3
「皆さんの能力は、私の方で、移動に特化したものが付与されるようにさせていただきました」
異世界から人材を召喚する。そして、付与される能力の方向性を定める。それが召喚士の仕事らしい。
そして、今回のミッションに合わせ移動に特化した能力が、蓮弥たちに与えられた。
ベストの男の能力。「ワープ」。
スウェットの男の能力。「空を飛べる」。
蓮弥の能力。「足がはやい」。
俺のこれ能力でもなんでもないじゃん!
全然チートじゃないじゃん!
それが蓮弥の感想だった。
一番張り切った自分の能力が一番しょぼいということが、恥ずかしいと同時に、しかし番組的には面白いのではないだろうかと、おいしく思っていた。
城の敷地内にある乗馬コースで、それぞれの能力を披露することになった。
「ここから、コースの終わりまで、移動してみてください」
「じゃあ俺から」
ベストの男がそう言うと同時に消えた。そしてその姿はラウルが示したゴール地点にあった。そして次の瞬間にはもう、戻ってきていた。
「じゃあ、次は僕が」
スウェットの男がそう言って軽くジャンプすると、その体は落ちてこないで、そのままゆっくりと浮いていった。
「おー、楽しい楽しい」
スウェットの男はふわふわと飛びながら、示されたゴール地点に着陸し、そこからまた飛んで戻ってきた。
果たしてどういうカラクリなのだろう。ワイヤーアクションだろうか。
「次、どうぞ」
ラウルに促され、蓮弥はスタート地点に立つ。
きっとどんなスピードで走ったところで、みんなは「すごい速い」と驚くのだろう。
そういうドッキリなのだろう。
考えてみれば、自分の能力だけこんなしょぼいことが、ドッキリである何よりの証拠だ。
蓮弥の能力が「ワープ」や「空を飛ぶ」であれば、実際にそれが出来なくてはならない。
しかし「足がはやい」だけならば、ただ走ればいいだけだし、周囲もそれに驚いて見せればいい。
それだけで「はやい」という演出になる。
「じゃあ、行きます」
そうして地面を蹴った。見えない壁があったかと思った。
感じたことのない風圧を感じ、
見たことのないスピードで、景色が後ろに流れていった。
いや、正確に言えば、
風圧も流れる景色のスピードも、
ジェットコースターに乗っている時のものに近かった。
だから感じたことがないというのは、間違いかもしれない。
ただ間違いなく、自分の足で走る時には、感じたことのない感覚だった。
予想より遥かにはやくゴール地点に到達し、
止まらねばと足でブレーキをかける。
身体を横向きにして、進行方向と直角に足を踏み出す。
そのままズザーッと滑るかと思いきや、
踏み出した一歩がすべての勢いを吸収し、
その反動が、元来た方向へ駆け出すスタートダッシュとなった。
予想していない下半身の力に振り回され、準備していなかった上半身がバランスを崩し、転びそうになったものの、
体幹も強くなったのか、すぐに姿勢を取り戻した。
そしてスタート地点に戻ってきた。
「はやいね」
スウェットの男が言った。
「チーターじゃなくて、チーターだね」
うるせぇと思った。
全力で走ったにも関わらず、息も切れていなかったし、心臓もほとんど拍動を速めていなかった。
さらに言えば、全力も出していない気がした。
もっとはやく走れる気がした。
だけどこのスピードは何なんだろう。
なんでこんなスピードで走れるのだろう。
どんなトリックで?
景色は映像で、高速で後ろに流れるようにして、
風圧も、どこからか扇風機で風を起こすなどして、錯覚させているのだろうか。
不意打ちで走ってみた。変わらず、高速が出た。
止まって、ゆっくりとラウルたちのもとへ戻る。
そして、男ふたりに尋ねる。
「これって、ドッキリじゃないの……?」
「違うと思うよ」
スウェットの男が応えた。