかもしれない。帰ったころにはヴェニエス町もどうなっているのかと、不安が心をかき乱していた。

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