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 なにか通った。


 人気の少ない校門を過ぎた時、わたしの横を一列に並んだ謎の集団が通り過ぎて行った。


 その集団の最後尾にいる人の背中と、一際大きく揺れている誰かのリュックについている『黄金のガチョウ』を呆然と眺める。


「……?」


 何だったのかわからず、わたしは首を傾げた。しかし、もっと良く見ようと思ったとき、それはもう遥か彼方に消えていた。


「あんたそんなところでなにしてんの?」


 不意に後ろから声がして振り返る。そこには友人の一ノ瀬がいた。


 足元には集められた落ち葉。箒を持っているのを見る限り、また雑用を手伝っているのだろう。


「いや、なんでも」


 呆れ顔の友人にわたしは小さく返す。


 さっきの得体の知れない集団について一ノ瀬に聞こうかとも思ったが、そこまでの興味もわかなかったので、黙っていることにした。


 一ノ瀬の横を通り過ぎると、一ノ瀬は「ちょっと待ちなさいよ」と言って横に並んだ。


 二人、校舎までの道を歩く。


 他愛のない会話をしていると、一ノ瀬がふと思い出したように言った。


「そういえば、あんた、今日放課後空いてる?」


「空いてるけど」


「ならちょっと付き合ってよ」


「何に?」


「今度の文化祭、有志団体が殺到しちゃったでしょ? それの選考会。条件を『会長を笑わせたら承諾』ってしちゃったからさ、あんた居ないと困るのよ」


 いつの間にそんなことになっていたのかだろうか。文化祭関係のことを全て一ノ瀬に任せていたので、それは初耳だった。


 そういうことになったならちゃんと言ってほしいものだ。


「その時点で諦めた人の方が多い気がするけど」


 しかし、そんな不満は言わない。


 こういうときはお互い忙しくて、言う暇がないことが多いのだ。だから責めたところで意味もない。


「あたしもそう思ってその条件にしたんだけどねぇ。なんでか逆に燃え上がっちゃって……」


 頬に手を当て「困っちゃうわぁ」とぼやく一ノ瀬。


 反して、わたしは別になんとも思わなかった。


「面白くなかったら面白くないって言っても構わない?」


 素朴な疑問を投げ掛けると、僅かに浮かんだ微笑を歪めて震える声が言った。


「多少はオブラートに包みなさい」


 わたしは小さく溜息を吐いた。


「一ノ瀬の言うことはいつも難しい」


「あんたねぇ……。もう少し、笑った方が良いわよ? 眉間にしわ寄せて可愛い顔が台無し」


 呆れ顔の一ノ瀬はいつも通りの小言を言う。まったく、まるで劇に出てくる貴族の口うるさい従者みたいだ。耳をふさいでも聞こえるから怖い。


「別に、面白くもないのに笑えない」


 わたしは短く呟くと校舎に向けて進む速度を少しだけ速めた。

 今日もまた、面白くない一日が始まる。


 そう考えると少しだけうんざりした。

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