第11話 病院検査! わたしは、ラーラちゃんを抱っこしちゃうの!
「ラーラちゃん、大丈夫? 怖く無い?」
「うん。めい、いっしょ、こわくない」
わたしは、ラーラちゃんの検査にずっと同行している。
わたしだって、いきなり誰も知らないところに放りだされて、訳の分からない痛い事されたら、パニックになっちゃう。
だから、わたしはレントゲン撮影とか、CTとか、どうにもならない場合を除いて、ずっとラーラちゃんの側に居た。
少し遠ざかる時もラーラちゃんからわたしの姿が見れるところから、一度たりとも離れなかった。
「メイちゃん、ラーラちゃん。お疲れ様でした。もう、これで検査は全部お終い。よく辛抱したわね」
「ラーラちゃん、よく頑張ったの!」
女性看護士さんが、採血が終った検査着姿のラーラちゃんの頭を撫でてくれる。
わたしもラーラちゃんを抱っこする。
「めい、ずっといっしょ。らーら、あんしん」
注射針が刺さった時には、少し涙目で猫耳が垂れていたラーラちゃん。
でも、今は耳もピーンでにっこり顔だ。
「お母さん達を呼んで来るから、ここで待っててね」
看護士さんも笑顔で検査室を出て行った。
「ふぅ。病院の検査って何もしていないはずなのに疲れちゃうんだよねぇ。わたしも、ここには時々来ては検査しているの」
「めい、どこか、いたい?」
「ううん。わたしって変身して戦っているでしょ。普通じゃないから、何処かがおかしくなっていないかって検査をしているの。わたしは、だいじょーぶ!」
自分が大変なのに、わたしの心配をしてくれるラーラちゃん。
その優しさがとっても嬉しいの。
「ありがとーね、ラーラちゃん」
「めい、ちょっとくるしいぃ」
わたしは嬉しくなって、またラーラちゃんをぎゅーっとハグした。
……ラーラちゃんって、やっぱり抱き心地良いのぉ! そんな趣味なかったのに、わたし、ユリの花咲かせちゃいそぉぉ。
◆ ◇ ◆ ◇
「さて、向田さん。今回なぜ貴方がわざわざ東京から兵庫に来たのか、教えて頂けますか?」
タカコは病院内の応接室で、テルミナス技術顧問・開発主任の向田を睨んでいる。
「それは、他所に情報を漏らさないように私が直接持ち帰るからだ。異種人類のDNA情報など、国内どころか海外からも欲しがるに違いないからな」
でっぷりとした腹を邪魔そうにして座る向田。
文句を言うタカコに対しても、決して負けていない。
「まあ、それは理解できますわ。それにラーラちゃんのわたくしの家での滞在許可も、ありがとうございました。しかし、ラーラちゃんの前にいきなり現れて怖がらせたのは、どうかと思いますのよ」
しかし、タカコも感謝する点は感謝し、批判すべきところは批判する。
まだタカコの家族以外とは、地球人とは接触してないラーラ。
そこに見知らぬ男が現れれば、怖がるのを予想するのは容易い。
「そんな風に他人の心を慮れないから、奥様にも逃げられたのですわ」
「おいおい、タカコさん。それは言いすぎですよ。向田さんにも事情があるでしょうし。家族に対してすら守秘義務がある仕事をしていたらしょうがないよ。僕らの場合は、僕が関係者だから、家でも話し合えるだけだし」
タカコが向田の傷跡に塩を擦るつけるような発言をするも、マナブはそれを窘める。
テルミナスという組織は、秘匿情報が多く守秘義務が厳しくなされている。
向田の様に、テルミナスの技術開発部門の最高責任者ともなれば、職務のほぼ全部が秘匿情報になる。
家族内で話せない事が増えると夫婦間、家族間がギスギスしだすのも時間の問題だ。
「自衛隊でも『海』、特に潜水艦乗りさんは、帰宅時間すら言えないから家庭不和が多いらしいし。あくまで何でも話せるウチが例外なのは分かっているよね、タカコさん?」
「う、確かにマナブさんの言う通りね。向田さん、言い過ぎました。ごめんなさい」
元自衛官でもあるマナブ、そして元婦警のタカコ。
お互い、家庭と国家安全の両立が難しい事は理解している。
「いや、確かに私のデリカシーが足らないのも事実さ。娘なんて最近SNSでも連絡くれないからな」
苦笑して、マナブ達夫婦に思春期の娘の愚痴をこぼす向田。
「結局、オトナと言われる僕達でも親としてはまだまだ成長途上。子供達と一緒に親の勉強しなきゃですね」
マナブも笑って言葉を返した。
「で、これは確認ですが、『彼』は大丈夫ですか?」
急に表情を引き締めて、真剣に話し出す向田。
「今は、メイも一緒ですし、ラーラちゃんも可愛がってくれています。能力も安定していますし、大丈夫ですわ。少々ぶっきらぼうだけど、優しい自慢の息子なの!」
タカコは、えっへんと豊かな胸を張り、自慢する。
「それなら安心です。『彼』はラーラちゃんと共に、今後の戦いのキーとなります。今後とも宜しく御願い致します」
丁重に頭を下げて頼み込む向田。
「向田さん、頭を上げてくださいな。頼まれなくても、あの子は自慢の息子です。父としてちゃんと立派な大人に育てますよ」
マナブも向田に、『彼』の父親だと宣言した。
「やはり、御姉さん夫婦、そして貴方方に『彼』を預けたのは正解でした。今度とも宜しくお願いします」
頭を上げ、表情を崩した向田であった。
「それで『彼』は何処にいるんですか? ラーラちゃんの検査には、ご一緒じゃなかったようですけど」
「最初は一緒に行きたがってましたけど、ラーラちゃんが服を脱ぎだしたところで、顔真っ赤にして逃げましたわ。携帯GPS情報ですと、売店の書籍コーナーにいますから、立ち読みでもしているんでしょ?」
タカコは情報端末で『彼』の居場所を表示させた。
そんな時、マナーモードの情報端末が激しく振動をした。
「え!」
「何! こんなところにレギーオが現れただと!」
向田も自分の端末を見て、即時本部へ連絡をする。
基本、レギーオが出現する地点は、科学研究施設、そして人口密集地帯。
前者で地球の技術、後者でヒトを襲いヒトから『力』を奪っている。
また比較的深夜に暴れることが多い。
「今までSpring8近郊が、それも日中に襲われた事例は無いわ。一体どうなっているのかしら?」
「タカコさん。僕がラーラちゃんを守るから3人は、他の人たちを守って!」
不思議がるタカコの顔を、マナブはじっと見る。
「貴方……。わかったわ。向田さん、誰かが出動していますか?」
「今、姫路担当のものが先行している。まもなく会敵するだろう。ただ、時空震の大きさから考えて大型級が来ている可能性が高い。タカコさん、頼めますか?」
情報端末から、戦況を調べる向田。
その表情からは焦りが見える。
「ええ、もちろんですわ。マナブさん、行って来ますわ。終わったら皆で焼肉にでも行きましょう。もちろん向田さんのオゴリね」
ウインクをして快諾をするタカコ。
その様子に表情を崩した向田。
「ああ、請け負ったぞ。食べ盛りの子が多いから、出来れば食べ放題の店にして欲しいな」
「ええ、了解ですわ。じゃあ、貴方行ってきます!」
タカコは子供達に「勝ったら焼肉よ」と連絡をしながら、応接室から足早に出て行った。
「徐々に伏線を出してきておるのじゃな。ふむふむなのじゃ。さて、再び戦闘なのじゃ。今度はどんな敵なのか、楽しみなのじゃ!」
チエちゃん、そういう事ですのでネタバレはご注意下さいませ。
メイちゃん達に迫る敵、一体それは何なのか!
明日正午の更新をご期待ください。