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共に召喚されたらしいベストの男とスウェットの男とともに、別室に案内された。
腰かけるソファの座り心地はこれまでに感じたことのないもので、これまでに触れたことのない素材で出来ていた。
出されたお茶の味はこれまでに味わったことのないものだった。
凝ったドッキリだなと思った。
「突然のことでごめんなさい」
魔法使いが、謝った。
「私はラウル。召喚士です」
蓮弥がほかの二人の顔を見ると、二人も同じように状況を呑み込めていない顔をしていた。
この二人は、仕掛け人なのだろうか。ターゲットなのだろうか。
「この世界で起きている問題を解決するため、別の世界から、あなたたち三人を召喚させてもらいました」
進んでいく説明に、蓮弥はどう振る舞ったらよいか図りかねたまま、とりあえずテレビ的に面白そうなキャラクターを演じようと、腕を組み、片手を唇に添えて、「ふむふむ」とうなずいて見せた。
「この街から遠く北へ行ったところに、魔法使いが住んでいる城があります。そこの魔法使いは、城で魔物を生み出しては、世界に放っているのです。その行為をやめさせるために、これを、その城へ届けてほしいのです」
そういってラウルは三つの箱をテーブルに置いた。
「中身はすべて同じものです。何が入っているかのお伝えはできませんが、それを渡せば、魔女は魔物を世界に放つことをやめてくれます」
「どうしてお城の皆さんで行かないのですか」
スウェットの男が聞いた。当然の質問だと蓮弥も思った。
「道中が大変危険なのです。大変長い距離の旅になり、道中に休めるような町はなく、獰猛な生物もおり、食料となるようなものもありません。私たちの装備では、この行程を乗り切ることができないのです」
「そんなん、俺らにだってできねぇよ。ていうか、自分たちにできないことを俺らに押し付けんなよ」
ベストの男が言った。もっともだと蓮弥も思った。
ラウルは申し訳なさそうに唇を引き締めて俯いた。
かわいいなと思った。どこのタレントだろうと思った。
「やってあげようよ!」
番組を盛り上げようと思って、蓮弥は言った。
それから、この召喚士役の女性と仲良くなりたいという下心もあった。
スウェットの男は怪訝な顔で、ベストの男は睨むように見てきた。
「困っているんじゃないか! 僕たちが助けてあげようよ!」
「はやく走るしか能のない奴はちょっと黙ってて」
ベスト男がいった。
その言い草に、蓮弥は腹を立てたが、視聴者への好感度を気にして、ここで喧嘩をすることは控えておいた。
隠しカメラはどこにあるのだろう。
「ところで、そう、それ。さっきの足がはやいって文字が空中に出たの、あれは、なんなんですか?」
あれは、どういう技術でやってるんですか?と言いそうになったのを堪えて、蓮夜は聞いた。
蓮夜の質問にラウルが答える。
「異世界から召喚された方々には、「チート」と呼ばれる能力が付与されるのです。例えば手から火を出せるとか、触れずにモノを動かせるとか。皆さんのように召喚された方々は「チーター」と呼ばれます」
「へー! すごい!」そういう設定なのか。
「で、お前は足がはやいだけなんだよ」
辛辣な物言いでベストの男が言う。仲良くする気がないのかこいつは。それとも番組スタッフに、感じ悪く振る舞うように指示されているのだろうか。
「じゃああなたの能力はなんなんですか」
ベストの男に問い返してみると、思わぬ回答が帰ってきた。
「ワープ」
「へ?」
「だから、ワープ」
完全に上位互換の能力だった。