第3話 戦闘開始! カニ型バケモノなんてポイポイしちゃうの!
「さあ、現場に着いたわ。あ、お疲れ様です」
お母さんの軽自動車で現場に到着したわたしたち。
既に、現場の後処理の仕事をしている方が遺体らしき青い袋を回収中だ。
「こちらは私達に任せて下さい。カンケルタイプは、この先の交番で警官と戦闘中です」
「はい、ありがとうございます。さあ、2人とも変身して行くわよ!」
「うん、変身!」
わたしは、胸のペンダントを掴んでキーワードを叫んだ。
そして全身が部分的に装甲で覆われた青いボディースーツに変わる。
腰周りにはミニスカート、手足にはガントレットやグリーブ、そして悲しいけど慎ましやかな胸を覆う胸部装甲。
頭部には髪を収納した軽量ヘルメットと情報表示を兼ねた遮光バイザー。
手には身長くらいの槍。
これがわたしの装備だ。
お母さんは、わたしとほぼ同じ姿だけど、胸部装甲の盛り上がりがより立体的でスカート丈もミドル。
そして腰には日本刀、いや太刀と呼ばれるらしい大きな刀がある。
お兄ちゃんは、上半身の装甲が分厚く、篭手も小さな盾くらいの大きさ、肩と腰には鎧武者っぽいものがぶら下がっている。
そして武器は巨大な片刃のグレートソード。
「急ぐわ!」
「うん! おかーさん!」
わたし達は、飛ぶように一気に空中へ跳躍した。
「あ、あそこ!」
空を跳ぶわたしの眼下には、夜の倉庫が見える。
そして、交番に駆け込む女の子と、後からのっそりと追いかけてくるカンケルタイプのレギーオが見えた。
「俺が行く!」
お兄ちゃんは、空中で大剣を降り、一気に加速してカンケルに向かって飛び出した。
「あ、早いよぉ!」
「もうしょうがないわね。気をつけて!」
わたしとお母さんを残して一気にカンケルの前に飛び込んだお兄ちゃん。
警官に向かって振り上げられたカンケルの脚を大剣でがっちりと受け止めた。
「おにーちゃん、カッコいい!」
わたしとお母さんはお兄ちゃんに数秒遅れて、交番近くに着地した。
「邪魔! 早く動け」
お兄ちゃんは、警官の人にぶっきらぼうに言う。
「き、キミはいったい?」
そんなだから、警官のお兄さんはキョトンとしてしまっている。
「だから、早くそこから動け。動かないと俺が困る! 敵に背後を見せるんじゃない!」
なおも無愛想に警官のお兄さんに文句を言う、お兄ちゃん。
……おにーちゃんたら、優しいのにいつも言葉が足りないよぉ。だからフォローのわたし、大変なんだもん。
わたしは、警官のお兄さんの横に行って、説明をした。
「おにーちゃん! ちゃんと説明しないと、お巡りさんも困るよぉ!」
こっちに顔を向けてくれた警官のお兄さんに、私は伝える。
「ここは、おにーちゃんとわたしが抑えます。お巡りさんは、女の子と一緒に早く逃げてください」
「き、キミ達は一体?」
「わたしたちは、バケモノ退治の専門家、テルミナスです!」
わたしは、自分達の所属組織名を言った。
対異界災害対策局、通称テルミナス。
境目とかいう意味らしいけど、内閣府国家公安員会という良く分からない御国の御偉いところ直属の秘密組織。
といっても、近年異界からのレギーオ侵略が多くなってきていて、マスコミにも異界からの敵の存在、そしてそれと戦う組織の存在は公表されている。
……いちおー、公務員扱いなんだってね。だから年金とか生命保険とか介護年金とかを自動で掛けてくれているって。まあ、わたしにはあまり関係ない、遠い未来の話だけど。
「あ、上から存在は聞いています。しかし、キミ達みたいな若いコが……」
「お話しは、後でゆっくりしましょう。今は早く避難なさって下さいませ。わたくしが案内します」
お母さんは、警官のお兄さんに話しかけた後、へたり込んでいた女の子をお姫様抱っこして抱え上げた。
「メイ、それにあーちゃん。ここは2人に任せます。あーちゃんは防御主体、メイは手数で勝負して。無理に一気に勝負に出ないように。長期戦ならコッチが有利よ」
お母さんはわたし達に指示を出して、警官のお兄さんと一緒に避難を始めた。
「じゃあ、おにーちゃん。行くの!」
「ああ!」
わたしは、蟹型レギーオ、コードネーム「カンケル」の後にに回り込む。
カンケルは、お兄ちゃんに前の脚2本を振り下ろしているところ。
身体の構造上、後脚は地面から離すことが出来ない。
わたしの動きに気がついた上半身部分は、こっちに向くけど、私の狙い目はそこじゃない。
「脛ぇ!」
わたしは、いつも部活で叫んでいるようにして槍でカンケルの後ろ脚に切りつける。
上半身は、長い脚が邪魔をして私までは腕が届かない。
「へーんだぁ! もう一撃、脛ぇ!」
同じ場所を狙ってわたしは槍で攻撃する。
ガチリと音がして、脚の半ばまで刃が入った。
「バカ、油断するな!」
お兄ちゃんが叫ぶ。
カンケルは、お兄ちゃんに向けていた脚を元に戻し、地面に突き刺す。
そして私側の脚が、上に振り上げられた。
「だいじょーぶ!」
わたしは、すばやくステップバックをしてカンケルの攻撃範囲から遠ざかる。
カンケルの脚は、さっきまでわたしが居た場所に突き刺さった。
「心臓に悪いぞ、メイ」
そう言ってお兄ちゃんは大剣を隙だらけのカンケルの脚に打ち付けた。
ガキンという音がして、カンケルの脚が一本折れ飛ぶ。
「さっすが、おにーちゃん。わたしもいくよー! 『水流激』!」
わたしは槍、天沼矛の特殊能力を開放する。
天沼矛は、日本神話に出てくる矛、国造りに使った「混ぜ混ぜ棒」。
それと同じ名前をお母さんにつけてもらった槍は、わたしの持つ特性から水属性を持つの。
能力を開放することで、遠距離攻撃や強化攻撃をすることが出来るのだ。
「おい、ちゃんと射角考えろ!」
お兄ちゃんは慌てて避けるけど、わたしはそんなミスなんてしない。
ちゃんとお兄ちゃんに当らない角度で放った水の槍はカンケルの上半身に突き刺さった。
「ぎ、ぎしゃぁぁ!」
目が半分潰れているカンケルが苦痛に吼える。
「じゃあ、俺も! 『紅蓮斬波』!」
お兄ちゃんの大剣、アロンダイト。
なんかゲームで有名になったアーサー王伝説に出てくる剣。
騎士ランスロットの持つ両手剣、みーはーなお母さんがそこから名前を付けた。
アロンダイトを上に掲げるお兄ちゃん。
そこから火炎が吹き上がる。
お兄ちゃんの属性は「火」、わたしとは正反対。
そして振り下ろした斬撃の型、三日月の型の炎が跳ぶ。
そして背後から炎がカンケルを襲った。
「ぎゅ、ぎゅがぁぁぁ!」
上半身から煙を出しながら暴れるカンケル。
「トドメいくぞ、メイ!」
「うん!」
わたしは正面から突っ込もうとした。
「危ないわ、メイ!」
お母さんの声がして、思わず私は突撃を急ストップした。
するとカンケルは、ちょうど私の目の前に脚を降り下ろししていたの。
「あ、あぶなーい」
私は、思わずアスファルトにめり込むカンケルの前脚に眼をやった。
「余所見は厳禁、まだ弱りきっていないわよ!」
お母さんはズンバラリンと後ろ側に残った隙だらけのカンケルの脚を切断した。
これで、カンケルは後ろ側の脚を全部失い、身動きが出来なくなった。
「2人とも属性遠距離攻撃に頼りすぎなの! 最強は物理攻撃、属性を直接物理攻撃に乗せるのならまだしも、ただ『気』を乗せただけの遠距離属性攻撃では、ザコしか倒せないわ。勝つ為のその1、レベルを上げて物理で殴る!」
お母さんのお小言が、わたし達に飛ぶ。
「さあ、メイは前脚を切り飛ばしなさい。あーちゃんは後ろから下半身へ攻撃!」
「はい! えい! 『水月斬』!」
わたしは槍に水属性を足して地面に突き刺さって動けないカンケルの前脚一本を切り飛ばした。
「はー!」
そしてお兄ちゃんの一撃は、深くカンケルの胴体を切り裂く。
「2人ともマダマダよね。トドメはこうするのよ。『つむじ』!」
お母さんは太刀、白虎丸の能力を開放する。
白虎、西方を司る聖獣、四神。
金属と風の属性があるらしい。
ゲーマーでちょっとミーハーなお母さんらしいネーミングとしか言えない。
太刀の周囲に激しい竜巻が起こる。
そしてお母さんは、鋭く踏み込んでカンケルに袈裟懸に切りつけた。
「えい!」
お母さんの妙に可愛い掛け声、しかしその威力は圧倒的なの。
真空波を含んだ竜巻によってカンケルは真っ二つ、いや2つの破片に切り裂かれ押しつぶされた。
バラバラと落ちてくる、元カンケルの破片。
「これでおしまいね。2人とも、もっと精進しなさい!」
「は、はーい」
……まだまだおかーさんには、勝てないよぉ。
「ほほう。ここでも、お母様が最強なのじゃな。作者殿、妙に母親系キャラを強くする傾向があるのではないのかや?」
チエちゃん、えーっと図星なのかもです。
母は強しというか、そういうキャラを動かしやすいものでして。
「まあ、作者殿が旨くキャラ造型を出来れば十分なのじゃ。それぞれの背景含めてちゃんと設定するのじゃぞ。そうそう、今度は薀蓄や裏設定書きすぎぬようにするのじゃ!!」
はい、毎度の失敗は繰り返しません。
どーも設定厨の悪いクセが出ちゃうので。
「では、続きを楽しみにしておるのじゃ! 引き続き、ブックマーク、評価、感想、レビュー待っておるぞ!」
皆様、宜しく御願い致しますです。
今日、最後の更新は21時過ぎです!