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白銀髪の騎士と黒髪の聖女  作者: 桝克人
召喚の儀
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第十八話 異常事態

 行きと違い何事もなく馬車は二日半かけて王都に辿り着いた。一日目の夜はオリヴィエと交代してクリスが寝ずの番をし、二日目はオリヴィエがその役割を担った。すみれはと言うと、とにかく休めるときに休むように言われていたが、慣れない野宿は身体に堪え、うとうとと夢と現実の間を行ったり来たりしていた。二人の騎士は野宿に慣れているとは言え、得体のしれない呪術師の見張りに慣れておらず異世界の少女と同じように浅い眠りしか得られなかった。只一人、呪術師の男だけがいびきをかいて安眠していた。後ろでに拘束されたままだと言うのに器用なものだと呆れるばかりである。


 オリヴィエは縄をクリスに託して先に馬車を降りた。太陽はすっかり昇りきって斜め上から日差しが目をちかちかと瞬かせる。

 城門を警護する王都騎士に通過証を見せた。


「オリヴィエ・レスターです。事前にお知らせした襲撃犯を連れています」


 そう言うと王都騎士たちはざわめきだした。一人の騎士が馬車の中で待つように促した。オリヴィエは全くその意味がわからないまま、言われた通りに馬車へと戻る。後ろから一人の騎士が見張るようにして馬車から目を離さないでいた。


「どうしたの?」

「エネロでレスターの名前を出したからすぐに対処してくれるさ」


 クリスはあらぬ雰囲気を察して訊ねると、オリヴィエは眉をひそめながらも落ち着いた声で言った。その言葉を信じたかったが、どこか妙にざわつく。小窓を覗くと王都騎士が一ミリも視線を動かさないというようにちらをじっと監視している。

 暫くすると一人の王都騎士が男を降ろすようにオリヴィエに命令した。言われた通り縄を持って共に降りると男はすぐに拘束され、二人の騎士が男を引き摺るように連れて行った。それを見て漸く肩の荷が下りたと息をつく三人であった。

 それも束の間、空気が一変したのは、呪術師の男と同じようにオリヴィエも腕を掴まれたのである。


「何をする!」


 オリヴィエの反抗も無意味だと言わんばかりに膝をつかされる。無理に体勢を変えられた痛みに声をあげた。


「オリヴィエ・リリジェン・レスター、貴殿に拘束命令が下されている。大人しくするように」

「オリヴィエ!?」


 馬車から降りようとしたクリスは、見張っていた王都騎士に進路を塞がれてしまい、騎士の肩越しから声をかけることしかできなかった。


「これはどういうことですか?私たちは事前に知らせたように襲撃者を連れて来たまでです!」

「騒がないように!これは正式な捕縛の命令だ」

「彼は何もしていません!聖…彼女の命を狙った男を連れ戻って来たのです。その彼が一体どうしてこのような扱いを受けなければならないのですか」

「ハロルド・レスターの犯行に関与している疑いがある」

「父さんの…?」


 オリヴィエの顔色が変わった。必死に抵抗していたがを聞ハロルドの名前を聞いて力を抜く。


「ハロルド・レスターは聖女暗殺未遂ですでに捕えている。息子のオリヴィエもそれに加担している疑いがかかっているため連行する。反論は後で訊こう」

「そんな…!」


 ハロルド様なわけがない!そう続けたかったが、クリスの頭にある疑問のひとつがまるでその通り(正解)だと示されてしまうと自信がない。だからと言ってオリヴィエまで掴まる理由は、少なくともクリスには想像もつかない。彼はずっと共に切磋琢磨して剣の腕を磨き、騎士を夢見ていた友人だ。聖女を害する一端でも担っているなんて考えられなかった。


「わかりました。抵抗しませんから、押さえつけるのはやめてください」

「オリヴィエ!?」


 オリヴィエは返事をせずクリスを見据えた。これ以上何も言うなと言っている。


「よろしい。ではこれよりオリヴィエ・レスターと、襲撃犯、氏名不詳の男を連行する」


 呪術師の男を二人で拘束したが、オリヴィエは凶悪犯の扱いというように四人の王都騎士に囲まれ連れていかれた。残されたクリスとすみれは呆然とその後姿を見送るしかなかった。そして王都騎士に言われるがままに馬車から降ろされる。


「クリス・ノーブル、おまえも捕えるよう命令が下されている。スカーレット・ノーブルによる毒薬製造、及びハロルド・レスターと共謀している疑いだ」


 残された王都騎士の一人がクリスの手を取ろうとした。しかし明らかに戸惑っている様子が目に見えた。王都騎士は二人の顔を交互に見て、どちらがクリスか判らないのである。


「そ、そのお方は聖女様ですよ!」


 すみれは声を張り上げてクリスの前に、両手を横に大きく広げ立ち塞がった。クリスを拘束しようとした王都騎士はすぐに手を引っ込めて「失礼しました!」と姿勢を正した。それにつられてか、他の王都騎士も畏まって大股で一歩後ろに引き下がる。

 だがすみれはそれ以上何を言っていいのかわからず暫く妙な沈黙が続いた。クリスはすみれの言葉に乗って聖女らしく振舞うべきか考えてはみたものの、それが最善か判断がつかなかった。もし大聖堂に連れていかれてしまっては聖女でないことがすぐにばれてしまう。そう思うと動きが取れなかった。

 次第に王都騎士の方が冷静さを取り戻しつつあり、「本当に聖女様か?」「聖女様ならお体を壊して篭られていると聞いているが」「お忍びで巡礼されていたのかもしれない」「でも黒髪の女(クリス・ノーブル)はローズ様の騎士じゃないぞ?」「やっぱり偽物なんじゃ…」と疑い始めた。彼らの記憶にある聖女の顔と照らし合わせ別人だとバレるのは時間の問題だ。

 このままではまずい。訂正するべきかとクリスが口を開こうとした時、城門の奥から見慣れた顔がやってきた。颯爽と近づいてくる彼の背後には後光が見えた気がした。


「お待たせして申しわけございません。聖女様」


 胸に手を当てて頭をさげたのはマヌエルだった。知った顔を見て二人は顔を緩ませた。対して王都騎士は緊張感を保ったままマヌエルが通る道を開けるために両端に退いた。


「マヌエル様!わざわざ聖女の騎士補佐官殿がこちらにおいでになるとは思ってもみなく…」


 王都騎士はあたふたして要らぬ言い訳をするようにまごつき言った。


「いえ、聖女様が戻られたと聞いたので、駆け付けなくてはと思った次第です。このまま私が中へご案内しましょう。よろしいですね」


 王都騎士は「勿論です」と声を揃えた。


「ではこちらにどうぞ」


 マヌエルはクリスの背中に触れることなく手を回した。すみれはマヌエルを見習って騎士っぽさを少しでも出そうと堂々と胸を張り横を歩く。クリスの方がよほどばれないか動揺していた。歩くだけでもおしとやかさを出すべきか、もしくは逃げるように速足で進むか、頭はパニックだ。


「振り向くな。前だけを見るように」


 クリスが後ろを振り向こうと頭を動かした様子に気付き即座に制止する。

 言われた通りまっすぐ前を向いて歩いた。城門を潜り抜けると、少しだけ胸を撫でおろす。


「このまま私に着いてきてください。悪いようにはしません」


 マヌエルは歩みを止めないままクリスとすみれにフードを被るように指示をする。二人は顔を見合わせた。聖女の騎士が捕まった異常事態に対しマヌエルは心から信じていいかは判らなかったが、ここでどうすることもできないことも理解している。言われた通りフードを目深に被りマヌエルについていくことにした。

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