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大切な人は眼鏡をかけているわ
「ねぇ貴方…」
私は今、どんな顔をしているのだろう。
しかしこれは取るに足らない事だった。
彼は疲れて寝ていたソファから上半身を起こし、寝惚け眼をこすっている。猫のようだと思うが、それはあえて口にしなかった。
「ん…どうしたんだい?」
「…何でもないの。ただ、呼んだだけよ」
笑顔でそう答えればよかったのかしら。でも、今はなんだっていいのよ。
だって視力が悪い彼は今、眼鏡をしていないのだから。
私がどんな表情をしていようと、きっと彼には判らないのだから。
「…ねぇ。なんで君は、泣いているの」
あれ、なんで分かるかしら。
「今度はとても驚いた顔をして。本当にどうしたんだい」
「なんで…」
声が震える。
「どうして見えるの」
彼は笑った。ただ、優しく微笑んだ。
「当たり前だよ。だって僕は、君に惚れているんです」
彼はガラスを触るように頬に触れた。指先で陶器のような肌を撫で、温もりを伝えてくる。
「愛しているんです」




