6 少女との再会
おばあさんは呆然としている僕の元へ歩いてくる。
「亮太ちゃん、サニーちゃんを引き取りにきたわよ」
その言葉にようやく頭が働き始めた僕は、一つの違和感を感じた。
「僕、サニーちゃん捕まえたって報告しましたっけ?」
「俺が報告した」
仁がすかさずそう答える。
僕は一瞬固まったあと、仁の相変わらずの用意のよさに苦笑いした。
「それより、俺はなんであなたがその少女と一緒にいるのか聞きたいですね」
仁は僕を一瞥したあと、そうおばあさんに訪ねた。
おばあさんは笑いながら、
「この子がここの前でウロウロしていてねえ、入りにくそうにしてたから少し強引に背中を押したのよ」
と言った。
あの子はおばあさんの話のせいか顔を真っ赤にしていた。
仁はそれで納得したのかお茶の用意をしにいった。
猫が、顔を真っ赤にするあの子をみてまた笑っている。僕はサニーちゃんを取りに奥へ向かおうとした。
不意に、仁の手帳が目に入った。どうやら席を立つときに自分が座っていた席に置いていったらしく、手帳はひらかれたままだった。そこには、猫が話した内容がまとめて書いてあった。所々仁の考察も書かれているようだ。
それをさらっと盗み見て、僕はサニーちゃんを取りに行く。
サニーちゃんはおとなしく待っていた。
僕はサニーちゃんが入ったケージを手に取って、おばあさんが待っている場所に戻る。
戻ってみるとそこに仁の姿はなく、まだお茶を用意している最中らしいことがわかった。
あの子の方を見てみると、猫となにやら言い争いをしている。
耳を傾けてみると、
「・・・何で勝手に施設のことしゃべったの。・・・理由を教えてくれる?」
あの子が猫を問いつめていた。
・・・なんか、すごい笑顔だ。おばあさんが報酬をくれるときと同じ雰囲気だった。
関わらない方が良さそうだ。
・・・こっちを見るな、猫。僕は君を助けられない。
猫を見捨てたあと、僕は改めておばあさんの方見る。
--おばあさんは、今まで一度もみたことがない顔していた。
その顔は、なにかを考えている人の顔だ。けれども、その裏に怒りを感じて、僕は声を掛けるのを躊躇った。
僕に気がついたおばあさんは、まばたきのうちにいつもの顔に戻った。
「亮太ちゃん、どうしたの?」
おばあさんがそうやっていつものように話しかけてくるから、僕は今みたものを忘れようと思った。
戸惑いをかき消して、僕はサニーちゃんが入ったケージを渡す。
「毎回言ってますけど、今後気をつけてくださいね」
「そうねえ、気をつけるわあ」
おばあさんはいつもの調子で言う。
きっと来週くらいに、おばあさんは依頼しにくるんだろうなと思った。
またサニーちゃんに遊ばれる未来を幻視して、僕は苦笑した。
おばあさんは、仁が持ってきたお茶を飲み終えた後、急用ができたと言って帰って行った。いつもはもう少し長くいるのに、珍しいこともあるものだなと思いながら、僕はみんなの元に戻る。
あの子は、静かに仁の座っていた席に座っていた。
仁は代わりに僕の座っていた場所に座っている。・・・僕は、立っていろということだろうか。
仕方なく僕は適当な所に立つ。
さっきまでの雰囲気が嘘のようにそこは重苦しい雰囲気に包まれていた。
そんな中、口火を切ったのは猫だった。
「お嬢、ネコたちだけじゃ何も出来ないみゃ」
猫はじっとあの子の方を見る。
あの子は、悔しそうに俯いていた。
「・・・分かってる。私たちだけじゃ何も出来ないってことは、ちゃんと分かってる。・・・ここから飛び出した後、それは本当に強く感じたから」
あの子は、それから申し訳無さそうに顔を上げて僕たち自警団の方を見た。
「・・・多分、すごく危ないと思う。・・・それでも、今の私たちにはあなた達しか頼れる人がいない。・・・もう、失敗するわけにはいかないの」
そこで一旦、あの子は言葉を止める。
立ち上がり、改めて僕たちの目を真正面から見て、そして、言った。
「--だから、私たちを助けてください。あなた達の力を、貸してください。
お願いします・・・!」
あの子は、そう言いながら頭を深く下げた。
「そういえば、名前は?」
僕はそう問いかける。
突然の問いにあの子は顔を上げた。
「僕は、明石亮太。この街で自警団をやってて、一応、団長をやってる」
自己紹介をするときょとんとした顔でこちらを見る。
「君の名前は?」
もう一度かけられた問いにあの子は戸惑いながらも答えた。
「・・・姶良。姶良翔子」
「うん、いい名前だと思うよ。姶良さん」
少女改め姶良さんは依然戸惑ったままだ。
「僕たち自警団は、君たちに協力する。よろしく、姶良さん」
僕がそう言うと、ほっとしたような、申し訳無さそうな複雑な顔をして、
「・・・ありがとう」
そう、小さくつぶやいた。