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科学魔法の自警団  作者: asutarisuku
猫と少女と自警団
6/53

5 少女の父親

 静寂が部屋を満たしていた。

 猫の言葉の意味が、僕にはさっぱり分からなかった。


 あの子のお父さんはもう、死んでいる。

 それが事実だ、猫はそう言ったのだ。


 仁が、呆れたような、怒っているような、困惑しているような、様々な感情がごっちゃになった声で言った。


「言ってることはよくわからんが、もっと早く言うべきじゃないのか?」


 猫は文字通り頭の上にハテナマークをだして、さっきまでの雰囲気が嘘のように言った。


「聞かれなかったみゃ?」


 それも、首を傾げながら。



 ・・・再び訪れた静寂の中で、仁は大きなため息をつく。

 その後、嘆くようにあー、と何の意味もなくつぶやいて、


「結局、なにがどういうわけだ?」


 そう問いかけた。


 猫は今になってさっきの雰囲気を醸し出すが、もはや意味はなかった。

 微妙な空気ではあっても、重要なことには変わりないので、僕たちは猫の言葉に意識を集める。

 猫はそれを確認したあと口を開いた。


「お嬢のお父さんはもう亡くなっている。これは間違いなく真実だみゃ。けど、暴走していたころのお嬢のお父さんが残したものがあるみゃ」

「残したもの?」


 仁の言葉に猫は頷く。


「そう、残したものみゃ。お嬢のお父さんは、自分をプログラムとして残していたんだみゃ」


 猫の言葉を聞いた僕は、さっきの仁のように眉を寄せていた。

 人をプログラムとして残す。つまりそれは、


「フルコピーか・・・」


 僕が考えているのを見透かすように、仁がつぶやいた。

 仁も同じ結論に到達したようだった。



 ーーフルコピー

 それは、人間の人格を完全にコピーし、データとして残すこと。また、残されたデータそのもののことだ。

 これをする事は簡単ではない。そもそもこの行為は法律で全面的に禁止されているし、人間をコピーするなんてそこそこ大きな施設が必要だ。

 ちなみに禁止されている理由はクローンと同じような理由だったと思う。


「何のために?」


 そう問いかけたのは仁だ。

 猫が答えるのは早かった。


「さあ、わからないみゃ。自分の死んだ後のことを考えていたのかもしれないみゃ。もしかしたら、機械だけで魔法を使うためかもしれないみゃ。・・・これはもう、作った本人にしかわからないと思うみゃ」


 わからないという猫の回答に、仁はそうかとつぶやいて手帳に目を落とした。

 手帳を見ている仁を横目に、僕は猫に質問する。


「ってことは、今施設の一番上にいるのはあの子のお父さんのフルコピーってこと?」


 猫は、俯きがちに頷いた。


「お嬢のお父さんが亡くなったあと、あいつは現れたみゃ。そのときには施設のメインコンピューターは掌握されてて、施設の出入り口はコンピューターで管理していたから、お嬢と姐さんたちは閉じこめられたんだみゃ。本当にいつの間にかで、気づいた時には遅かったみゃ」


 手帳から顔を上げた仁が、猫の方を見る。


「・・・逃げ出すことになった理由はそれか」


 猫は頷く。その流れで、猫は逃げ出すことになった詳しい原因を話し始めた。


「閉じこめられたあとの施設は、まるでどこかで見た、完全管理された社会のようだったみゃ。・・・姐さんたちは、いつの間にか現れた警備ロボットに脅されながら、研究を続けることになったみゃ。・・・お嬢も、機械関係に才能があったから、機械を作らせられたりしたみゃ。・・・それでも、隙をついて少しずつ、本当に少しずつ、姐さんたちは逃げ出す準備を進めていたみゃ」

「そうして準備して決行されたのが今回の作戦だったってわけか」


 仁の言葉に、猫はそうみゃ、と肯定した。

 仁は、手帳になにか書き込んでいる。

 書き終えたのか、仁は顔を上げた。


「これで聞くことは聞いたよな。・・・ネコも、もう言うことはないか?」

「ないみゃ」


 仁は猫の答えを確認したあと、


「それで、あの少女の事情はわかったわけだが、理由を聞いた限り、早くあの少女を追わないと危ないんじゃないのか?」


 そう言った。



 --その言葉に僕は固まる。

 随分長い間話していた気がするが、考えてみれば当たり前だ。最初からどこかきな臭さがあったのに、なにを悠長に話していたんだ、僕は。


 勢いよく立ち上がり、出口の方向に向かおうとする。

 そんな僕を、猫が止めた。


「急ぐ必要はないみゃ」


 猫はそう言う。

 その言葉に僕は猫になにか言ってやろうと口を開こうとする。

 だが、それは仁の言葉に遮られた。


「どういうことだ」


 猫は、現状をわかっていないのか随分とゆっくりした速度で答えた。


「お嬢は、戻ってくるみゃ」


 それを聞いて僕は足をとめる。

 猫の言葉に、確信が見て取れたからだ。

 僕にはさっぱりその確信の理由が分からなかった。だから、率直に問いかける。


「何で? あの子がここに戻ってくる理由なんてないじゃないか」


 猫は、僕の目を見ている。


「あるみゃ。・・・理由ならあるみゃ」


 猫の予想外の答えに、僕はその理由を求めた。


「それは・・・」


 猫はそこで答えるのをためる。

 ・・・まだためている。

 ・・・いい加減イライラしてきた。


 僕のその様子を感じ取ったのか慌てて猫は答える。


「それは・・・施設までの道を聞いていないからだみゃ」


 よくわからない確信を元に猫は自信満々に答える。


「・・・へっ?」


 その答えに僕は気の抜けた声をだしてしまった。

 ここに施設から来たのだから、戻ることも出来ると思うのだが。


 その疑問は、部屋の中に響く呼び鈴の音に遮られた。

 固まっていた僕に代わって仁が対応する。


 仁が扉を開けた。

 ・・・そこには、常連とも言えるあのおばあさんと、その後ろで縮こまっているあの少女がいた。


「ほら、言った通りだったみゃ」


 猫は笑いながら、唖然としている僕に向かって、そう言った。


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