第2話 ただいま待機中。 乙女の悩みなんてポイポイしちゃうの!
「おかーさん、今晩も出動あるのぉ? こう夜遊びばかりだと睡眠不足で、わたしお肌荒れそう!」
「ええ。どうやら、ここ数日アチラの動きが活発なの。何かがあったのかもしれないわね。メイ、しょうが無いから諦めなさい。敵は基本夜間しか出てこないし、『はりま市』はわたくし達の守備範囲。少しでも被害を減らさないとね」
わたし、秋月 芽依は、ソファーに寝転んでお母さんに文句を言う。
最近、毎晩の様にバケモノ達が現れて被害が続出、マスコミも謎の事件だと騒ぎ出しているからだ。
「メイ、グチを言う暇あったら、自分の槍を磨いておけ! それに敵の情報も集めろ!」
お兄ちゃんは私の横に座り、スマホで情報収集をしているらしい。
「えー! おにーちゃんまで、わたしの味方してくれないのぉ!」
お兄ちゃん、正確には3つ歳上の従兄、お母さんのお姉さんの息子、今はわたしの家に一緒に暮らしている神納木 昭。
ぶっきらぼうなんだけど、とっても優しい。
わたしの大好きなおにーちゃんだ!
「しょうがないだろ。俺達がなんとかしなきゃ、レギーオは倒せないんだから」
レギーオ、軍団を意味する言葉らしいけど、それが敵の名前。
異世界らしき処から地球へ侵入しては、人々の命を奪う。
その犠牲者は必ずと言っていいほど胸元を食い破られ、心臓の周囲が無くなっている。
レギーオには様々な種類のものが居て、基本ヒト型に近くなるほど手ごわくなる。
彼らは半分異世界に居て、こっちの世界の法則とやらには縛られないらしい。
「そうよ。レギーオを確実に倒せるのは、基本わたくし達が持つ異界の力を借りた武具。存在の『力』を使って倒すしかないのよ」
お母さんは、えいっと柔軟体操をしている。
「でも、わたしみたいな可憐な女子中学生に、やらせる仕事じゃないもん」
わたしは、クッションに顔をうずめてイヤイヤをする。
それに応じて、短めのポニーにした髪が揺れる。
「ソレは……ごめんなさい、メイ。貴方を過酷な運命に巻き込んでしまって……」
お母さん、貴子は元婦人警官、そしてお母さんの実家、神納木は関西に数少ない神道系退魔師の家系。
お母さんのお姉さんが家業を継いでいたけど、今から9年前にレギオーの集団と戦って旦那さん共々亡くなった。
そして残されたお兄ちゃんは、それ以降わたしと一緒に居る。
「おにーちゃんのおかあさん達の敵討ちもしなきゃいけないのは、分かるけどね」
わたしは、クッションから顔を上げて、おにーちゃんの顔を見る。
「それはモノの次いでだ。それに父さん母さん達を殺したレギーオは、全部姉さんが倒してくれたし」
「あーちゃん! いつになったらわたくしの事、お母さんって呼んでくれるのぉ? もう随分と一緒にいるんだしぃ」
お母さんは、無愛想なお兄ちゃんの頭を胸に抱いて身体を揺する。
お母さんの胸がむにゅっと変型して、お兄ちゃんの顔半分がお母さんの胸の中に埋まる。
「ちょ、姉さん! 恥ずかしいし息苦しいって! 離れてよぉ!」
お兄ちゃんは赤面して、お母さんを自分から引き剥がそうとする。
しかし、お母さんはガッチリとお兄ちゃんをホールドして離さない。
「いーえ! 今日こそはお母さんと呼ばない限り離しません!」
なおも、結構豊かな胸を押し付けるお母さん。
わたしは思わず、自分の慎ましやかな胸を見た。
……確か15歳でバストサイズって決まるって話だよね。遺伝的には素質あるんだもん。もっと大きくなるよね。まだ13歳、ここからがわたし勝負なの!
わたしは、思わずふんと胸に力を込めた。
……がんばれ、わたし。もっと成長するの!
そんな時、スマホから警報音が発生した。
「2人とも、出動よ! レギーオ発生地点は海岸の倉庫街。すでに犠牲者も出ているわ。これ以上、犠牲が出る前に喰いとどめるわ!」
「ああ!」
「うん!」
わたし達は、お母さんの運転する軽自動車で倉庫街へと向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「今回のレギーオはどんなヤツなの? 一匹、それとも二匹?」
「次元穴が開いた時間と観測された次元震の規模からして、小型数匹か中型一匹くらいかしら。街頭カメラ情報では、中型のカンケルタイプみたいね」
お母さんは、車載情報端末から情報を提示する。
ちなみに、カンケルとは蟹の意味らしい。
といってもコイツは、ハサミを持っているわけでもなく、四肢を平たいカニっぽい胴体の四隅に持ち、その上にヒト型の上半身を持つタイプ。
槍の様に鋭い四肢が強烈で、正直わたし1人では少し手ごわいヤツだ。
……誰が敵のコードネーム決めたんだろう? 今度、本部に行ったら聞いてみよ!
「港湾作業所で遅くまで作業をしていた方が食われてしまったらしいの。そこからカンケルは移動をしているわ」
「移動とは?」
後部座席のお兄ちゃんは、スマホからカンケルタイプのデータを熱心に見ながらお母さんに聴く。
因みに助手席のわたしは、車酔いするので車内ではスマホは見ない。
「カメラ情報では、現場を目撃した女の子を追っているらしいの。後、2分で現場に着くわ。今回の第一目的は、女の子の保護、第二目標はカンケルタイプの撃破。わたくしが女の子を保護するから、2人でカンケルを仕留めて」
「「了解!」」
お母さんの指示で、わたし達はハモって答えた。
「あ、おとーさんには?」
「もう連絡済よ。今日は機器の調子がおかしくて、残業になるらしいの」
お父さん、学は海上研究学園都市内にある高エネルギー物理学研究センター研究員、粒子加速器とかいう難しい機械の主任技術者だ。
「おとーさんもお疲れ様だね」
「ええ、だからわたくし達も早くバケモノ退治して、『おかえりなさい』とお迎えしなきゃね」
「はーい!」
さあ、気合入れてバケモノなんてポイポイっと片付けるの!
「ほう、今度の話はメイ殿が主人公かや。しかし、第1話とは随分と雰囲気が違うのじゃ!」
第1話は、三人称なので、怪奇ドラマ風な演出に成りました。
しかし、第2話以降は女子中学生の視点一人称ですから、どうしても華やかになっちゃいますね。
「うむ、作者殿はワシやナナ殿を主人公にした外伝も以前書いておる。女の子主人公でも書けるであろうや。更なる精進を楽しみにしておるのじゃ!」
はい、チエちゃん。
今度もがんばりますです。
「では、引き続き第3話をお送りするのじゃ! ブクマ、感想、レビュー、評価を楽しみにしておるぞ!」
言いたいこと全部言われちゃった作者でした。
では、次は16時過ぎです!