第15話 痛いのぉ! 病院でみっちりお説教を受けるわたし、痛いのはポイポイしたいのぉ。
「う、うーん……」
「あ、やっと起きたね、メイ。どんな感じだい?」
わたしが眼を覚ますと、そこは見たことが無い天井。
点滴が数個刺さっている上に、寝返りも出来ないから、どうやら病院のベットの上で動けないように縛られているっぽい。
「からだ全部が痛いのぉ……」
「そりゃそうだよね。全身到るところ筋肉断裂に剥離亀裂骨折。もう少し無理していたら、どこかが完全に千切れていたってお医者さんも言ってたよ」
お父さんは、あっけらかんとわたしの全身状態を話した。
……それって、随分と重症なんだけどぉ。
「ソレでわたし全身固定されているんだ。あ、おにーちゃんやおかーさんは?」
「2人とも、今は家に帰っているよ。それと2人には、大きな怪我は無かったよ。ここは、はりま市内の総合病院なんだ。姫路の国立病院に入院でも良かったんだけど、お見舞いするのにウチから遠いし、メイの怪我は基本処置した後は時間経過で治すしか無いから、ウチの近所の病院まで転院したんだ」
どうも、わたしが気を失ってから随分時間が経っているみたい。
「わたし、どのくらい寝ていたの?」
「一日半ってところかな? 当分は入院だから我慢して治してね。それと、たぶんタカコさんは怒っているから、後で十分叱られると良いよ」
お父さんはニコニコしながら、わたしが食べやすいようにリンゴを剥いてくれている。
「おとーさんは、わたしを叱らないの?」
「そうだねぇ。最初、無茶して大怪我をしたって聞いたときは、どう叱ろうかと思ったよ。でもね、タカコさんを助ける為に無茶したって聞いたのと寝ているメイの可愛い顔を見たら、そんな気も無くなったよ」
お父さんの笑顔の裏に悲しみと心配が沢山なのは、鈍いわたしでも分かる。
「ごめんなさい。いっぱい心配させちゃって」
わたしは、涙を溢して謝った。
「もう終ったことだし、メイが敵の攻撃を捌かなきゃタカコさんが大怪我していたかもしれなかったんだよね。ただ、誰にも相談せずに無茶したのはダメだよ。例え、あやふやな情報でも確認する方法があったしね。今回だったら、ラーラちゃんにお父さんの名前聞いたら、正夢だったのがもっと早く分かっていたし」
科学者であり元軍人のお父さんは、的確にわたしに説明してくれる。
そしてハンカチでわたしの涙を拭ってくれた。
「そうか、ラーラちゃんに聞けば良かったんだ!」
「とりあえず今回は上手く敵も引いてくれたから良かったよ。ただ、こんなラッキーは何回も通じないね。次も無事に勝てるとは限らないんだ。だからこそ、今回の失敗を生かして、この先も必ず皆で生き残る事。それが僕の言いたいことさ」
淡々としかし、温かく染み入る言葉でわたしに話すお父さん。
言葉の後にある愛情で、わたしはまた泣いてしまう。
「お、おとーさん、ごめんなさいぃ。もー無茶しません。もーっと強く賢くなってぜーったい勝って、おとーさんやおかーさんに孫見せるのぉ!」
「おいおい、僕はまだお爺ちゃんになる気はないからね。メイは気が早いって。敵を倒すよりもお嫁さんになるのが大事なのかい?」
お父さんも泣き笑いをしている。
こんなに愛してもらって、わたしは幸せだと思う。
だからこそ、この幸せを壊すヤツらが許せないの!
……平凡な日常を、皆が過ごせるのが幸せなんだもん!
お父さんは、もう一回わたしの顔をハンカチで拭いてくれて、わたしにリンゴを食べさせてくれた後、面会時間いっぱいまで居てくれた。
「そろそろお見舞いの時間が終わるね。また、明日来るから今晩は、ゆっくり寝なさい。大丈夫、お医者さんの話だと障害も残らず治るだろうって話だからね。じゃあ、おやすみ、メイ」
「うん、おやすみなさい。おかーさんやおにーちゃん、ラーラちゃんには、ごめんなさい、ありがとーって言ってね」
「ああ、分かったよ」
笑顔で手を振って病室から出て行くお父さん。
振り替えす手が無いわたしは、笑顔を返した。
「……でも痛いのぉ」
お父さんが居る間は、心配をかけちゃダメだから言わなかったけど、全身がとっても痛い。
筋肉痛の凄いやつで、指一本動かすのも辛い。
それ以前に手足をギプスじゃないけど完全に固定されている。
たぶん動いたら切れている筋肉が繋がらないんだろう。
「おとーさんの話だと全治三週間かぁ」
幸い骨折部分はヒビ程度だったし、筋も完全に切れれなかったから、あれだけ無茶した割には軽症らしい。
「しょうがないから、瞑想でもしよーっと」
治癒能力の向上も『力』にはある。
ペンダントもつけてくれたままなので、『力』を使い頑張って早く治そう。
「がっこーも部活も休んでいられないしぃ」
そろそろ1学期の期末試験も近いし、部活の新人戦も近い。
「明日、教科書持ってきてもらおーっと。ん? どうやって連絡するんだろ?」
わたしは連絡しようと思ったが、指一本動かせないので情報端末の操作が出来ない事に気がついた。
「しまったぁ。明日は、まず連絡方法の確保が、さいゆーせんなのぉ!」
その後、わたしは痛みどころじゃなくて、明日からの事で大声を上げて看護士のおねーさん達に怒られた。
◆ ◇ ◆ ◇
「ちきしょぉー! カルラ、どうしてオレをあのまま戦わせなかったぁ!」
「あのままでは確実に貴方は死んでいましたよ。あの母親は、あの後一瞬で私が操るオーガを倒しました。娘を傷つけたから、すっごく怖かったですよ」
異世界の拠点にて話す2人。
荒れるガンダルヴァは、自分の看護をするレギーオを数体壊している。
「あのババァ、次会ったら必ず殺してやる。それにあのメスガキ、俺の必殺技を初見で裁ききりやがった。くっそぉー!」
「貴方の技は、フィールドを分裂させて攻撃をします。初見では、本質を見抜けずに無数の斧に切り裂かれたのでしょうが、あの少女は一個ずつの斧を潰す事で攻撃を防ぎきりました。幼いながらも見事です」
暴れまわるガンダルヴァを嘲笑するカルラ。
「敵を褒めるんじゃねぇ!」
「しかし、貴方がその様子では当分は出動も無理ですね。上へは私が報告しますから、まずは身体を治してください」
カルラが部屋を去った後も、物を壊す音が建物内に響いた。
「ちきしょぉー! 女狐ども、ぜってえ許さんぞぉ!」
カルラはガンダルヴァには聞こえない小声で呟く。
「ガンダルヴァ。貴方の様な愚か者、私がのし上がる道具でしかありません。今は、せいぜい吠えるがいいです」
カルラは冷たく笑った。
「メイ殿は若いから回復が早いのじゃ。どれ、ワシも手助けするのじゃ!」
チエちゃん、だから過干渉はやめて下さいって。
「そうかのぉ。物語がスピーディーになるのじゃ。それに可愛い子に傷跡や障害が残るのはイヤなのじゃ! 可愛い子は愛でてナンボなのじゃ!」
その意見には同意しますけど、物語を壊すのはやめてくださいね。
「その点、加減はするのじゃ! では明日の更新を楽しみにするのじゃ!」
ちょっと心配になってきた作者でした。