魔王様と九番目の勇者様
「…む?」
ここは魔法の国。
様々な種族が暮らしています。
森に住み、自然と共にある精霊。
同じく森に住み、人里とも交流するエルフ族。
偉大なる女神ギガとその側付きの大天使フォワードの子孫と言われる彼等は、幸せを運ぶ種族と言われています。
いつまでも──いつまでも──
走れ──走れ─────
身体能力が高く、人懐っこい性質の獣人族は独自に国を持っています。
その他にも様々な亜人と呼ばれる種族が様々な生態で暮らしています。
そんな中、個体の力は大したことないものの策略や悪知恵に長けた人間族と。
個々が強大な力を持つ実力主義の魔族。
二つの種族は長年緊張状態が続いていました。
勇者と呼ばれる者がたびたび現れ、魔族側に血が流れると魔王様は怒り狂って勇者パーティーを虐殺し、人間族への警告として見せ物にしました。
魔族は、自分達から何もしたことなどないのです。人間族は臆病なので"脅威ではない脅威"も排除しようとするのでした。これだからクソ白人はダメなのです。
勇者パーティーを8組も虐殺し、いよいよ全面戦争かという時に9番目の勇者がやってきました。
金髪碧眼、整った容姿に意志の強い瞳
今までの頭のイカれた偽善勇者とは何か違うと魔王様は思いました。
そもそも彼は、マントの下は礼服でした。
帯剣はしているものの、彼が下げている細身のレイピアは宝石がいくつも埋め込まれていて繊細な装飾が施されており、戦闘用というより儀礼の服装の一部といった感じにしか見えません。
何より彼は一人でした。
そして何やら包みを抱えていました。
「私は王国第一王子だ!
これは土産だ!帝国が召喚した勇者の首と聖王国が召喚した聖女の首だ!改められよ!」
王国と言えば、人族主導ではあるもののエルフや獣人も仲良く暮す多種族国家です。
そこの王子が一人でやってきたのも意外でしたが、魔族にとって一番憎き人間至上主義国家である帝国と聖王国の勇者と聖女の首を持ってくるとは誰も思っていませんでした。
謁見の間に通された王子様はとても堂々としていました。
「…一つ聞きたいのだが、帝国と聖王国はどうなったのだ?」
「滅んだ」
魔王様や側近の魔族たちに緊張が走ります
「いや、別に武力で滅ぼした訳ではない
35人…たったの35人の密偵を送り込み世論誘導と印象操作による不安定化工作をしただけで勝手に自滅したのだ
王宮も平民も腐り切った国を壊すなど、武力に頼る必要すら無い」
魔王様達はほっとしました。同胞愛の強い魔族には効かない手法だったからです。
しかしそうなると疑問が生まれます。
何故、王子様は魔族に平穏をもたらすようなことをしたのでしょうか?
「して、貴殿の望みは?
まさか我々魔族の為に善意のみでやったと言うわけでもあるまい」
魔王様の問いかけに王子様は頷き、キリリとした表情で口を開きました。
「理由は2つある
まず一つ目の理由は王太子が内定している弟の妻、つまり義妹がエルフ族ということだ。私もエルフ族とは親交があり人間至上主義の屑レイシスト共は皆殺しにするべきだと常々思っていた
そして最大の理由は、魔族には独自の様々な肉体改造の禁術があると聞く。
可能であればその禁術で私を水中で暮らせるようにしていただきたい」
そこまで話した王子様は急ににへらぁとだらしなく甘々な表情になり、魔王様は思わず頬を染めてしまいました。
「…な、なるほど
其方の愛する者は陸上での生活が困難なのだな」
「そうなんですよぉ〜溺れたところを助けて貰ってからもう大好きで大好きでセイレーン…彼女の両親からも歓迎されてますし───
知略の支配者といった切れ者の雰囲気が霧散し、婚約者にメロメロのおバカと化した王子様を魔王様達は暖かい目で見守ったのでした。
その後海底のルルイエ公爵家に婿入りした王子様は人魚の奥様と生涯イチャイチャ幸せに過ごしたそうな。
めでたしめでたし