プロローグ
途中まで投稿した後、読みづらかったので書き直しました。メインのストーリーは一緒です。
フラッシュが光った。プロ用の機材だからなのかスマホのフラッシュよりずいぶん強い光だ。真っ白になった視界が世界の映像を取り戻したとき。知らない光景が有った。
白い司祭の様な服を着た人。甲冑を着てこちらを見て驚いている剣士の様な人。さっきまで見えていたカメラマンや順番待ちの人。イベントに群がる人の喧騒も聞こえない。
足元では、魔法陣がぼんやり光を放っていて、やがて光を失った。
なんだ、何がおきてる。
時間は今朝にさかのぼる
今日は早起きして朝一番の電車でイベント会場にやってきた。ラノベを出版している出版社が何社か集まった合同イベントが今週末開催されるからだ。
イベントの初日の平日で金曜日だというのに、もう行列が出来ていた。30人くらいだろうか。
場所は年に何度も大きなイベントが開催される、海沿いにある逆三角形の建物では無い。六本木のテレビ局の隣にドーンとそびえ立つでっかいタワービルだ。
そこの最上階にあるイベントスペースで今日から三日間開催される。
同じ階の美術館には何回か家族で来た事があるから場所はちゃんと分かった。今日は一人だ。
入場待ちの行列には(って10時開場なのにまだ8時だってば)露出の多いコスプレでキャリーバック抱えたグループや(レイヤーさんか?)プロのコスプレ撮影目当てなのか大きなカメラを抱えたお兄さんが所々にいるし、日本語では無い言葉で話しているオジサンたちのグループとか(転バイヤーか?)がいる。
何人かぼくと同じ年代の中学生くらいの子が小説を読みながら並んでいた。今時スマホやタブレットじゃなくて文庫本で読むなんて。親近感がわく。
いやそれより今日は学校はどうした、学生は勉学に励め!ぼく?ぼくは良いんだ16歳だけど学生じゃない。学校はやめたから。ぼくは誰に言い訳してるんだろか。
開場時間になりぞろぞろと入っていく。
イベント自体は無料なんだけど最上階に上がるのに料金が掛かる。
後で時間があれば屋上も行ってみよう。チケットを買うと”揺れませんよ”という触れ込みのエレベータに乗る。うん確かに揺れない。
先頭から入場が始まった。
走ってるやつがいて、「走らないでください!」って言われてる。それほど広くない会場なんだから走ってもしょうがないのに。
会場入り口で案内のチラシをもらう。アニメ化した作品の主題歌を歌うアイドルのイベント。次にアニメ化する作品の紹介イベント、人気作家のサインイベントが何時から始まるか書いてある。
後はフロアの簡単な地図。フィギアの展示、少し奥へ歩くと各社の作品紹介エリアで主人公や仲間のコスプレをした人たちが出番を待っているのがステージの横から見えた。
今日の目標の一つはお気に入りの作家さんのサイン会に参加すること。今まで何冊も出版しているのに初めてのサイン会だからがんばってやって来た。ただ始まる時間がまだ先なので別の場所へ向かう。
会場の空いた壁の部分には各社ごとに表紙イラストが展示してあったり。アニメ化の設定資料、書下ろしのイラストなんかもある。
今日来たもう一つの目的。
レンタルの写真撮影スペースで写真を撮るため。
フロアの隅に神殿風のセットが組まれて下には大きな魔法陣が有った。横で担当の人なのか点けたり消したりして確認していた。
その横には全身鎧を着たマネキンや巨大な盾や剣が置いてある。猫の絵が描かれたドアや。青い猫のロボット並んだドアも置いてある(隣のテレビ局の関係か)。スライムのぬいぐるみやワイバーンの頭やオークなんかのモンスターのフィギア(セットなのか?)も
大きなグリーンバックの衝立や軽トラの運転席だけも置いてあった。まぁトラックとか有りがちだけどね。
この撮影スペース半年前に別の大きなイベント使ったセットや小道具を持ち込んでのこじんまりとした開催だった。前回は会場までは行っていたけど人は大勢いて恥ずかしいし、服は普段着だしで見るだけで帰った。けしてコミュ症ではありません、うん。
その後で撮影しとけば~って後悔したので、今日はしっかり準備をしてのリベンジだった。
胸当てと腰当の皮鎧っぽいコスプレのお姉さんが声を掛けてきた。受付しますかとのことなのでお願いして説明を聞く。
コスプレに嵌って今はカメラマンもしてるんだとか。周りのビキニに薄い布を腰に巻いたみたいな露出の多いお姉さんもカメラマンなんだそうだ。黒子っぽい服の男の人や部分金属鎧の男の人はアルバイトのセット移動係らしい。
武器や装備、コスプレ衣装も基本無料だけど壊れた時の為に保証料は必要だった。予定していた料金を支払う。
武器はなんか思ってたイメージと違うし、コスプレ衣装だってサイズ合わないでしょ。大人用と子供用どっちも大きかったり小さかったり。
ただ、貸出料は時間での料金なので、気に入った写真が取れたら別のセットでも撮影しようかとも思う。
使うセットとイメージをお願いする。
神殿の背景に床は魔法陣。天井の照明を暗くしてもらう。
リュックから用意してきた指無しグローブをはめて上着を脱ぎジャージの下も脱ぎ短パンになる。(下着じゃないですよ)上着は腰に巻いてタンクトップ姿になる。
カメラマンのお姉さんがギョッとしている。
まぁタンクトップの首から見えるのは、肩から首へ裂けるように赤く傷。足の太ももには大きな傷から血が垂れて、他にもいくつもの傷が見えるのだから。
もちろんこれは特殊メイクだ。
朝ここへ撮影に行くって行ったら、ノリノリでこんな感じになった。ぼくは肌の色がちょっと濃いから、通販の傷シール貼って、「シールだって分かりやすいなー。」って言ったら。
とうちゃんが、俺がやってやるって手を出してきた。
いくらプロだからって、肌が出ていないところや、顔まで傷だらけメイクをしようとするので、顔のメイクは全力で止めてもらった。普通に電車に乗るんだから、通報されるでしょうが。
「あ、これ特殊メイクなので…。」
カメラを抱えたお姉さんは慣れているのか、準備してくれる。引きつった顔をしているのはアルバイトのお兄さん達だ。
ステージ横の籠に、リュックを置きステージに向かう。
イメージは中ボスに一人で挑む格闘家。
さすがにボスには一人で挑まないでしょう。
ここへ来るまでの戦闘で怪我をしているが、「ふっ」と笑いを浮かべ敵に挑む。そんな感じ。
脚力を上げるブーツ。
腕力を上げるグローブと腕輪のセット。
集中力を上げるイヤカフセット。
腰に巻いた衝撃を和らげる服。
敵の情報を表示するメガネ。あ、メガネはなんか違うので腰に巻いた上着のポケットに押し込んだ。度は入って無いので問題ない。
「お願いしむす。」ちょっとかんだ。あまり人は居ないけどちょっと緊張した。けしてコミュ症ではありません。
いくつか考えていたポーズの中から先に決まっているところから撮影してもらう。
まず中ボスに辿り着き敵を睨み付けるファイティングポーズ。
次は片膝をついて両手の指を組み。討伐した後の感謝のポーズをする。
フラッシュが強く光った気がした。
体がぐらっと揺れた気がして、一瞬意識を手放した。
そして、目を開けたときは知らない場所だった。
……なにこれー。
≪異世界勇者は帰り道を探す≫もよろしく。