第7話 ラブラブ! いつまでも仲良い両親に、わたしは恥ずかしくてポイポイしちゃうの!
「なんだ、さっきの攻撃は! 物理攻撃じゃねーぞ!」
若い大柄な黒髪の男が、大声で文句を言いながら、扉が開いた筒状の機械から出てくる。
「確かに不思議な攻撃。火炎と水の要素を合わせた様に見えましたが、本来打ち消しあう力が混ざって我々の知らぬ力となっていました」
機械の横に立つ、華奢に見える青年は顎に手を当てて考え込む。
「くっそー。もう少しで猫のガキを捕まえられたってぇのに。まさかオレが操るトロールが倒されるなんて……」
「それは貴方が間違って、猫娘とレギーオを一緒に『向こう』へ転送したのが悪いのですよ、ガンダルヴァ」
まだ文句をいう大柄の男、ガンダルヴァを朱色の髪の華奢な青年は窘める。
「じゃあ、おめーなら倒されなかったとでも言うのかよ、カルラ」
「そうですねぇ。ガンダルヴァみたいに力押しでは攻めなかったとだけ申しておきましょうか」
ガンダルヴァを嘲笑するカルラ。
「さて、猫娘とトロールを倒した3人。彼らに監視型レギーオを送りましょう。そして敵の手の内を調べます。イイ加減、結果を出さないと我らもヴァジュラ様、そして皇帝陛下によって処分されかねませんからね」
「そういうこまけー事はカルラ、おめーに任す。今度は遠隔レギーオなんかじゃなくて、直接オレが向こうに出向いて倒してやる!」
「はいはい、実戦はお任せしますね」
ドコとも分からぬ場所でメイ達を狙う者達が居た。
◆ ◇ ◆ ◇
「そうなんだね。ラーラちゃん、大変だったんだね」
「ありがと、まなぶぱぱ」
残業帰りのお父さんに、わたし達はラーラちゃんを保護した事を話した。
「まあ、タカコさんやメイが動物拾ってくるのは、今までにも何回もあったしね」
お父さんは、あっけらかんと事態を受け入れている。
「ごめんなさい、マナブさん。本当なら貴方と相談して決めたら良かったのに……」
遅い夕食を食べたお父さんに、お茶を入れながら謝っているお母さん。
「なーに。どうせナナが『この子助けて』とか言ったんでしょ? さすがタカコさんの娘だよ。タカコさんも、僕と結婚する前に、……」
「マナブさん、それ言わないでー!」
お母さんはお父さんの口を急いで押さえている。
何かお父さんが言ったら困る事が、昔あったのだろうか?
「もう、困ったタカコさんだね。いいじゃないか、優しくなくては生きている資格は無いって言うし。力だけでは解決しない事もあるんだよ」
お父さんはお母さんの手をやさしく振り払い、ラーラちゃんの頭を撫でながら言う。
「でも、……」
しかし、お母さんはまだ何か言いたそう。
「そんなタカコさんには、こーだ!」
お父さんは急にお母さんをハグしたかと思うと、自分の唇でお母さんの唇を塞いだ。
「えー! お父さん、娘が居る前ではずかしーよー!」
「くち、あわせるの、はずかしい?」
「お、俺が居るのを忘れないで欲しいな」
最初、驚きの顔をしていたお母さん、直ぐに眼を閉じお父さんに抱きつく。
そんな様子を、わたしは思わず眼を両手で隠しながらも、隙間から見ちゃう。
そして、ラーラちゃんは不思議そうにお父さん達を見る。
お兄ちゃんは、急いで視線をお父さんから外して顔を赤くする。
……いつまでも仲がいい夫婦なのは良いけど、わたし困っちゃうのぉ! まさか、わたしに妹か弟が出来ちゃうの!
既にわたしは、どうやったら子供が生まれるのかは知っている。
お父さんとお母さんが愛し合った結果が、わたしというのもよーく理解している。
しかし、思春期真っ只中の子供達の目の前で、堂々とキスするは控えて欲しいのも本音だ。
「もう、貴方ったらぁ」
キスを終えたお母さんは、顔を赤くしながらも満更でもない表情。
「少しラーラちゃんの話を聞かせてね。僕も興味あるし。ラーラちゃん、いいかな?」
キスを自分から仕掛けたのに、なんでもない風のお父さん、ラーラちゃんに話しかけた。
「うん、いいよ」
「じゃあ、どうやって『こちら側』に来たのかな?」
「わたし、ほろんだくに、ひめ。ていこく、こわい。わたし、にげた」
とつとつと拙い日本語で説明を始めたラーラちゃん。
彼女の話をまとめると、
ラーラちゃんは獣人が住む国のお姫様。
ヒト族が支配する帝国がラーラちゃんの国へ攻め込んできて、ラーラちゃん以外の王族は全滅。
辛くも逃げ延びたラーラちゃんや国の人々はゲリラ的に戦いながら逃げていたけど、帝国が使う兵器、たぶんレギーオ達は強くて仲間の人達はどんどんやられた。
そして仲間とはぐれたラーラちゃんは、偶然レギーオを「こちら側」に転送する現場を見て、一か八かで「こちら側」に逃げる事を選んだ。
後は、わたし達が見ての通り。
今晩わたし達が最初に倒したカクタス型と一緒に転送されたラーラちゃんは逃亡、しかし追撃してきたトロール型などに追われたところを、わたし達が助けたのだ。
「そうなんだ、よく頑張ったね。なるほど、タカコさんからの連絡時間から考えて、今日の粒子加速ラインが調子悪かったのは、ラーラちゃんが転送されてきたからだったんだね。確かに次元震が起きたら地磁気も乱れてしまうしね」
お父さんが研究所で担当している粒子加速器は、大きな円形をしている。
それは、この円形をした海上学園研究都市「はりま市」の周囲に設置されていて、わたし達はその中で暮らしているんだとか。
……まるで魔法陣の中で暮らしているみたい。
「おとーさんの残業の原因がラーラちゃんだったんだね。じゃあ、今度からおとーさんの実験が上手く行かないときはレギーオが攻めてくるのかも」
「まあ、そこは今後の研究課題かな? 今まではこんな事なかったし。もしかしたら生物が『こちら側』に飛んできたら、こうなるのかもね」
お父さんは、研究者の顔をしてふむふむと唸っている。
「あ、そういえば、どうしてラーラちゃんは日本語分かるの? 異世界で日本語なんて使うはずないよね?」
わたしは、ラーラちゃんに疑問だった事を聞いた。
異世界人と言葉が通じるのは、ラノベや漫画では特に理由がなかったり、ご都合主義だったりする。
……まさか、ラーラちゃんもそうなのかな?
「ことば、ていこくのことば。ひと、おおむかしからいた。でも、くに、ちいさい。ことば、ちがう。ちょっとむかし、たくさん、ひと、こっちから、きた。そのひとたち、ていこく、つくった。そして、ていこく、たたかった。ていこく、ことば、ひろめた」
つまり、わりと最近日本から沢山の人が「向こう側」に行って、帝国を作り上げ、更に武力制圧しながら、日本語を広めていたということになる。
……なんて、困った人達なの! 異世界行って戦乱を広めるなんて!
「じゃあ、あの噂は本当だったのかな? 事故で『向こう側』に飛んだ人がいるって話は」
お父さんには心辺りがあるらしい。
「なに、おとーさん?」
「俺も気になる」
お兄ちゃんも、珍しく気になるらしい。
「確か今から40年近く前になるかな。今の長野市松代の山中、大本営跡に外資系企業の協力で巨大粒子加速器を稼動させるプロジェクトが計画された事があるんだ。それには多くの物理学者が参加したと聞いている」
お父さんが働いている様な粒子加速器は、物理とかいう学問の研究には大事なものらしい。
そして大きいほど凄い事ができるので、世界中で作っているんだとか。
「だけど、加速器起動時に異常・事故が発生して、加速器を中心にして半径数キロがきれいさっぱり消し飛んだんだ。科学界では、やれ『フィラデルフィア実験』の再来とか言われたんだけど、その場に居た科学者がどうなったのかはさっぱり不明。骨やボルトの一本すら事故現場からは一切発見できなかったんだよ」
「『松代消失事件』よね。ええ、わたくし達テルミナスの方でも、おそらく敵の正体はその時に『向こう側』に行った者達が係っていると掴んでいるわ」
お母さんがお父さんの話を裏付ける。
「ふぁぁ」
先ほど軽く夕食を食べたラーラちゃんは、あくびをし始めた。
「メイ、ラーラちゃんをお風呂に連れて行きなさい。そして一緒に温まっていらっしゃいな!」
「りょーかい! さあ、ラーラちゃん、お風呂いくよー!」
「おふろ、なに?」
わたしは、疑問符を頭の上に浮かべているだろうラーラちゃんを浴室へ引っ張っていった。
「今回は設定説明回じゃな。不自然なウンチク書かなくなった分、作者殿は成長したのじゃ!」
今回の科学系の説明は物理学者のお父さんにお任せしました。
そうすれば自然に説明できますからね。
「主人公がウンチクするのは、悪手じゃからな。まあ、科学捜査官たるタケ殿の場合は、しょうがなかったのじゃ。さて、明日はワシ大好物の女湯なのじゃ。本当なら覗きに行きたいのじゃが、作者殿を経由して見るので辛抱するのじゃ! ちゃんと書くのじゃぞ!」
はい、チエちゃん。
R15の範囲内で書けるよう頑張ります。
間違ってもピンク色のナニとかは書きませんから。
「うむ、それで結構なのじゃ! では、ブックマークなぞ頼むのじゃ、読者の方々。さすればこの作品が長編化するのじゃ!」
では、宜しく御願い致します。