第27話 平穏! 日常は大事にしたいから、ポイポイ出来ないの!
「メイちゃん、大変だねぇ。アイドルになった気持ちはどうだい?」
「ししょー! わたしをからかわないでくださーい!」
首相会見の翌日の土曜日、いつもどおりにお母さん、お兄ちゃん、ラーラちゃんにわたしは、朝霧師匠のお見舞いに来ている。
「ボクは真実を言っただけだよ。神楽さんからは、ボクにも連絡が来たけど、何かと大事になっちゃったね」
だいぶ傷も治った師匠は、リハビリも順調。
たぶん来週くらいには退院も出来そう。
「ええ、今後は正体を隠すのも重要になりそうですわ。ただ、国民保護法の運用が出来るようになったのは朗報ですね」
国民保護法って災害とかミサイルとかの武力攻撃に対して避難するのを助ける法律らしいの。
異世界帝国からの攻撃を「武力攻撃」と公式に認定したから、法律が使えるようになったんだって。
「そうか。じゃあ、今はさながら『武力攻撃予測事態』ってやつかな?」
「ええ、そういう扱いでいく様にしたそうですわ」
わたしには難しい国の法律なんて分からない。
……だって、公民分野を学校で習うのって中学3年生だもん! でも、皆が安全に避難できるんだったらイイよね。
「ほごほー?」
「ラーラちゃん、みんなが危なくないようにするって決まりの事なの」
わたしよりも法律なんて分からないラーラちゃんが首を捻るのも、しょうがないと思う。
「あぶない、だめ。めい、きをつけるの!」
「うん、ありがとね」
わたしは、心配してくれたラーラちゃんをハグした。
……やっぱりラーラちゃんの抱き心地、さいこーなのぉ!
「めい。く、くるしいのぉ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「メイちゃん、金曜日の首相の会見とファンクラブのホームページ見たぁ?」
「う、うん。見たよ」
「すっごいよね。バルキリーちゃん、わたし達を守る為に戦ってくれているんだよね。わたし達と同じくらいの子供なのに偉いよね!」
「そ、そうだよね」
「あれ、メイちゃん? どしたの? 何か、あんまり反応無いけど? 興味無いの? あの子、どこかメイちゃんに似ているのにね」
「そ、そうなのぉ? わたし、あんなに動けないよ!」
休み明けの月曜日、学校内の話題はすっかり「ロリっ子バルキリー」でいっぱい。
当事者のわたしとしては、どう反応していいのか分からない。
今も友達のカナエちゃんが、「バルキリーちゃん」の事を褒めてくれるけど、恥ずかしいやら、困ったやら。
授業前の教室は、すっかりバルキリーちゃんフィーバーだ。
……世の中の仮面ヒーローって、いつもこんな感じなのかなぁ。わたし、恥ずかしいよぉ。
「バルキリーちゃんって特撮ヒロインっぽいよね。動画で大きな斧使いの人と戦っていたけど、怖くないのかなぁ」
「あの時は必死で怖くなかったの。それよりもお母さんが危ないと思って突っ込んだんだもん」
「え! メイちゃん。どしたの? まるでメイちゃんがバルキリーちゃんみたいな事言って? 確かに、バリキリーちゃんの後ろには女の人居たけど、2人がどういう関係なのかニュースでも言ってなかったよ?」
……し、しまったぁ! つい、ホントの事を言っちゃったよぉ!
「あ、あ、あれね。わ、わたしだったら、そうだよねって話なの。う、後ろの人ってバリキリーちゃんに似てなかった? わたし、親子かなって思ったの」
「むむむ? 妙なメイちゃん?」
……コレはマズイの。急いで話題変更して逃げなきゃ!
「そ、そうかなぁ。そ、そういえば、ファンクラブのホームページって誰が作ったのかな?」
「あ、あれね。わたしがSNSで聞いたのは、バルキリーちゃんの活躍を見て応援したいって人が政府に相談して、急遽出来たんだって。あそこ、バルキリーちゃんの動画多いよね。あそこでしか見れない画像も多いし……」
なんとか逃げ切ったわたし。
でも、このままバルキリーちゃんフィーバーが続いたら、わたし致命的ミスして正体ばれそうなの。
……誰か、わたしの口封じてぇ!
その後もバルキリーちゃんの話題になるたびに、大汗かいてしまうわたしなの。
◆ ◇ ◆ ◇
「ぐふふ。俺、イイ仕事貰っちゃったよ」
仕事から帰ったマサルはPCの電源を入れた。
「うわぁ! 今日のアクセス数、10万越えだぞ。アフェリエイトの取り分1/4だけど、それでもすごいや」
マサルは、メイの動画を拡散させてしまった罰として、急遽「ロリっ子バルキリーちゃん」の公式ファンクラブのサイト立ち上げを行った。
神楽本部長が出した3つの案のうち、マサルはまだマシなファンクラブ立ち上げ及びファンクラブ会長となった。
バルキリーちゃんに対する世の中の意見をマサルのところで一端フィリタリングすることで、バリキリーちゃんに被害が出ないように、また政府公認なのでファンクラブに対してマスコミも攻撃しずらい様な形だ。
「美味しい仕事だけど俺、バルキリーちゃん、いやメイちゃんには迷惑かけたもんな。このくらいで助けてあげなきゃ」
マサルはこの仕事を受ける際に、契約書にて守秘義務を約束させられたが、その代わりにバルキリーちゃんことメイの個人情報の一部を教えてもらった。
「まだ13歳なのに凄いよね。俺、アフェリで儲けた分、今度メイちゃん宛てに何か贈ろうっと」
マサルは、壁に貼った拡大印刷されたメイの戦闘スーツ写真を見て、うんうんと思った。
「あ、ホームページにもバリキリーちゃん宛てのファンメールや贈り物を受け付ける様にしようかな? 神楽さんに早速相談しよーっと」
過去、地下アイドルの追っかけをしていたマサル。
ファンクラブ会長の役は、案外合っていた様だ。
「メイ殿の日常が徐々に壊れていくのは悲しいのじゃ!」
そうですね。
戦時中、どうしても人々は英雄を求めてしまいます。
今回、それがメイちゃんになってしまったのでしょう。
「日常を守りたいために戦うメイ殿の日常が危うくなる。大変なのじゃ!」
こういうかけがえない日常が壊れてしまいそうなのが、新日常系ですね。
「ワシも日常が大事で好きじゃ! そして日常を楽しむ皆が大好きなのじゃ! じゃからワシは皆を守るのじゃ!」
そういうチエちゃんですから、皆から信仰されるのかもですね。
「ワシ、信仰はイヤなのじゃぁ! 恥ずかしいのじゃぁぁ!!」
はいはい、とチエちゃんが叫んだところで終わりにします。
明日の更新をお楽しみに。