2
放課後、第二体育館の舞台上にわたしは居た。
玉座。
見た瞬間にそんな言葉が過ぎり、同時にそう考えてしまったことに呆れる。
舞台の上に設置された椅子。それはいろいろなものによって装飾され、金色に輝いていた。
明らかに、生徒の間で噂されているとある悪口に影響されているそれを、わたしは睨む。くだらない噂を面白がって便乗したのであろう生徒会役員達に軽く殺意すら覚えた。
「座ってください、会長!」
とはいえ、その玉座的な椅子を作った城崎君の誇らしげな顔を見て、頭ごなしに怒ることも出来ないのだが。
「ありがとう……」
わたしはげんなりしながらもその椅子に腰を下ろした。座り心地はまあ、悪くない。
顔を前に向ける。普段は滅多に遣われることのない第二体育館には開始十分前だと言うのにたくさんの人で溢れていた。
きっと有志団体参加予定者と野次馬だろう。
全員が全員、ちらちらとこちらを見てくる。
不意に会場にいる誰かの声が聞こえてきた。
「ああしてると本当に姫様みたいだな」
「そうだな。相変わらず機嫌悪そうだし」
誰かはわからない。だから、発表する前に落としてやろうか、と出かけた言葉はぎりぎり呑み込んだ。
「城崎君、他のみんなは?」
自前だと思われる工具を嬉しそうに片付けている城崎君に声をかける。すると、彼はきょとんと首を傾げてから「ああ」と思い出したように言った。
「一ノ瀬副会長と長澤先輩と福原さんは参加予定の有志団体と順番を人数分刷ってて、野口さんと道端はナレーションの練習してました」
「篠と小笠は?」
「篠先輩と小笠先輩はなんか漫才の練習してましたよ」
「は?」
一年の頃から共に生徒会活動を行ってきた馬鹿二人の顔を思い浮かべ、思わず口をぽかんと開ける。
「なんか二人も有志参加するそうですよ」
「何をしているの……」
痛んできた頭を押さえながら呟くと、城崎君は困ったような笑みを浮かべた。
「じゃ、俺もちょっと仕事があるんで」
彼が舞台袖に戻ると、いよいよわたしはこれが随分と可笑しな状態だということに気付かざるをえなかった。
ただ玉座に座って仏頂面をしているだけ。なんの拷問だろうか。
周りの視線が痛い。というか、恥ずかしい。そんな素振りは外に見せないようにしながら、わたしは一人悶絶した。
ただ一人で一ノ瀬たちがはやく来ないものかと、そればかり考える。
ため息は体育館を埋め尽くす有志団体参加者の喧騒にかき消されていった。
口内で面白くない、と呟く。
すると、わたしが退屈するのを待っていたかのように、会場の騒がしさに負けない足音が聞こえてきた。
舞台袖から生徒会メンバー五人、一ノ瀬、長澤さん、野口ちゃん、道端君、福原ちゃんがようやく入ってきた。
「あら素敵ね、お姫様」
今、表を配り終えたらしい。やってきて早々、わたしを見てくすっと笑う。
わたしはそれをそっぽを向いてやり過ごす。
「照れなくていいのよ?」
一ノ瀬はまた可笑しそうに笑った。
「うるさい」
わたしはようやくそれだけ返した。
「あ、あの、はじめても大丈夫ですか?」
と、こちらの様子を伺うように、緊張した面持ちの野口ちゃんが言った。
「ええ、お願い」
「問題ないわ」
一ノ瀬と同時にそう返す。
「は、はい」
彼女がマイクのスイッチを入れると、ザーザーとノイズがした。
マイクが入っている、ということは城崎君が袖に引っ込んたのはマイクの調整をするためか、と頭の隅で考える。
「お集まりの皆様、大変お待たせ致しました。これより、文化祭参加有志団体選抜会を始めようと思います」
体育館に野口ちゃんの声がこだまし、参加者達は一瞬で静まり返った。
「皆さんにはこれから文化祭で発表するもので、ここに居られる会長を笑わせてください。笑わせなくても会長に『参加可』と言わせることができれば合格です」
続けて、野口ちゃんからマイクを譲り受けた道端君が言う。
説明を聞きながら、わたしは良く出来たルールだと思った。
なぜならわたしが笑わないことがしっかり考慮されているからだ。たぶん考えたのは一ノ瀬と長澤さんだろう。二人とも抜かりがない。というより、わたしのことをよくわかっている。
「参加団体数は三十組。エントリーナンバー一番は前に来てください」
「はい!」
道端君が言うのとほぼ同時に、男性特有の野太い声がした。