第19話 苦戦! 敵もさるもの、でもなんとかしてポイポイしちゃうの!
「くそぉ、逃げるなよぉ!」
「そんなのはボクの勝手だよ! でも、夜中なのに迷惑だねぇ」
深夜の住宅街に怒声と破壊音が大きく響く。
異界の戦士、ガンダルヴァは両手それぞれに持った斧に雷を纏わせて振り回す。
それはメイ達の師匠、朝霧を襲うも白髪の老人とも思わせない動きで簡単に避けられる。
そして斧が当った電柱やコンクリート壁は砕けていく。
「ジジイの癖して、すばっしけぇ! 避けんな!」
「だって、避けなかったら痛いじゃないですか?」
ガンダルヴァの怒りをひょいひょいとかわす朝霧。
「そろそろ、仕掛け時かな? これ以上、遊ぶと近所迷惑だしね」
周囲から騒ぐ声と警察パトカーのサイレンが聞こえだしたのを確認した朝霧は、ダッシュをして生垣に覆われた大きな敷地へと飛び込んだ。
「待てぇ!」
ガンダルヴァもその敷地内へと飛び込んだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「さあ、ここで勝負にしようかな?」
「やっと相手かよぉ、ジジイめ。さあ、俺の斧を受けろ!」
ガンダルヴァは両手の斧を振り上げて、一気に振り下ろした。
その斬撃は、斧に付随した雷撃によってプラズマの刃となり朝霧を襲う。
「うーん、大振りな攻撃じゃ当らないよ」
プラズマの刃は朝霧のすぐ横を通り、敷地内の芝生を焦がす。
「おい、避けんな!」
「何回も言うけど、当ったら痛いじゃないですか?」
朝霧は惚けた事を言って、大降りの後で硬直状態のガンダルヴァに踏み込む。
「ぐ! ジジイ、一体何で攻撃してんだよぉ」
ガンダルヴァの腹部装甲に横一文字の切り傷が入る。
防御フィールドと装甲に邪魔されて肉体まで刃が通っていないものの、斬撃の衝撃はガンダルヴァに響く。
「種明かしなんてするのは、オバカさんですよ。そんなの相手を殺すまで言う訳ないじゃないですか?」
痛みに顔をゆがめたガンダルヴァは、ぶんと斧を振って朝霧を牽制する。
しかし、何もなかったかのように朝霧は斧を避け、ステップバックしてガンダルヴァから距離を取った。
「さあ、いらっしゃい。ボクが存分に相手してあげるよ!」
「く、クソジジイめぇ!!」
朝霧の挑発に、ガンダルヴァは大きく踏み込んだ。
「はい、引っかかった!」
どかっと鈍い音と共に、ガンダルヴァの左横腹にすさまじい衝撃が襲い掛かった。
「ぐぅぅぅ! なんだ、これはぁ!」
ガンダルヴァの左横腹の装甲は大きくへこみ、足元には直径30cmを越える先を尖らせた丸太が落ちていた。
「さあ、何でしょうねぇ」
「ジジイめぇ」
更に前に進むガンダルヴァ。
「ん? ぐわぁぁ!」
脚に何か引っかかった感覚がした直後、今度は上から大きな竹やりが四方に出ているボールがガンダルヴァを襲った。
「あらぁ、また引っかかったんだ」
「ち、ちきしょぉ! 罠かよ、卑怯だぁ!」
兜を吹き飛ばされ、額から出血したガンダルヴァは悔しさで吼える。
「卑怯なのはお互い様。キミはいつも敵を弱らせてから、一気に得意技で片付けていたそうじゃないか? ボクはひ弱な老人、そのハンデを罠で補ってもいいじゃないの?」
飄々とした表情でガンダルヴァを煽る朝霧。
「ま、まさか? 俺は罠の中に飛び込んだか?」
ガンダルヴァは周囲を見回して叫ぶ。
「今更、気が付いたのかい? そう、ここはボクの道場。まだまだ仕掛けいっぱいだよ」
にやりと笑う朝霧。
温厚そうな老人の中に潜む「鬼」に、ガンダルヴァは恐怖した。
「さあ、続きやろうか?」
「ち、ちきしょぉ!」
その場で斧を振り回すガンダルヴァ。
ガンダルヴァは足元に仕掛けがあることに気が付いたので、前に進むのが怖い。
自分が「地雷原」に突っ込んでしまったのに恐怖したからだ。
「ほっほっ。それではボクに当らないよ?」
暗がりでも、しっかりした踏み込みでガンダルヴァに切り付ける朝霧。
「ぐ! お、お前! その杖が剣だったのかぁ!」
「ご名答。これぞ、ボクの秘剣さ」
朝霧は、杖、仕込み刀を胸の前まで持ち上げ、左手で杖の下、右手で杖の上を持つ。
「極意『半月之剣』……、なんてね」
ひゅいという音がした後、ガンダルヴァの胸装甲に半月状の傷が出来、そこから血が吹き出る。
「やっと中身に刃が届いたのですか。なんて硬いんだねぇ」
「ぎ! ち、ちきしょぉ!!」
ガンダルヴァは傷の痛みで罠の事を忘れ、朝霧に飛びかかった。
「はい、チェックメイト!」
がちんという音がガンダルヴァの左足首のあたりから聞こえる。
そして次の瞬間、ガンダルヴァには焼け付く痛みが襲い掛かってきた。
「ぎゃぁぁぁ!!」
ガンダルヴァの左足は落とし穴に入り込み、底の仕掛けられていたトラバサミに足首を喰い付かれていた。
「これで、機動力もなくなったね。防御フィールドは意識しないと弱いんだよ。不意打ちや罠を警戒しないキミのミスさ」
「くそぉぉ、俺がどうしてこんなジジイ1人に弄ばれるんだぁ!!」
斧を放り出して左足を両手で抱え、苦やし涙を流し吼えるガンダルヴァ。
「オマエさん、今から投降しないかい? 悪いようにはしない。罪を償って平凡だが普通の暮らしをするんだ」
そんなガンダルヴァが哀れになり、ガンダルヴァに歩み寄って投降を促す朝霧。
しかしそんな声は、怒りと争いしか知らないガンダルヴァには届かなかった。
「ジジイ! 俺を見くびるな! 死ねぃ!」
ガンダルヴァは右手で下に落ちていた斧を掴んで朝霧に切りかかった。
「残念だね」
ぼそっと呟く朝霧、そして剣先が一閃され、
「ぐぎゃぁぁ!!」
ガンダルヴァの右腕の肘から先が切り飛ばされる。
「じゃあ、さようなら。哀れなぼーや」
朝霧に右手に持つ刀の切っ先がガンダルヴァの喉下へと刺さる直前、
「ぐ、ぐぉぉぉ!」
ガンダルヴァが咆哮し、閃光が彼を中心に広がる。
「ちぃ、読み誤りましたかぁ!」
朝霧が大きくステップバックをするも閃光に飲み込まれた。
そして轟音と共に、朝霧の道場も巨大な爆発で吹き飛んだ。
「朝霧殿! 大丈夫なのかや? ガンダルヴァと相打ちなのかや?!」
それは明日の更新をお待ちくださいな。
「朝霧殿、最後に情けをかけたのが仇になってしもうたのじゃ。やはり敵は容赦なく殺せる時に殺すべきなのかのぉ」
朝霧さん、いくら武道の達人といっても昭和30年頃の生まれ。
戦後、好景気時代に青春を送った人です。
殺し合いになったのも、実は今回が初めて。
だからこそ、綿密に策や罠を作った訳です。
「『戦争を知らない子供たち』じゃったのじゃな。それでは、命を奪うことに躊躇するのは、しょうがないのじゃ。コウタ殿やタケ殿達が苦しんだのも同じなのじゃ!」
人を殺すというのは、普通の人間では多大なストレス。
簡単に割り切りできるものでは無いですね。
だからこそ、「鬼滅の刃」の炭治朗くんは凄いですよ。
鬼を切る事には一切躊躇せず、されど鬼を人として供養する。
「家族に愛されたから、あのような澄んだ心の少年に育ったのじゃな。ワシ、映画でも泣いたのじゃ!」
テレビ版からの続きで、一切説明ナシに進む物語というのも割り切った構成でしたが、それが日本映画トップになろうというのも凄い。
ああ、あのような素晴らしい物語書きたいです。
「精進するのじゃぞ! では、明日を待っているのじゃ!」