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それからも審議は続いた。
はっきり言って全部が全部でまるっきり面白くない。後、ほとんどが何をしたいのかよくわからなかった。
自分で言うのもなんだが、これでは笑うどころか段々不機嫌になっていくばかりだ。
「少し休憩に入ります」
三十組中十五組が終わったところで道端君が言った。
体育館から生徒会メンバー以外が居なくなる。
「いやあ、だいぶ落としたわね。外で泣き崩れてる奴いっぱい居るわよ?」
「姫があまりに厳しいもんだから自信喪失した人達も居そう。まあ、暴動起こされるよりは良いけど」
一ノ瀬と長澤さんが椅子の両側に立って言った。
「わたしは事実を言っただけ。だいたい、文化祭のことを勘違いしてる人が多すぎる。文化祭はあくまで学校行事なんだから好き勝手やって良いわけじゃない。怪しい人体実験とか、面白くもない漫才なんて以ての外」
ため息と共に言う。すると、舞台の隅でしょぼくれていた男二人が立ち上がった。
「面白くない漫才って俺達のことかよ!」
もちろん、篠と小笠だ。
「やめろよ、篠。姫……会長のいう通りだ」
怒鳴る篠を小笠が止める。
「なんだよ、面白くないって認めんのかよ、小笠!」
「だって、そうだろ……!」
「っ、やめろよ! そういうこと、言うなよ!」
黙りこむ二人。
「……あのさ」
馬鹿ばかしいやり取りに思わず口を開いたわたしの台詞を遮るように
「先輩方、何で三文芝居してんですか?」
舞台袖から出てきた城崎君が言った。
「てめ、城崎!」
「何してんだよ、城崎!」
正しいツッコミかつ正しい反応を示した城崎君を責める篠と小笠。
「うえ、俺なんかしました?」
城崎君は先輩二人に怒鳴られ、怯えたチワワのようにビクッと震えた。
「それはあんたらよ、城君、気にしなくて良いわよ」
「あ、はい」
しかし一ノ瀬がそう言うとけろっとした顔で城崎君はこちらに走り寄って来た。
たぶん、篠と小笠だけで漫才するより城崎君を交えた方がよっぽど面白かっただろう。笑うかどうかは不明だが。
「あの、皆様方……」
と舞台の下から声がした。
「どうしたの? 福原」
真っ先に舞台下に顔を向けた長澤さんが聞くと、福原ちゃんは慌てた様子で
「少々ご報告がありますです」
と言った。
「何?」
「今、野口さんと道端くんと参加団体数を数えたですけど、どうやら一組足りないようでして」
「数え間違いは?」
「そんなはずないですよ。三人で数えて全員同じ結果でしたから」
わたしと長澤さんの質問に福原ちゃんは律儀に返してくれる。
「あら、じゃあ遅刻かしら? 後から来るかもしれないから、そこの番がきたら後回しにして次の組に回して良いわよって二人に……って来たわね。のぐ! みっちゃん!」
一ノ瀬が口の横に手を置いて中に入ってきた二人を呼んだ。
「はいー」
「お呼びで?」
小走りで駆け寄ってくる二人にさっき福原ちゃんに言いかけたことを話す。
「はーい、了解ですー」
「あいあいさー」
二人は二つ返事で答えると、舞台に上がって城崎君とぼそぼそ何かを話し始めた。
「さて、そろそろ休憩も終わりね。しのっちは城君と上行って、笠はながちゃんとはるちゃんと下の警備。頼んだわよ」
一ノ瀬がきびきびと指示を出す。
生徒会役員は各々返事をすると、任された仕事に着いた。
「で、あんたは可愛く笑うのが仕事」
一ノ瀬の仕事はよくわからないが、お節介な友人殿はニコリと笑うとそう言って舞台袖に消えて行った。
わたしはもう一度大きく息を吐いた。
生徒会に居るのは楽しい。でも笑えない。
一回笑えば何か違うのだろうか。考えてみても答えは出なかった。