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親知らずを抜いたら、酷く腫れました。

作者: 行世長旅

これは小説ではなく、ただの独り言です。

 痛いです。

 痛みからいろいろな悪影響が出たりしています。


 とりあえず、全ての経緯を書き出してみましょう。


 まず先月の中旬に歯医者に行き、レントゲン撮影をしたところ「至急の対策を要する親知らずがある」と告げられました。

 指摘されたのは、左下のもの。

 後で調べて分かったのですが、親知らずは上下で抜歯の難易度が変わるそうです。

 上は比較的抜きやすく、下は比較的抜きにくい。今回は左下なので、抜きにくいとされているものです。


 田舎の歯医者には口腔外科を担当する医師が不在だったのですが、11月2日に他所から来院する予定が入っていて、その際に抜いてもらうように話が進みました。

 私は了承し、その日は検査を終えました。


 11月2日当日。

 16時30分で施術の予約をしていて、時間ほぼピッタリに行きました。そして呼ばれたのは16時45分頃。奥まで4つある座席の、前から数えて2番目の席に通されました。

 この際、他所から来院していた口腔外科担当の医師をチラと見かけました。年齢は推定30歳前後で、威勢のいい男性です。

 私の他に2人の患者の相手をしていたようで、呼ばれてからも5分ほどは待ちぼうけをくらいました。


 5分後。

 歯科助手のお姉さんと共に、口腔外科担当医師が現れました。名前は確認しませんでしたが以後は、白木(仮名)先生と言い表します。

 白木先生はまず、歯鏡デンタルミラーを手に取りました。長い棒の先に丸い鏡が付いている歯科器具です。


「はい、それじゃ口開いて」


「ふぁい」


 私は返事をしながら指示に従いました。

 しかし、白木先生な反応は鈍かったです。


「……もっと開いて」


 いやいや、開いていますから。

 ……と抗議の念を浮かべたのですが、ここで1つ思い出した案件がありました。


 私は顎関節症を患っており、口の開閉が不自由だったのです。より正確に言えば、上顎と下顎の接地箇所の噛み合わせが悪く、頻繁に外れたりし、今では口を大きく開けられなくなっていたのです。


 それらの説明をしようと思った矢先に、白木先生が問いかけてきました。


「これ以上開かない?」


 私は顎関節症を患っているところから説明しようとしましたが、白木先生が求めている情報は開けるか否かでしたないのだと悟り、完結に肯定します。


「厳しいです」


「これじゃ治療できないよ。もうちょっと頑張れない?」


「頑張れないこともないですが、かなり厳しいです」


 顎関節症の症状を負っている状態で無理やり開き続けるのは、痛みの負担はもちろん維持する精神力も要します。

 どうしたものかと思っていると、白木先生が冷淡な声音を出しました。


「どうする? 中断する?」


 中断。まさかの選択肢に、呆気に取られた声で疑問を返しました。


「中断……しても、いずれは抜いた方がいいんですよね。なら、先送りは意味が無いですよね」


「抜いた方がいいけど、口をこれ以上は開けないってなら全身麻酔をして治療するしかなくなるよ。今この場では準備が整って無いし、後日大きな病院でやってもらうことになる」


 なんとも、他人事のような口調で言われました。

 実際に他人の事ではあるのですが、事実をただ淡々と伝えて、こちらの気持ちを考慮しようとする意思を感じられなかったのです。


 それはさておきまして、問題は中断するか否かです。

 ここで中断すると、今日の診断料と時間が無為になり、おそらくは紹介状で追加料金が発生し、後日大病院へ移動する交通費とさらに診断料治療料と、お金と時間を大きく失うことが予想されました。

 お金に苦しい私は、何とか防ぎたいと思い提案を却下します。


「いえ、できるだけ頑張るので、お願いします」


 そして、治療が始まりました。


 白木先生はまず麻酔を射ちました。針が歯茎に刺さる際、普段お世話になっている先生なら「プス……」ぐらいの優しい感覚だったのですが、白木先生は「グサッ」と勢いよく刺してきました。

 ここでも優しさの欠如を感じましたが、麻酔もすぐに聞き始めるので痛みはすぐに消えていきました。おそらく、すぐに消えるからあまり考慮しなくてもいい、と考えているのだと思います。それでも刺すその一時いっときにさえ違いが生まれるものだと思うと、いつもの先生はとても気を配ってくれていたのだと差を感じました。


 麻酔が効き始め、私の目元に布が置かれて視界が塞がれます。口元に頭上からライトが当てられ、白木先生が治療器具を構えた気配がしました。


「じゃ、20、30分ぐらいかかると思うから。頑張って開いてねー」


 指示に従うしかないので、私は限界まで口を開きます。

 すると早速、限界まで開いた口の横に唇開口器が当てられました。湾曲している歯科器具で、口を広げ開けるための補助器具です。


 そう。すでに自力の限界まで開けている口に、さらに広げるための器具を使用されたのです。

 容赦なく外側へと引っ張るため、裂けてしまいそうな痛みに襲われました。上唇と下唇の間が裂ける。まさに、口裂け女の様相です。


 けれどこちらも耐えながら、感情を殺して時間が過ぎるのをただ待ちます。


 その後の様子は、よくわかりません。親知らずを削ったり抜きやすい状態にしていたのだと思いますが、歯科知識の無い私には状況を説明できるだけの能がありません。


 動きがあったのは、白木先生が親知らずを抜こうと何度か挑戦した後のことです。


「駄目だ、抜けない」


 歯科助手のお姉さんと何事か言葉を交わし、治療の手が止まったのです。


 私はただじっと待つ以外に選択肢が無いので、会話を傍聞かたえぎきしていました。

 すると、何事かを決断したのか治療が再開しました。


 体感ではすでに、当初告げられていた治療時間の20分を過ぎていました。けれど親知らずは抜かれていません。ここから第2ラウンドです。


 第1ラウンドでは、親知らずは形を整えて抜きやすくして抜く、つもりだったのだと思います。けれど再開してからは、作業の様相が変化しました。


 どうにも、削る工程が多くなったと感じました。どの面をどのように削っているのかは分かりませんが、回転する器具で削るのと棒状の器具でガリガリと音を立てる工程が繰り返されました。


 何度かの繰り返しを経た後に私は、抜くのを諦めて砕いて取り除こうとしているのだと気が付きました。


 砕いて取り除くとなると、ただ抜くのに比べて体への負担が大きくなります。せめて方針転換を一言欲しかったなと思いつつ、引き続きじっと堪えます。


 白木先生も焦っているのかしびれを切らしてきたのか、作業が時々雑になってきました。手の位置を変える際に、手と私の前歯で上唇を挟んだりしました。他にも、歯に当てていた何らかの器具を滑らせてあらぬ方向へと走らせ、「おぉぉ……ぅ」とうなっていました。


 私は、早く終わってほしいとばかり願っていました。口を開けられ続ける痛みから解放されたいと思っていたのに加えて、どんどんとこの口腔外科担当の先生への信頼が失われていきました。


 苦悩に耐えること45分。ついに、砕いた親知らずの最後の破片が取り除かれたのです。


「ふぅ、やっと終わった」


 白木先生は予想を越えた苦戦を強いられたためだったのか、吐息を1つついて抜歯の終了を告げました。


 私は、体が強張っていてしばらく動けませんでした。


 背後では、白木先生と歯科助手のお姉さんが「これはやっぱり全身麻酔レベルだったろ」「難しい生え方してましたね……」と語り合っていましたが、声は半分も聞き取れません。唯一、もう大丈夫そうだとだけ感じ取りました。


 その後は患部にガーゼを当てて噛み、レントゲンを撮って除去されていないものが残っていないかを確認し、穴を塞ぐために縫合して終了となりました。


 私は、やっと解放されたと安堵しました。ようやく苦痛が終わったのだと、気を緩めました。


 けれど、まだ苦痛は終わりではなかったのです。


 唇開口器で引っ張られ続けた口の横部分は、少々裂けていました。ヒリヒリと痛く、小さなかさぶたが作られていました。

 あれだけ強く引っ張るからもう……、などと怨みを抱いたりしましたが、そんな些細なことは問題ではありません。

 処方された飲み薬などを薬局へ購入しに行き、帰宅して鏡で自身の顔を見た際に驚愕しました。


 治療してもらった左側の頬が、異常なほどに晴れ上がっていたのです。


 親知らずを抜いた後は多少腫れるとは知っていましたが、予想を上回って腫れていました。

 また、今回は2度目の抜歯で、「1回目はここまで酷くならなかったぞ……」と多少狼狽(うろた)えました。


 無意識のうちに左の人差し指を伸ばし、そっと触れる。すると、麻酔の効果は切れかかっており、確かな肉感を抱かせる膨れ具合でした。よく確認すると、内側で歯茎がボコッと腫れ上がっているように感じました。


 抜歯は酷く腫れる場合もある。その可能性はネットでも指摘されていましたが、まさか自身の身に降りかかるとは思っていなかったのです。今思えば、何の根拠も無い希望的盲信です。


 歯茎が腫れて不自由な口で夕御飯を食べ、処方された薬を飲み、希釈した消毒液で口をゆすぎます。

 強くゆすぎ過ぎたり歯ブラシで患部に強い衝撃を与えてしまうと、縫った糸が取れたり血餅(かさぶたのようなもの)が剥がれてしまう危険性があるそうです。


 これらの知識も、自力でネットを使って探しだしました。

 そして同時に、歯医者では抜歯後の注意事項を何も説明されなかったと気が付きました。

 こちらから問えば、何らかの返答はもらえたのかもしれません。けれど、問わずとも何か1つくらい注意を受けてもよかったように感じます。

 あとは知らないぞ、と、そう思われていると邪推してしまいます。


 夜は、ほとんど寝れませんでした。

 患部の腫れ、痛み。

 なかなか根付けず、寝付いても痛みで起き、再休眠もなかなか叶わない。

 とても長く感じる夜を過ごしました。


 後日の11月3日。

 この日は休日で、1日自由でした。

 何度目かの浅い休眠を繰り返して迎えた朝。私はまず、2度寝どころではないy度寝をしました。いつもなら起きている7時頃。ですが、まったく起き上がれませんでした。

 ぼやける意識で目をつむった後、だんだんと歯茎の痛みに意識が向いていきました。痛いのは当然ですが、痛みを意識してしまっていると自覚した時点でも寝付けません。痛み止めの効果が切れていると思い至り、眠たい体を無理やりおこし、開かない口でフルーツグラノーラを少量ずつ食べました。


 毎朝の朝食は軽く済ませたいため、いつもフルーツグラノーラに豆乳をかけて食べています。のんびりと噛んで食べても5分もあれば完食する量。

 しかしこの日は、同じ量でも3倍以上の時間をかけての完食となりました。


 ゆっくりとながらも朝食を終え、すぐに痛み止めを飲みます。劇的に効果が現れるわけではないため実感が薄いのですが、確かに痛みが緩和されてきたように感じました。

 

 睡眠不足で眠い私は、そのままベッドに横になり、また浅い休眠を求めて目をつむりました。


 朝食で手間取ったのであれば、昼食や夕食も同様以上に手間取るということです。


 左の歯茎が大きく腫れていて、口があまり開かない。食べ物をそちらへと流したくないため、顔を右に傾けて右の奥歯でゆっくりとんで飲み込む。

 いつもなら1口で食べているものを小さく切って、いつもなら手早く食べているものをかなり時間をかけて。

 患部がもたらす悪影響が、とても煩わしくてもどかしかったです。


 そしてこの日の夜もやって来ます。睡眠の時間です。

 寝たいのに眠れない。眠れたのにすぐ起きる。

 昨夜の1日だけでつらかったのに、2日連続となると苦痛に拍車がかかります。


 翌日11月4日。

 この日は、出勤日です。


 身支度を整えて出勤し、まずは他の従業員に頬の腫れを見せて現状を説明しました。抜歯から寝不足までを大まかに伝え、寝不足から体調不良を起こしていると伝えました。


 すると先輩方からは、「もし無理だと思ったら早退しろよ」と言われ、素直に返事をしながら業務を開始しました。


 頭はロクに働きません。けれど体が覚えていることも多いので、ボケーっとしながらも業務をこなしていきました。


 特に大きなミスは起こしません。先輩方に患部の症状や体調を気にかけられながら、昼までの仕事を無難に終えます。


 大きな異変が起きたのは、午後です。


 休憩から上がると、部屋がとても冷えていました。先に作業場していた先輩方の内1人が、「暑くなったから」と冷房をつけていたのです。

 北海道の11月です。何もせずとも肌寒いのに、冷房をつけるなんて信じられませんでした。


 冷えた空気が私を襲います。体調が不調の体は、実際の温度よりもさらに冷えて感じられました。


 身震いし、あまり良くない行為と思いながらも作業着の上にジャンバーを重ね着しました。通勤時に利用して外の空気に触れているもののため、殺菌液をスプレーで吹き掛けて清潔にしました。


 その辺りで、私は早退する雰囲気が流れていました。

 確かに正常な状態ではありませんでしたが、早退するほどにも酷くはなかったです。しかし、私がこなさなければならない業務は早々と終わらせていため、「このまま居るぐらいだったら帰ったほうがいい」という空気になったのです。


 私は、少々悩みました。

 確かに私が抜けても仕事は問題ありませんが、どうしても帰宅しなければならないほど酷くもありません。私にとっては、給料が減ってしまうほうが問題でした。しかし、必要最低限の仕事が終わっているのにも関わらず、無理に(周囲からは無理をしてと思われる)残る理由もありません。加えて一応、浅い眠りといえども、早退して睡眠時間を確保できるのは有意義だと思いました。


 悩み、考える。

 そして、早退を決意しました。


 そうするとなると、また必要な手順が生まれます。

 その場にいる上司に改めて意思を伝え、休日だったさらに上の上司に伝え、施設長に伝え、たまたまいた社長にも伝えました。

 これほど伝える人数が多いのなら、早退するのもまた面倒だとも思います。けれど、今回は仕方ありません。大人しく全員に伝え歩いて会社を出ました。


 帰宅してすぐに、ベッドに横になります。

 夕食の時間までまた、浅い休眠と目覚めを繰り返したのです。


 そして本日11月5日は、不調を押しながらも業務をこなしました。

 私が早退したり欠勤すると、業務に取り返しのつかない支障が出るためです。上司に休みを交代してもらうことも考えましたが、歯茎の腫れが収まるまで1週間近くはかかると予想されている以上、それほどは休めません。仕事への影響もありますが、何より、給料が減ると生活できなくなるためです。


 なので、とりあえずは大丈夫なフリをして1日を終えました。実際、昨日よりは微々たる差ですが体調が良かったのです。


 明日以降も、不調を押して出勤します。本当に業務遂行が不可能と感じましたら、素直に早退なり欠勤なりします。


 話はまとまっていませんし終わっていませんし「これは布石かな……」と思われるであろう部分の回収もありませんが、これが私の現状です。綺麗な物語に仕上げた訳ではない、端的な現状です。


 もし、ここまで読んでくださった方がいたらありがとうございます。

 あなたの人生を割いていただいたほどの価値がある文章だったかは分かりませんが、感謝を伝えずにはいられません。


 以上、抜歯は甘くみてはいけないという語りでした。

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