終わらぬ冬の王国
空を、重い雲が覆っている。
しばらく前から、こんな日が続いていた。
国を、白い雪が覆っている。
こうなって、どれだけ経つのだろう。
春は、もう来ているはずなのに。
ある日、一人の旅人がこの国を訪れた。
静かな国である。
辺りを見渡せば、所々店が出ていた。
旅の商人のようだ。
その多くが、食料を扱っている。
この国が未だに機能しているのはそのおかげなのだろう。
冬が続けば、やがて食料が尽きる。
そうなれば、食料の需要が上がり、少しばかり多く出してでも買うだろう。
チャンスと見た商人が寄ってくるのはむしろ当然といえる。
しかし、旅人は思う。
これではやがて滅びると。
金を出してばかりでは、やがて払えなくなるのは当然だ。
そうなれば飢えて苦しむしかない。
こうも冬が続けば、職を失うものも出てくるはず。
国として存続できるかは、国王の腕の見せ所だ。
しかしなぜ、冬が終わらないのか。
旅人は不思議に思った。
だが、国民が知っている可能性は低い。
この手の情報は一部の識者くらいしか知らないのもだ。
たとえ原因不明だとしても国が調べてくれているはず。
いや、そうであるのなら、噂話くらいは広がるはずである。
聞いてみれば案外答えてくれるかもしれないが、この寒さだ。
外で立ち話をしたがる者はいまい。
酒場くらいがちょうどいい。
資金的に国民は来ないだろうが店主や従業員はいるだろう。
商人たちが多く来ている。
それを考えれば、店を開けている可能性は高かった。
酒場を探して通りを歩く。
しばらく歩いて、ようやく見つけた。
中に入って店内を見渡すと、案の定商人たちがいたが、知り合いはいなかった。
旅人は密かに期待していたのだが。
店は、店主が一人で切り盛りしているらしい。
何も注文しないのもあれだからと、一杯頼んだ。
少し高いが、現状を考えれば妥当だろう。
旅人は店主に話を聞いた。
まとめれば、
*この国の季節は四人の女王によってもたらされる
*女王が塔に住むことで季節は訪れる
*その内の、冬の女王が塔から出てこない
と、言うことである。
「んでもって、国王陛下がお触れを出されたんだ。
季節の廻りを絶やさずに春の女王と交代させれば好きな褒美をやるってな。」
大体の状況を把握した旅人は宿の場所を聞き、酒場を去った。
――ちょうどその頃、王は不機嫌だった。
塔に使いをやったが戻らないのだ。
もう何週間も待っている。
期日を過ぎたときに使いをやったが、戻らない。
使いをやったのは三度目だ。
イライラが募るが、戻ってこないものはどうしようもない。
呼び戻すために使いをやるのも無意味に感じていた。
お触れを出したことで、国民や冒険者が塔に向かったことは知っていた。
だが、彼らが戻ったかどうかを、王は知らなかった。
「・・・いつまで私を待たせる気か。
いつまで待っても、冬は終わらぬではないか!!」
――宿を取るのは早いうちがいい。
だが、この国には商人たちが多く来ている。
部屋が空いているとは思えないが、一応確認は取った。
満室とのことだった。
他もあたってみたが同じだった。
それにより、野宿が決定した。
旅人は仕方なく、寝心地のよさそうな場所を探して歩く。
一応寝具は持っているが、この国では心もとない。
雪は豊富にあるので、風をしのぐくらいはできるだろう。
風がなければ意外と暖かいのだ。
そんなことを考えながら歩く旅人に、一人の商人が声を掛けた。
「やあ、久しぶりだな。」
「・・・おまえか。
久しぶりだな。
やはり来ていたか。」
「そりゃな。
で、何かいいネタはないのかい?」
旅人はよく、この商人に情報や商売を教えていたのだ。
「ああ、いいネタがある。
だが、商売敵の多いこの場所で話すのは無用心すぎる。
場所を変えよう。
宿は取ってるか?」
宿に向かう途中、旅人はふと塔の話を思い出した。
「そういえば、女王のすむ塔のことは知っているか?」
「ん?
ああ、商売の合間に聞いたよ。
行った奴がほとんど帰ってこないんだとさ。
全員じゃないらしいけど。」
「そうだな。」
旅人は少し考えるそぶりを見せた。
「・・・行ってみるか?
塔の近くまで。」
「おいおい、今からか?
日は高いが、帰る頃には暗くなってるぜ。」
「かまわん。
少し興味がある。」
「・・・まあ、いいけどさ。」
塔の前まで来た。
歩くとたまに、シャクシャクと音がする。
「すごい塔だな。
誰もいやしない。」
「・・・そうだな。」
足元を見ながら旅人は応える。
「住んでるの女王だろう?
もっと兵士とかが守ってたりするんじゃなねえの?」
「・・・足元を見たらどうだ?」
旅人が応える。
言われて下を見れば、赤い雪が飛んでいた。
それが何かを理解した商人は逃げようとしたが、旅人に捕まった。
商人を捕らえたまま、旅人はそれに触れる。
「夏にはこんなのが流行るらしいな。
かき氷とかシャーベットとか。
・・・まあ、好き好んで口にしようとは思わんが。」
「そんなこと言ってる場合かよ。」
ようやくおとなしくなった商人が言う。
それには取り合わず、辺りを掘って言う。
「見ろ、この国の紋章だ。
兵士のようだな。
塔から逃げようとしたらしい。」
「・・・そろそろ行こうぜ。」
「そうだな。
宿に案内してくれ。」
「なあ、さっきいいネタがあるって言ったよな。」
宿に着くと、待ちかねたように、そして気分を変えるように聞いた。
それを受けて旅人は答えた。
「・・・この国は冬が終わらず、チャンスと見た商人が押し寄せている。
国民から見れば、支出が増えたことになる。」
続けて、
「では、払えなくなればどうなる?
この国に収入はあるのか?
税を上げても国民が苦しむだけだぞ。」
「この国はもともと平和な国で、国内だけで回っていたんだ。
外からの収入はないはずだよ。」
「なら、やがては滅ぶ。
食料がなくなれば、後は飢えるのみだ。
生き残りたければ国を出るか、殺しあわねばなるまい。
極限の状況になって助け合える人間はそういないからな。」
「・・・それで?
どうするんだい?」
「他国には優れた技術がある。
つてはあるのか?」
質問の意図を理解して、商人は応える。
「どの技術かによるけどね。
でも、たいていの技術は手に入るはずだよ。」
「それならいい。
詳しいことは、明日説明しよう。」
そして朝が来た。
――王は不機嫌だった。
どうすればいいか分からないからである。
いくら待っても春は来ない。
冬は終わらない。
「女王たちはなぜ動かん。
このままでは、国が滅ぶではないか!!」
王には分かっていた。
この状況が続けばどうなるか。
そして、自分にそれが止められないことを。
いやだったのだ。
自分の無能を見せ付けられるようで。
国王という立場でありながら、何一つ成し遂げられず。
だからこそ、王は不機嫌なのだ。
何も出来ず、ただ結果を待ち、腹を立てることしか出来ない。
そんな自分に嫌気が差した。
「陛下。」
一人の騎士が声を掛ける。
「次は私が塔へ行きます。
報告を聞く限り、使いに出した部下は皆死んだようです。
これが続けば、兵はいなくなるでしょう。
国民の暮らしも苦しくなっている。
もはや一刻の猶予もありません。」
その騎士は、王がもっとも信用している騎士だった。
王には、決心がつかない。
考える時間がほしかった。
「もう少し、待ってくれ。」
王は、そう答えるしかなかった。
――商人は催促する。
「それで、どうすればいいんだい?」
「旅の途中、温室栽培というものを見た。
この国には無いらしいが、出来ないわけではないだろう。
お前にはこれから、これやこの国で使えそうな技術を集めてほしい。
技術もまた、立派な商品だ。
今の彼らなら、多少高くても買ってくれるだろう。
詐欺かもしれないと思っても、期待はするだろうからな。
・・・いや、金を貰う必要は無いか。」
この言葉に、商人はピンと来た。
つまり、金ではなく作物を貰うのだ。
そもそも技術を集めるのにたいした金はかからない。
国民より遠くに足を延ばすだけである。
遠出にかかる費用、それからチップもいるかもしれないが、それだけだ。
金で貰う必要は無い。
むしろ今この状況で、まとまった額の資金を持っているかは疑わしい。
それならば、最初から作物などの商品を貰ったほうが速いし、こちらの儲けにもなる。
月にいくらと量を決めておけば、一定期間で自動的に商品を入荷することになるのだ。
商人にとって悪い話ではない。
もちろん、農家の人にとってもだ。
商人は早速、国を出て技術を集め始めた。
旅人は、塔へ向かった。
塔の周りは、雪に覆われていた。
何もかもが白く染められ、そこに在った赤などは見えない。
多くの人は白を見て、純粋、清潔あるいは無垢などをイメージする。
だが忘れてはいけない。
白は真実を意味することもあるが、白はそれを覆い隠しうることを。
この白の下には何があるのだろう。
赤か、黒か。
それとも白か。
・・・掘り返すまで分かるまい。
そんなことを考え、旅人はその場を後にした。
あまりにも白かったからだ。
また数日して、ここに来るのだろう。
そのときには、何か変わっているのだろうか。
「あ、こんにちは。
お客さんですか?」
宿に帰ると、見慣れない少女が番をしていた。
十四、五歳くらいだろうか
「客でなければ、どうして店に入ってくる?」
「それもそうですね。
えっと・・・。」
「・・・部屋なら取ってある。
帳簿を開く必要は無い。」
「あ、そうでしたか。
すみません、風邪でしばらく休んでいたものですから。
私はミナです。
これからよろしくお願いします。」
「ああ、よろしく。」
簡単な挨拶も済み、部屋へ戻る。
塔について考え始めた。
あの雪の下には、幾人もの死者が眠っているのだろう。
その死者はおそらく、冬の女王を説得するために来たのだろう。
(おそらくあの兵士たちは王の・・・、いや、不謹慎だな。)
それにつまらない。
彼らは少々過激なこともしたのかもしれない。
それはもう分からなかった。
だが、なぜそうまでして塔にこもる?
そして春の女王はなぜ何も言わない?
この国は四季があり廻ることでバランスが保たれている。
冬が続くということは、世界のバランスが崩れるということだ。
季節を預かる彼女たちにそれが分からないはずはない。
このまま進めば、この国だけの問題ではなくなるだろう。
世界的に対処していかなくてはならなくなる。
それは彼女たちも避けたいはずだった。
問題はタイミングだ。
場合によっては冬を終わらせても、世界のバランスは崩れたまま。
それどころか悪化させてしまうかもしれない。
既に何度も期を逃している。
もっと早く解決していれば、バランスは崩れずにすむだろう。
まだ崩れたわけではないが、いずれそうなるのは確実だった。
傾きが大きくなれば、当然片寄り戻らない。
何より重要なのはタイミングだ。
できるだけ急いで、ただし慎重に、修正しなければならない。
解決が遅れれば、それだけ傾きも大きくなる。
だがタイミングを間違えれば・・・・。
急がなくてはならない。
崩れたバランスの影響が出るのには長い時間がかかる。
だが、崩れた要因は残る。
その影響が出るのにそう長い時間はかからない。
現にこの国は滅びかけているのだ。
・・・終わらぬ冬によって。
――騎士は言った。
「陛下、ご命令を。
このままではわが国は滅びます。
私を塔にお送りください。」
「お前が行ってどうなる?
この国を救うためには冬の女王を塔から出すだけではなく、
春の女王を送らねばならんのだぞ。
お前にそれができるのか。」
騎士は答えた。
「私の命に代えてでも、必ず果たして見せましょう。」
王は迷った。
そして言った。
「・・・ここより東に、春の女王の住む泉がある。
まずはそこに行け。
女王たちの住処は決して知られてはならぬ。
信頼できる少数の部下だけを連れて行くのだ。」
王は告げる。
「泉までは三日はかかるだろう。
装備は入念に行え。
その時間も含め、出立は四日後とする。
よいな、決して誰にも知られるな。
もし知られればどうなるか、お前なら分かるはずだ。」
「感謝します、陛下。」
騎士は去り王は呟く。
「急がねばわが国は滅ぶ。
だが急ぎすぎれば、やがては同じことになる。
どうすればいい?
私には分からぬ・・・。」
――三日経って、商人は戻った。
宿の食堂で旅人が朝食をとっているところに話しかける。
「やあ、戻ったよ。
で、あの娘誰?
この前はいなかったよね?」
「ここの看板娘だそうだ。」
ミナが気づいて挨拶する。
「始めまして、ミナです。
よろしくお願いします。」
「うん、よろしく。」
この日は二人とも動かなかった。
そしてその夜、王国は隣国への援助要請をすると発表した。
朝。
長い雪に沈鬱していた国内が久しぶりに沸いていた。
なんせ王国側の大々的な対応はこれが初めてである。
この大ニュースをいぶかしく思ったのは、ほんの一部であった。
「暗渡陳倉だな。」
「え?
どういう意味だい?」
「おかしいとは思わんか?
なぜ西なんだ?
食料を求むなら南、防寒なら北だろう。」
「そういやそうだね。
でも、西が一番近いよ。
場つなぎ的なものなんじゃないのかい?」
「その可能性はないとは言えんが、それにしては大々的過ぎる。
なぜ今になっての要請なんだ?
・・・まあ、プロパガンダの可能性もあるから、ただの推論だがな。
東へ向かう。
お前はどうする?」
「面白そうだ。
一緒に行くよ。」
暗渡陳倉とは、いわゆる陽動作戦の事である。
この場合は、西に隣国への使者(陽動)を置き国民の注意を引き付け、その隙に東から春の女王の本へ歩を進めたのだ。
旅人は、春の女王の事までは予想していなかったが、東でなにかあると踏んでいた。
予想は当たった。
使者を送るパレードが始まる前に東で待っていると、数人の騎士が人目を避け国を出ていくのが見えた。
貨物用の馬車に乗っている。
「彼らはどこに行くのだろうな。」
「さあ?
ここまで大掛かりにやるってことは、何か密命でも受けてたのかな。
ついて行ってみるかい?」
「いや、装備から見て遠出だろう。
ついて行くのは危険だ。」
二人はその場を後にした。
その後は特に進展はなく、商人は営業、旅人は塔を見たり考え事をしてすごした。
――国を出ると、外は真夏のように暑かった。
三日後。
「着いたぞ。
ここが陛下の仰せられた泉に違いない。」
「ですが、女王はどこにおるのでしょう。
辺りには何もありませんが・・・。」
そのときだった。
目の前の泉の水が突然引き始めたのだ。
「こ、これは一体・・・。」
一風、強く吹いた。
思わず目を瞑る。
そして目を開けたとき、そこには春の景色が広がっていた。
咲き乱れる花々。
それらを揺らす暖かな風。
そして、目の前に立つ美しい女性。
「王国の使者ですね。
ようこそいらっしゃいました。」
穏やかな声だ。
「冬の事でしたら、私は動くことが出来ません。
今は夏がバランスを取っていますが、そう長くはもたないでしょう。
無理矢理塔から出すことも出来ますが、その場合、王国は滅びるでしょうね。」
穏やかな声で、そう言った。
「・・・彼女の心も、分からないわけではありません。
ですが、これはしてはいけないこと。
季節を預かる者として、見過ごされるものではありません。」
穏やかな声だ。
だが、口を挟むことは出来なかった。
「戻って王に伝えなさい。
力に頼っていては死者を増やすだけで、何も変わりはしないと。
頭を使うのです。
彼女は意外と単純なのですよ。」
穏やかな声だ。
だが、その声は、とてつもなく恐ろしかった。
その声に騎士たちは応えることすらできず、そして気づいたときそこは王宮だった。
さらにその日は、騎士たちが出発してまだ二日しか経っていなかった。
――春の世界で女王は呟く。
「困ったものですね。
五千年から一万年ごとにこうなってしまう。
また私が動くようなことにならなければいいのですが・・・。
(面倒だから。)」
――二年後。
結局王国はたいしたことは出来ずにいた。
しかし商人が持ち込んだ技術によって、国は持ち直していた。
冬を終わらせるのは急務だが、それを言う者も一部の人間だけになっていた。
(現金なものだ。
しかし、これは先延ばしただけに過ぎない。
このまま続けば、人間は滅びるだろうな。)
当たり前だった。
目の前の危険がなくなったからといって、崩れたバランスが戻るわけではないのだ。
(冬は言わば眠りの時。
そろそろ頃合だろう。)
春に目覚めて夏になる。
夏に動いて秋になる。
秋に疲れて冬になる。
冬には眠り、また春になる。
(季節をまた、廻らせよう。
世界が傾くその前に。)
旅人は塔に向かう。
旅人には分かっていた。
どうすればこの冬が終わるのか。
この二年間、ずっと調べて考察を繰り返し、時期を待っていたのだから。
戸を開け塔に入る。
中はひんやりとした冷気がこもっていた。
流石に塔の中に雪は積もっていない。
凍りついた者たちが累々としているのがよくわかった。
旅人は歩を進める。
いくつも部屋があるが、どの部屋にも物は置かれていない。
客人をもてなす気はないらしい。
階段を上る。
階を上がるごとに、周りの冷気は冷たさを増していく。
最上階。
戸は完全に凍てついていた。
持ってきていた爆薬で破壊する。
中を見れば、案の定。
それは檻だった。
氷の檻。
旅人は中には入らず、女王を見る。
女王は眠っていた。
部屋の中央、美しい氷に包まれて。
旅人は、肌が出ていないか確認して中に入る。
(予想より寒い。
思ったほど長くはおれないか。)
体を揺らしてみるが起きない。
考えてみれば爆発でも起きなかった。
そう簡単には起きそうもない。
旅人は女王に厚い布を巻きつける。
そしてそのまま抱えて部屋を出た。
塔を出ると、そこは花園だった。
咲き乱れる花々。
それらを揺らす暖かな風。
それは間違いなく、春の景色だった。
目の前の女性が声を発する。
「ようこそいらっしゃいました。
私は春を預かる者です。
冬を塔から出していただいたこと、感謝いたします。」
「・・・春の女王か。
ここはどこだ?
季節が変わったからといって、地形まで変わるとは思えんが。」
「ここはわたしの世界です。
春夏秋冬それぞれが、自分の世界を作って暮らしております。
塔は寒かったでしょう。
夏のもとへ行きますか?」
「いや、いい。」
「そうですか。
では、この種を贈りましょう。
冬を出していただいたお礼です。」
小さな袋に、見たことのない種が入っている。
「種が芽吹き、咲いた花の数だけ、願いを叶えることが出来ます。
当然ですが全てではありません。
一つでも可能性があるなら、叶えてくれるでしょう。」
風が吹く。
目を閉じ開いたとき、そこはもとの雪景色。
塔からは、暖かな春の風が溢れていた。
――冬が終わり、春が来た。
だが、冬の女王はまだ旅人のもとにいた。
目は覚めた。
しかし、長い冬の間に力を使いすぎたらしく、自分の世界に帰れないのだ。
また、バランスを取るためにしばらくは冬を飛ばすということなので、ここしばらく冬が待機する必要は無いらしい。
そういうわけで、力が戻るまでは旅人についていくことにしたそうだ。
(まあ、王からいろいろ貰ったからよしとしたいが、妙なものに取り付かれてしまった・・・。
夏場は役に立ちそうだが・・・。)
旅人は、春の女王に渡せばよかったと思ったが後の祭りである。
こうして、半ば強制的に旅人は、冬の女王をつれて旅をすることになった。
二人は国を去り、それを以ってこの件は解決となった。