朱色
20
「じゃあ、取り敢えず今日はこれで帰るよ」
「ええー、もう帰るの? もうちょっと話したかったな」
瑠美は拗ねたよう頬を膨らませる。手を後ろに組み、腐葉土の地面を見つめながら。
「明日も来るよ、俺ももっと話したいしね」
俺は苦笑しながら瑠美を諭す。
もう、空は、木は、墓石は、沈みかかった太陽に朱く色を塗られていた。そんな朱く彩られた口を、瑠美は開く。
「じゃあ、明日は朝から来てね」
「ええ、俺だって久しぶりの故郷なんだからやりたいことあるんだけど……」
俺は頬を掻く。
「知らないよ、そんなこと。五年間も待たせたんだからいいじゃんか、少しぐらい我が侭言っても。久しぶりに帰ってきたって、自分の意志で帰って来なかったくせにー」
瑠美はもっと頬を膨らませ、俺を詰る。
「分かったから落ち着いてよ、朝から来るからさ」
まあ、俺も瑠美と話すのは楽しいからいいけれど。と心の中で付け加えて俺は瑠美を落ち着かせる。
「よろしい。お供え物も忘れずにね、私、甘いのもがいいなー、ケーキとか」
「ええー、図々しいな。まあいいけど、麓のスーパーの奴でいいよな――あ、でもそこのスーパーにケーキとかあったかな? この村、若い人がいないから置いてないかも、牡丹餅ならあるの知ってるけれど……」
それでもいい? と、瑠美に聞く。
「ないなら仕方ない、いいよ」
瑠美はオーケーを出す。
「じゃあ、今度こそ帰るね。また明日」
「うん、分かった、また明日ね」
俺は踵を返し、歩いて行く。階段を降りる、その前に俺は後ろを振り向く。
そこには、セーラー服の少女が、瑠美が手を振っていた。
これからも世界は廻っていく、その中で青年は前へと進み、セーラー服の少女はその場に留まり続けるだろう。毎日訪れる夕焼けの朱色はいつもと同じに、それでいて、いつも新鮮に、この世界を、彩るのだ。
【終わり】
これにて「朱色」は完結となります。少ないながらも読んでいただいた方、本当にありがとうございました。では。




