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科学魔法の自警団  作者: asutarisuku
猫と少女と自警団
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1 いつもの依頼

――この世界には、魔法がある。

正確には、この街には、だけど。

『科学魔法』

そう呼ばれるそれは、十年前、この街で様々なものに姿を変える万能粒子が発見されたとき、それを扱う者たちの姿からその名がついた。

何もない空間から、火や、水や、土が現れる姿は、誰もが知っている魔法使いの姿だった。

科学魔法使用の際周囲を舞う水色の粒子も、魔法だという認識を強めた原因だろうといわれている。


「・・・明石。おいっ明石!聞いてんのか!」


その言葉に僕は意識をもどされた。


「えっと・・・。ごめん、仁。聞いてなかった」


僕の言葉に、自警団の金銭の管理をしている駿河仁はため息をついた。


「お前、ボーっとしてること多いよな。まあいい。お客さんだよ、団長さん」

「お前・・・団長って・・・」


僕の嫌っている呼び方で呼ぶという仁のささやかな抗議に少し傷つきながら、僕は急いでお客さんとやらに会いに行く。

ここは、自警団本部だ。まあ、本部って名前だけど別に支部があるわけじゃない。この自警団は、僕が個人的に立ち上げたもので、団員も現状、僕を含めて二人しかいない。団と言っていいものか、怪しいものになっている。

部屋は僕が一応所有している小さなマンションの一階を使用している。外には階段があり、マンションの使用者は外から二階に上がり、そこから入るようになっている。

その自警団本部の隅に、簡易的な仕切りがある。そこが、滅多に人の訪れないこの自警団の応接室だった。

仕切りを超えると、いかにもお金持ちですというようなおばあさんが座っていた。


「あら、亮太ちゃんお久しぶり」


まあ、わかってはいた。この自警団本部は少し奥まった場所に位置しているから、人が訪れることはない。それなのに、仁がさも当然のようにお客の存在を伝えたのだ。よくこの自警団に同じ犬さがしを依頼してくる、ある意味常連ともいうべきこのおばあさん以外は、ありえなかった。ちなみに名前は知らない。


「また犬さがしですか。おばあさん」

「ごめんなさいねえ。先週に引き続き、今週も逃げちゃったのよう」


本当にわざとやってるんじゃないかと疑ってしまう。何しろほぼ一週間に一度このおばあさんの愛犬のサニーちゃんが逃げ出してしまうのだから。


「別にいいですよ。気にしないでください。それで、いつも通り見つけてくればいいんですよね」

「ええ、そうよ。いつも通りお礼も出すからお願いね」


その言葉に、今日こそはと少し反論を試みる。


「いえ、毎回言ってますけど、僕はお金がほしくて自警団やってるわけじゃ・・・」

「まあまあ、そんなこと言わないで。受け取って」

「うぐっ。・・・はい、わかりました。いただいたお金は大切に使わしてもらいます」

「そう、それでいいのよ」


・・・はたから見れば、僕が押しに弱いとみられるかもしれないが別にそんなことはない。謎の圧力があるのだ。特に『受け取って』の部分に。要するに、断れる雰囲気じゃないのだ。本当に、このおばあさんは何者なのだろうか。


「じゃあ、お願いね」


そういって、いつものことだからと、あっさりとおばあさんは自警団から出ていった。

応接室から出ると、仁が僕を見ていた。


「それで、明石。どうするんだ?」


突然の言葉に一瞬反応が遅れるが、僕はその言葉の意図を理解し、答えた。


「ああ、今すぐ行こうかと思う」


言いながら僕は外出の準備をする。多少の身だしなみを整え、そして魔法を使用するための、ヘッドホンのような機械をつける。

この機械は、この町に住んでいて魔法が使える適性者と呼ばれる人に、研究の一環として配られるものだ。まあ、普通は、もっと小さくて指揮棒のような形をしている。僕の持っているこれは古いもので、いわゆる旧型というものだ。申請すれば新しいのがもらえるが、僕は両手が使えるからと、好んでこっちを使っている。


「それじゃあ、行ってくるよ。留守番よろしく」

「了解。気を付けろよ、いろいろとな」


その言葉を背に受けながら、僕は外へと繰り出した。






――太陽は真上に存在している。季節は春で、過ごしやすい季節だ。

僕は今、ちょっとした高台に立っていた。ここからは街全体がだいたい見渡せ、風属性の索敵魔法を使うのに都合がいい場所だった。

ここで魔法について説明しようと思う。魔法は基本的に水、火、風、土の四属性だ。ほかにもユニーク魔法もあるにはあるが今は関係ないので割愛する。魔法を使うことができる適性者は、基本的に一つの属性しか使うことができない。理由は本質が無意識に拒絶するからとか、諸説あるがはっきりとしたことはわかっていない。また、魔法は一種類ずつしか発動できない。並列起動ができないということだ。これもまたイメージがはっきりしないからとか諸説あるがよくわかっていない。これらの魔法におけるルール的なものは、政府から委託されて科学魔法使いの管理、科学魔法の研究を唯一認められている、マジックラボラトリーという名前そのまんまな組織が研究の成果として発表したものだ。ちなみに、適正者へ魔法を使うための機械、通称『サイフォス』と呼ばれるものを研究の名目で配っているのもこの組織だったりする。


僕は索敵の魔法で犬を探していた。正確にはこの街で単独で行動している犬だ。魔法を使っているため周囲には水色の粒子が舞っている。おばあさんのサニーちゃんはこれまでの経験上、単独で行動していると僕は思っている。さすがに屋内にいたら索敵に引っ掛からないが、たぶん、さすがに屋内にはいないだろう。・・・絶対ではないが。まあ、外にいると思って行動することにする。

索敵には、十か所以上の場所が引っ掛かる。当然だけど、ひどく大変な作業になりそうだった。





・・・あのあと、十六か所めでようやくサニーちゃんを見つけることができたものの、いつもの恒例行事とばかりに鬼ごっこが始まり、今現在僕はサニーちゃんを追いかけていた。

今日は、いつもより長いこと追いかけているような気がする。いつもは追いかけているともういいとばかりに自らつかまりに来るのに、今日は少し機嫌が悪いようだ。しかたがないので、僕は行き止まりに追い込むことにした。

少しずつ、少しずつ、ビルの合間に追い込み、サニーちゃんを誘導していく。ここらは裏路地が入り組んでいて、地元の人でも迷うくらいだった。まあ僕は、迷ったとしても魔法でどうにかできるのだけれど。

それにしてもさすがに疲れてきた。もうすぐで行き止まりのはずだ。

僕は、もう少しと疲れている足を手でたたき、まるであざ笑うかのように少し離れたところに鎮座するサニーちゃんに向かって走り出した。


「・・・はあっはあっ・・・やっと、か」


目の前には、行き止まりを前に戸惑っているサニーちゃんがいた。ようやくだ。本当にようやくだった。

サニーちゃんは途中から僕の考えに気づいたのか急な方向転換が多くなった。そのせいで今いる場所がどこなのか僕でもわからなくなってしまった。使うともっと疲れるからあまり魔法は使いたくなかったのに結局魔法で誘導することになってしまった。帰りもまた魔法を使うことになりそうだと僕は少し憂鬱な気分だ。


「頼むからおとなしくしてね」


サニーちゃんは、あきらめたのか暴れる様子はなかった。これ幸いと少しずつ距離を詰めていく。

――不意に、後ろからの衝撃が僕を襲った。何事かと振り返ると、そこには驚いた顔でじっと僕を見つめる少女の姿があった。

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