姉切れる。
「さっきさあ、俺のこと馬鹿にしたよね? 」
「えぇ……どんな風に」
「クズって言ったじゃないか」
「え? そんなこと言ってないよ」
姉はほんの数時間前のことを都合よく忘れる。わざと忘れたふりをしているのではない。本当に記憶から消え去っているのだ。
「言ったじゃないか……」
「うるさいなあ、言ってないよ、しつこいなあ」
最後には切れる。
「あんたが、ごちゃごちゃいうのが悪いんでしょ」
そして、いつもの自己正当化、私が正しいからあなたは悪いである。
とにかく、自分が正しいとばかり主張する。
ストレスが溜まるのである。
「ちゃんと、きっちり話して、お互い納得しようよ」
「う~~るさい、いつまで言ってんの、済んだことでしょ!」
長引くと、こちらがまだ納得していないのに、済んだことにされる。
毎日これだ。
「ちょっと話があるんだ」
「ん? 」
「やっぱり、お互いこの間のこと話し合ったほうがいいと思うんだ、例えばねぇ」
「うるさい! 」
話が長くなるとどうも集中できないらしく、いきなり切れる。
この切れ方が凄まじい。
普通に話していたかと思うと、急に切れるのだ。
「このやろおお、ぶっころしてやる! 」
フライパンを握った姉が猛然と襲い掛かってくる。
俺は慌てて、部屋に逃げ帰り、扉に鍵をかける。
すると、姉はフライパンで扉を殴打する。
しつこくしつこく、怒鳴っている。
「もう許さない! 謝れ! 謝らないと許さない」
「謝らない」
怖くても、正義がこっちにある以上謝るつもりはない。
それなのに謝れ謝れを連呼して、扉を破壊しようとする。
「ふ~ん、じゃあ窓ガラス割るよ」
「え? 」
割るわけないよな、これまでそんなこと……
ガチャン
「本気で割りやがった」
割った後も、ひたすら謝れと言っていて、
このままでは殺されると思い、警察を呼んだ。
危なかった。
なにをするにしても、私が正しい、全知全能。
これが彼女の決まりきった主張である。
自分が正しいと思うものは正しく、自分が正しいと思わないものは正しくない。
よって、最後は――
「いたああ」
自分で窓を割った破片で手をケガしている。
警察がやってきた。
「あんたが悪いのよ、このケガもあんたのせい! 」
馬鹿か、このキティ! 自業自得だろ。
しかし、警察や母は彼女の味方である。
家族DVではよっぽどじゃない限り、
男は不利なのが日本という国である。
警察が帰り、数日すると、最初は姉もおとなしくしていた。
罪悪感があるようなふりもしていた。
棒読みの謝罪もうけた。
たぶん、この謝罪は、姉が手をケガして哀れだと思って、
買い物やら料理を手伝ったからである。
本当に反省しているわけではない。
「あいつ、ほんまむかつくから、料理もっとさせてね、母さん」
「うんうん」
その証拠にこの台詞である。
あれだけのことをして、数日も経っていないし、
謝罪もまともにしていないのに、この調子である。
これからどんどんエスカレートするのではと危惧している。
「それはないだろ、ちょっとは俺が受けた恐怖のこと悪いと思わないの? 」
「思っているよ、だけど、あんたも悪いじゃない、大体考えてみてよ、私はか弱い女性なのよ、うんたらかんたら」
反省しているなら、こんな台詞は出てこない。
大体半年前にも暴れていている。
「もう本当にやめてくれよ」
「しつこいな、もうしないっていったでしょ」
世の中には言っても無駄な人間はいくらでもいるが、確実にその中の一人は――姉である。
完結です。感情で書きました。
見苦しいものでしたが、最後まで読んでいただいた皆様、
ありがとうございました。