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体育祭が間近に迫っていたので、何となく走ろうと思い、ジョギングをしていた。
直前の時期に少し走っただけでタイムが大きく縮むなんてことはないとわかってはいるが、それでも、体を動かしておくのとそうでないのとでは、少なからず差が出るだろうと考え、軽い気持ちで走り出した。
曲がり角は飛び出さず、横断歩道も左右をよく見てから渡った。
だから、事故などにはそう簡単に遭わないと思っていた。
だけど、突然、ヘッドライトのようなまばゆい光が、蓮弥に向かって突っ込んできた。
(うっっっそ!)
と思った。咄嗟に壁沿いにステップすると、光も方向転換し、
なおも蓮弥に向かって突っ込んできた。
(いやいやいやいやいや!)
何が起きているのかもよくわからないまま、とりあえず車だろうかという判断のもと、
盾のように、腕を顔の前でクロスさせ、ジャンプした。
そして。
そして、何にも衝突しないまま着地をした。
事なきを得たかと思った。しかし何の物音もなく不思議でもあった。
ちらと腕の間から見える地面は、真っ赤であった。
(うそ! 血!?)
あまりのケガに脳が音に反応しなかったのかと思ったが、
恐る恐る腕を避けると、その赤はどうやら赤絨毯の赤のようであった。
足もちゃんとありそうだった。
(は?)
状況に理解が追いつかないまま、周囲を見回す。
人がたくさんいた。広いところだった。
自分と同年代、そして親しみのある服装の男が二人。
一人はジーパンにチェックのシャツにベスト、一人はスウェットを着ていた。
それ以外の人たちは、ファンタジー映画の中で見るような服装をしていた。
左右の壁沿いに、鎧を着て剣を持った兵士?と思われる人たち。
向かいの壁沿いには王様?らしき人が椅子に座っている。
背もたれが長い。意味あるのかなあれ。
王様の横にはお姫様とお妃さまみたいな人がいた。
一番近くにいる変わった人は、大きな杖を持ち、大きな帽子を被っていて、
魔法使いみたいだった。
とりあえず、一番親しみの持てる外見の二人に助けを求めるように声をかける。
「あの……」
二人とも何も返してくれない。一人は難しい顔で、もう一人は特に表情のない顔でこちらを見ていた。
なんだろうこれは。ドッキリだろかと、蓮弥は考えた。「もしも突然、ファンタジーの世界に連れていかれたら!」みたいな、テレビ番組のドッキリかなと思った。
だとしたら、そのノリに合わせようと思った。
「王」
魔法使いみたいな人が、王様みたいな人を振り返って言った。
「3人目の召喚が成功しました」
なんか言葉もめっちゃわかるし、別世界とかなわけないし。これ絶対ドッキリだろう。
どう振る舞ったら面白いだろうか。
「能力はなんだ」
「今調べます」
王(でいいか、もう)の言葉に、魔法使いが応えて、蓮弥の後ろに回った。
一緒に回ると、「あなたは動かないで」と言われて、大人しくした。
魔法使いが後ろで何をしたのかはわからないが、しばらく立っていると、背中を押されたような感覚があった。
そのまま胸が前に出て――胸元から何かが飛び出た。
呆気に取られて、何も反応が出来なかった。
飛び出た何かは、空中に文字となってとどまった。そしてこう書いてあった。
「足がはやい」
何となく全体の空気ががっかりした感じになったことだけは分かった。
がっかりされてしまってどうしようという思いと、
この文字を表示している技術はなんなのだろう、すごいなぁ、
プロジェクションマッピング的なやつかな、と蓮弥はそんなことを考えていた。