第21話 お見舞い。わたしは、騙した師匠をポカポカしちゃうの!
「もー、ししょーのばかぁ!」
「ちょ! 痛いよ、メイちゃん。騙したボクが悪いから、ちょっと勘弁してよぉ」
わたしは、ベットに座る師匠をポカポカ叩いちゃうの。
だって、冗談にしても自分が死んだように人を騙すのは悪い事だもん。
「メイ、朝霧さんが悪いのは分かったから、そろそろ辞めなさい。縫った傷跡が開いたら大変なのよ」
「あ、そーだったのぉ! ししょー、ごめんなさい」
「いいさ、それだけメイちゃんがボクの事を心配してくれたんだからね。実の孫なんて、無事だって確認したらとっとと帰っちゃったもん」
師匠は、わたしの頭をまだ撫でてくれるの。
「ししょー、いたい?」
「ラーラちゃんも騙してごめんね。今は痛み止め効いているから、そこまでは痛くないよ。たぶん、薬切れたら痛いだろうね」
わたしの横に並んだラーラちゃんも、師匠を心配そうに見上げる。
「ラーラちゃんは自分も大変なのに、他人の心配もできるのは素晴らしいよ。ずっと優しい子で居てね」
「うん!」
ラーラちゃんも師匠に頭を撫でられて嬉しそうだ。
「さて、朝霧さん。どうしてこうなったのか、経緯を教えてくださいませんか?」
「ああ、説明するよ。メイちゃん達には、監視されていた事から話そうか」
そして師匠から、ガンダルヴァが奇襲をして来た事を、わたし達は聞いた。
◆ ◇ ◆ ◇
「最後に情けを掛けたのが甘かったんだろうね。自爆攻撃されて、このザマさ」
師匠は、お腹の傷を入院着の上から撫でる。
爆発から師匠は緊急避難をして直撃は避けたものの、爆発に巻き込まれた道場の破片を腹部に受けたそうだ。
「じゃー、ガンダルヴァは死んだの?」
「いーや。現場にはボクが切り落とした右腕と、無理やり引きちぎった左足は残っていたけど、後は何もなし。ボクが気を失う前に、空中に光の柱が上ったのを見たし、後から聞いた時空震の観測結果からして逃げたと思うよ」
かなりグロイ惨状になっていたのを想像して、わたしはうぇぇってなった。
……レギーオぶった切るのと、人間切るんじゃだいぶ違うもん。師匠もガンダルヴァの命を奪うのを躊躇しちゃったし。
「そうなのね。じゃあ、少なくとも当分はガンダルヴァは、こっちに攻めてこられないわね。まずは一安心。痛み分けだけど、朝霧さんの容態を考えたら実質勝ちだわ」
「おいおい。この老体を遊ぶんじゃないよ。勝っていた勝負を引き分けにされちゃったんだからね」
師匠は苦笑しているけど、引き分けで悔しいのと、殺さなくて良かったって両方の感じがする。
「そーいえば、いつのまに、ししょーは『力』のある武器を持ってたの?」
「メイちゃんが戦い始める前からだよ。ボクの仕込杖には攻撃能力はあっても、変身能力は無いからね」
師匠は、ベットの横においてあった杖をわたしに渡してくれる。
それは外見よりも、ずっしりと重い。
師匠に抜き方を教えてもらい鞘から刃を抜くと、それは青光りをしている直刀タイプの日本刀。
そして、戦闘をした直後なのに、一切刃こぼれが見られない。
……ししょー、すごいの! 刃こぼれが無いって、完全に刃筋を通しているって事だもん。
わたしも槍では切り技も使うし、お母さんの刀さばきも間近で見ている。
実戦で刃筋を完全に通すのがどれだけ難しいのか、師匠の凄さを垣間見た気がする。
ちなみにわたしの槍は、ガタガタになっちゃったので、わたしの身体同様にメンテナンス中だ。
「ししょー! 元気になったら、もっとわたしに技、いや戦い方を教えて下さい! わたし、皆を守りたいの!」
「うんうん。メイちゃん、キミは優しい子だね。心が無い者には奥義は渡せないけど、メイちゃんの心は合格さ。まあ、腕に関しては今後に期待だけどね」
「メイ、先走りしすぎるな。師匠にはゆっくり身体を治してもらわなきゃ。それに1人で何でも背負い込むな。お、お、俺もいるんだからな。メイを守るのは俺なんだから……」
師匠は、わたしの頭をゆっくりと撫でてくれた。
そしてお兄ちゃんは、顔を赤くしつつもわたしを守ってくれると言ってくれた。
「はいはい。青春メロドラマはここまでにしましょ。あまり長居しても朝霧さんの負担になるわ。では、また土曜日にでも来ます。お大事になさって下さいませ」
「ああ、そうさせてもらうよ。タカコさんも十分注意するんだよ。監視は、まだ続いている気がするんだ。敵の狙いは、どうやらタカコさん達のようだから」
病室を去る前、師匠はわたし達の事を心配してくれた。
自分があれだけ大怪我をしながらも、心配してくれるのがとても嬉しい。
「ししょー、またくるね!」
「ししょー、またね!」
わたしとラーラちゃんは、一緒に師匠へ手を振った。
◆ ◇ ◆ ◇
「陛下、御願いがございます」
28部衆の1人カルラは「玉座」を前に傅く。
<うむ、申してみよ、カルラ>
電子音で作られた声が謁見の間に響く。
「はっ。先だって28部衆が1人、ガンダルヴァは地球に赴き戦闘を行いました。しかし、敵の罠にまんまと嵌り、戦闘不能の重症、手足を欠損してしまいました。このままでは今後戦力としてガンダルヴァを用いる事は不可能です。ぜひとも、彼に強化改造手術を行う許可を御願い致します」
<あい、分かった。ガンダルヴァへの強化改造手術の許可を出す。これ以上、帝国の名に泥を塗らぬようにな>
「はい! 早速、手術の準備を行います」
カルラは俯いていた顔を上げた。
「玉座」、透明な容器の中に椅子が設置されていて、得体のしれない溶液中に、呼吸器と沢山の管に繋がれた、やせ細った白髪の老人が見える。
彼こそが、皇帝タタガータ1世。
地球から異世界転移してきた科学者の成れの果てである。
「カルラ、お前には注目しておったのに、どうしてガンダルヴァをあのようにしたのだ! この無能者め!」
「玉座」の横にある豪華な椅子に座る、ぶくぶくと太った中年の男、皇太子アミターヴァがカルラを見下す。
「それは、ガンダルヴァが先走りすぎたのです」
「それを諌めるのがオマエの役目だろう。ガンダルヴァは高貴な純血貴族、オマエのような現地民との混血児ではないのだぞ!」
アミターヴァは、朱色をしたカルラの髪を汚らしいような目で見る。
その横には、大木をイメージさせる鎧武者、ヴァジュラが無言で立っていた。
「この度の失態、ガンダルヴァを復活させて償わさせて頂きます」
頭を更に低く下げ、土下座に近い形になるカルラ。
「あい、分かった。では、急いで仕事にかかるのだ!」
<カルラよ。次はないぞ!>
虚ろな眼の皇帝は電子音で、命を下した。
「はっ!」
カルラは、華麗に礼をして謁見の間から去った。
「くそぉ。オマエこそ無能だろ、アミターヴァ。皇帝の血を継ぎ、遺跡の起動権を持つというだけの愚か者めぇ」
小声でカルラは呟く。
いつか自分を差別した奴らを見返して、帝国を乗っ取る事を夢見て。
「同じ怪我人の見舞いでも、ここまで違うのじゃな」
ええ、チエちゃん。
帝国は、建国時にかなりの無理をして、多くの問題を抱えたまま肥大化しています。
現地ヒトと地球からの転移者の間には身分差が存在し、更にヒト以外の原住民では人権すら存在しません。
「何が、科学者をこうさせたのか。ワシ気になるじゃ!」
そこは追々語りたいとは思っています。
では、明日の更新をお楽しみに。
「ワシ、次の話が気になるのじゃ! 感想でも書こうかのぉ」