第十五話 魚の干物は一夜干しが美味しい
(十五夜とか書きたくなるダジャレ)
さかなの日干しを台無しにされた。
普通の?日干しが無いのは、塩を作っても塩で売っていて塩が少なかったからだった。だから海水を火魔法で煮詰めて、開いた魚を漬けた。
板を借りて並べ、魚を狙った鳥の魔物が来るというので、交代で見張り番もした。
魚は、ミーアをいじめてた男の子達の親が、お金を貰いすぎだって言って安く譲ってくれて、捌くのも手伝ってくれた。
天気も良くて、もう少しで魚の日干しが完成だぞっていう時に……。
食堂で焼き魚定食を食べていた。魚の見張りはセシルだったはずだ。
冒険者ギルドの隣の物見やぐらの鐘が、カンカン何度も打ち鳴らされた。
「クラーケンだー!クラーケンが出たぞー!」
情報通のおばちゃん達によると。
ビッククラーケンは数年に一度、獲物を追って入り江に入り込んで来る事が有るのだそうだ。
外に出て、やぐらの途中にある出っ張りまでジャンプした。
漁に出ていた船が慌てて岸に向かうのが見える。
入り江の先の所に大きな頭(本当はお腹だけど)がズズズズズと盛り上がり、盛り上がった海面が波になって押し寄せる。クラーケンは海中に沈んだり現れたりを繰り返し、そのたびに大きな波が押し寄せる。
漁に出ていた小船は砂浜に打ち上げられ、漁師さんたちは高台へ走っている。
波は海岸にある小屋の辺りまで押し寄せ。
魚の干物を作っていた板まで押し流し、引き波で全て持って行ってしまった。
セシルも引き波で海へ流されたが、次に来た波で飛ばされ漁師小屋の屋根に乗っかった。
セシルは自分の怪我くらい自分で治療できるから良いだろうけど。
魚が。楽しみにしていた魚の干物がぁ。
腰にロープを着けた冒険者のおじさんが、海岸にいる人を助けに行ったり、冒険者ギルドの人がポーションを持ち出して来たりしている。
ぼくは、ぼくは、ぼくは無力だー。
ミーアが
「助けに行かないの?」
と小首をかしげ、かわいく聞いて来るけど。駄目だ。みんなの無事を祈るしか出来なかった。
屋根の上にいたセシルはポーターの双子が伸ばした両手の上に乗せて高台まで戻ってきた。時々海に浸かってたけど、流されずにここまで来た。
「セシルお姉ーちゃん良かったね。」
「ええ。私はもう大丈夫です……。ですが。」
ぼくの方を申し訳無さそうにじっと見てくる。
「さ、魚は流れましたが、せ、セシルさんが無事なら問題ありません。」
今度は他のメンバーからジト目で見られた。
しばらくするとクラーケンは静かになった。
過去にはクラーケンが何日も居座って漁が出来なかったという伝承が有るようなので安心は出来ない様だった。
町にいる冒険者が強制的にギルドに集められた。
レベルが低いと通常は強制的には集められないはずだけど。人数が少ないのでギルド長権限で強制的だ。
決まったのは、
どこにいるか調べる。
可能なら追い払う。
可能なら討伐する。
調べるのは海からと、岬の突堤から。船に乗せられそうだったので、岬からの調査を志願した。
セシルが小声で、
「まさか……。勇者様は泳げない……。」
なんて言ってるが無視した。
小学校も中学校も山間に有ってプールを作るような広さが無かった。夏は沢や滝で遊んだけど普通の服だった。
高校にプールは有ったけど競泳部やアーティスティックスイミングで部活で使うだけで授業は無かった。
家族で海岸に行くことは有っても砂浜に普段着でいるだけだった。
つまり今まで泳いだことが無ければ水着になったことも無い。泳げる訳がないのですってば。
聞いたらミーア以外は泳げるらしい。
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