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科学魔法の自警団  作者: asutarisuku
猫と少女と自警団
17/53

15 結末

文字化けがなんとかなったので投稿

 

 少しの沈黙。

 フルコピーに目はないから、私はただメインコンピューターをじっと見つめることしか出来ない。目を合わせて話すということが出来ないのが、少し悲しかった。

 姐さんは何か言いたそうな顔をしていたけど、私とお父さんの話す様子を見て飲み込んだみたいだ。あとから、姐さんたちには謝らなければならない。


 そんなことを考えていると、お父さんの声が響いた。


「・・・そうだな。私はだいたい察しがついているが、疑問に思っている人もいるようだ。まずは姶良翔子、お前が此処にいる経緯を話してくれないか?」


 疑問に思っている人というのは、姐さんたちのことだろう。どちらにせよ、話そうと思っていた。


「・・・わかった。まずは、私が逃げ出した後のことを話そうと思う」



 ・・・私は、私が囮になろうとしていたこと。外で出会った自警団のこと。私が姐さんたちを助けようとして、此処に来たこと。そして、自警団の人たちがここまで来るのを助けてくれたことを説明した。

 自警団の団長さんの名前がでたときにお父さんが少し反応したような気がした。けど反応する理由なんてないし、もしかしたら気のせいかもしれない。


 お父さんは「ふむ」と頷く。そして、


「だいたい予想した通りだな」


 と、そう呟いた。

 私は、その呟きを聞きながら口を開く。


「私も、なにがあったのか知りたい」


 少し強引に入れ込んだ言葉に場が沈黙に包まれる。


 此処で起こったことを私は何も知らない。なぜ、あの男が此処を襲撃してきたのか。

 それを、知る必要があると思った。お父さんの真意も、そこから読みとれるかもしれない。


「それにあの男は、私も狙ってた。私も、知らないといけないと思う。・・・お父さんたちに、何が起こったの? 私はなんで狙われたの? 教えて? お父さんは、何をしたの?」


 最後の方に行くにつれて私の声は大きくなっていた。それはほとんど無意識で、それが何を示しているのかは私もよくわからなかった。


「・・・・・・」


 返答はない。視界の端で、姐さんが口を開きかけているのが見えた。


「翔子ちゃん。それは・・・」

「いい」


 姐さんがしゃべろうとするが、それをお父さんは遮る。声に含まれているのは、諦め? 焦り? それとも、悲しみだろうか。私にはよくわからなかった。

 お父さんは続ける。


「話すために、此処に呼んだんだ。答えよう」


 そこで、声が今までの大げさなものから切り替わる。


「・・・自分勝手な父親の話を、結局誰も救えなかった私の話を、聞いてくれるか? 翔子」


 その声は力強くて、私にお父さんの姿を幻視させた。


 答えなんて、とうに決まっている。

 私は小さく頷いた。そして、先を促す為にメインコンピューターを見る。この行為に意味があるのかはわからないけれど、それでも、やらなければならない気がした。


 まるでため息でも吐くかのように、他でもない自分自身に呆れながらお父さんはゆっくりと話し始めた。


「言うべきことは、あの男についてだろうな。あの男は、まあ、予想はついているだろうが、世間一般から言う殺し屋というやつだ。原因は、当たり前だが私にある」


 悲しみの感情は感じ取れなかった。ただ後悔の念だけがその声ににじみ出ていた。


「話すと言ったが、この原因ついては、あまり話すことは出来ない。連中が殺し屋まで送ってきた以上、これから翔子は逃げることになるだろう。そのとき、この原因は足枷になる。だから、詳しく言うことは出来ない。知らないことも必要なんだ。・・・本当に、すまない。ただ、おそらく、この街から逃げ出すことが出来れば連中は追っては来ないはずだ」


 逃げ出す必要がある。原因は話せない。さも当然のように叩きつけられた言葉は、私の中で長いこと響いていた。


「・・・本当に、原因を話してはくれないの?」


 私は頭の中で響いていた言葉を否定してほしくて、そう問いかける。


「すまない。・・・話すことは出来ない。ただ、ここの研究が関係しているということだけは事実だ。全て、私が悪かった。本当に、本当にすまない」


 声には、相変わらず後悔しか存在していなかった。

 私は今まで聞いたこともないようなお父さんの声に、頭がふらふらする感覚を覚えた。脳が処理を拒んでいる。そんな気がした。

 それでも、きっと、受け入れるべきことなんだろう。原因もお父さんがフルコピーとして存在している以上、あとから聞くということもできるかもしれない。

 正直、自分の無力さに泣き出したくなっていた。それでも、自己暗示をかけるように、受け入れなきゃ、受け入れなきゃと頭の中で繰り返していた。


 私は逃げることに納得したわけではなかった。ただ、お父さんがこうまでして頑なに話そうとしないのは、本当にその必要があるってことなんだろうと、そもそも、私の為を思ってのことなんだろうと思うと、そう思うと、私は受け入れることしかできなかった。


「・・・わかった」


 気がつくと、そんな声を絞り出している私がいた。あの自警団の団長さんとした約束は守れないなとそう思っていた。いつか、恩は返さなくてはならない。本当に、私は無力だった。


「すまない、翔子。本当にすまない」


 そんな声が、右から左へと通り過ぎていった。

 そして訪れる沈黙。私はもう、なにも考えられなくなっていた。決意はしていたはずなのになあと、そんな考えが頭をよぎったとき、不意にもう一つの聞き慣れた声が割り込んできた。


「親父さん。私も、訊きたいことがあるんだが」


 声は姐さんのものだった。声からは気遣いが感じられた。もしかしたら、私の思考を違う方向に持って行きたかったのかもしれない。そのおかげか、私は少しだけ現実逃避をして、考える余裕ができる。

 姐さんは続ける。


「フルコピーであっても、親父さんは親父さんなんだよな? ならなんでフルコピーになってから親父さんは豹変した? あんな、管理を重視した脅しもいとわない状態になってたんだ?」


 姐さんの質問はもっともだった。確かに、今ここにあの頃のお父さんがいる以上、最初からお父さんはお父さんのままだったはずだから。

 お父さんは、少しの間沈黙していたけど、やがて声が聞こえてきた。


「・・・お前たちを施設から出さないようにする必要があった。今回の場合がそうだが、連中はこの施設が持っている秘密をたいそう大事にしていた。それこそ過剰すぎるほどに。たとえ私しか知らなくても、誰かがこの施設から出ようとしたとたん勘違いされる可能性があった。実際、そうなってしまったわけだが、それだけは、避けたかったんだ」


 声は後半に行くにつれてしぼんでいく。姐さんは「つまり私たちのせいか」とそうつぶやいて黙り込んだ。


 私はそれを聞いていて、胸の底の方から何かの感情が湧き上がってくるのを感じた。

 逃げることになるなんて言葉を叩きつけられて、すまないって連呼されて、お父さんがなんで私たちを軟禁していたのかを知って、私は、もう、自分がよくわからなくなっていた。その感情はもう、止めることは出来ない。


「・・・なんで・・・!」


 声は意図せず漏れ出す。


「なんで、言ってくれなかったの!? なんで・・・! どうして、頼ってくれなかったの!?」


 馬鹿みたいな自己中心的な言葉が口から飛び出していく。止めようとしても、止まる気配はない。


「お父さんは一人で抱え込みすぎるよ! 私だっていたのに・・・っ! それなのに、なんで誰も頼ろうとしないの! お父さんは、自分勝手だよ! 自分勝手だよ・・・っ!」


 自分勝手なのはどっちだと、心の中の私はそう叫ぶ。止まらないこの声が本当の私かはわからないけど、この感情がどんなものであるかは徐々に理解することができてきていた。


 ・・・これは、怒りだ。私の、私とお父さんに向けた自分勝手な怒り。


 理解したとたん、不思議と涙が溢れてきた。これもまた、止めることはできない。姐さんも、おそらくお父さんも、呆気にとられているだろう。


「私は、お母さんを失って、もう、なにも失いたくなんてなかった! それなのに、お父さんは少しずつ壊れていって、私はなにもできなくて・・・違う、なにもしなくて、それで・・・お父さんも死んじゃって・・・もう、誰もいなくなって・・・」


 最初の頃の勢いはもうなかった。私はただ泣き崩れて、近くに姐さんが寄ってくるのを感じた。

 姐さんは、私を抱きしめてくれた。怒りはもうなくなっていた。代わりに悲しみが襲ってきて、私は、姐さんの腕のなかで、ただ泣き続けていた。






 何分か経った。私はようやく泣き止んで、顔をあげる。姐さんが優しい顔で私を見ていた。

 泣いたおかげか頭はスッキリしていた。もう大丈夫だと、そんな確信があった。

 姐さんは、ゆっくりと私を放す。そして、私の目を見て言った。


「翔子ちゃんは、よく頑張ったよ。本当に、よく頑張った」


 その声はどこまでも優しくて、姐さんらしいと私は思った。


「私は、怒られたんだな」


 お父さんの声が響く。


「そうだ」


 姐さんがその声に答えを返す。お父さんは「そうか」とつぶやいた。

 一瞬の沈黙のあと、お父さんの声が再び響く。


「・・・私を壊してくれないか」


 その提案は突然だった。姐さんも、私も、反応することはできない。


「実の娘から怒られて、気づいたよ。私は所詮偽物だ。私は、死んでいるべきだ。・・・私は娘を支えることはできそうにない。相変わらず、自分勝手だとは思うがね」


 姐さんがゆっくりと立ち上がる。そして、私の方を見て言った。


「翔子ちゃん。・・・翔子ちゃんは壊すべきだとおもうかい?」


 私はその問いにすぐ答えることはできない。けど、お父さんが望んだことだ。

 私は、ゆっくりと首を縦に振った。


「それじゃあ、壊すよ」


 姐さんはそう言う。私はもう一度頷いた。

 姐さんはそれを確認するとメインコンピューターコンピューターに近づいていく。

 そこで、再びお父さんの声が響く。


「姐さん、私は翔子に私を壊して欲しい」


 姐さんは立ち止まる。肩が、震えていた。


「・・・あんたは、娘に親を殺せと、そう言うのかい・・・?」


「そうだ」


 お父さんの答えは早かった。


「・・・っ! あんたってやつは・・・!」


「姐さんっ!」


 私は、気づいたら呼び止めていた。

 私に壊してほしい、お父さんの最後の願いだ。だから、私は。


「姐さん、私、壊すよ」


 そう言いながら、立ち上がる。


「すまない、翔子」


 お父さんのそんな声がまた聞こえた。


「そこはありがとうでしょ、お父さん」


 精一杯強がってそう言う。


「そうだな、ありがとう、翔子」


 お父さんはそう答えた。


「翔子ちゃん、本当にいいの?」


「いいの、いいんだよ姐さん。きっとこれは、私の仕事だと思うから」


 私は辺りを見回して、なにかないか探す。それを見て理解したのか、姐さんが語りかけてきた。


「壊す為のものを捜してるんだろ。私が取ってくるよ」


 そう言って、姐さんは入り口の方向に歩いていく。そのまま見送りそうになるけど、男のことを思い出して私は慌てて止めに入る。


「待って! 外にはあの男が・・・」


 けど、言葉は最後まで言い切る前に遮られた。


「大丈夫だ。どうやら、自警団の団長とやらが、倒してくれたようだ」


 お父さんの声がそう報告する。

 それは、団長さんが無事だということだ。私は今まで忘れていたことに心の中で謝りながら、安心していた。

 姐さんはそれを聞くと、手をひらひらとさせながら再び入り口の方向に歩いていった。


「そうだな、翔子、私はその自警団の団長とやらに会ってくる。翔子をここまでつれてきてくれた人物だ。一度は会っておきたい」


 私は頷く。すると「それじゃあ、行ってくる」と言って、お父さんの声が聞こえなくなった。


 私は白い部屋の中で座り込む。このまま、姐さんとお父さんを待とうと思った。






 ――しばらくして、姐さんが先に帰ってきた。


「こんなものしかなかった」


 そう言って、姐さんは鉄の棒のようなものを差し出してくる。私はそもそも、こんなものがあるほうがおかしいと思った。


 受け取ると、姐さんは真剣な顔で、私の目を覗き込むようにして話しかけてきた。


「翔子ちゃん。本当に、本当にいいんだね」


 私は深く頷く。

 姐さんは、もう一度私の目を覗き込む。何もかも見透かされているような、そんな気がした。


「わかった。私はもう、なにも言わないよ」


 そう言って、姐さんは踵を返し一番最初にいた場所に座り込む。




 次に、お父さんが帰ってきた。


「あの子は翔子と似ているな」


 一言目はそんなものだった。私は首を傾げるけど、その先を続ける気はないようだった。


 沈黙が少しの間続く。

 それを破ったのはお父さんだった。


「そろそろ、壊してくれ」


 お父さんはそう言う。私は、無言で立ち上がった。


「ありがとう、翔子。本当に、ありがとう」


 私は無言でメインコンピューターに近づく。


「姐さん、娘のことは頼んだよ」


「言われなくてもわかってるよ」


 私は、無言で鉄の棒を振りかざす。


「本当にすまない。そして、本当にありがとう。お母さんを、頼む」


「サヨナラ、お父さん。お母さんのことは任せて」


 そう言って、私は鉄の棒を振り下ろした。


 ガンっという音が、白い部屋の中に響いた。私の目からは、涙が流れていただろうか。


「翔子ちゃん・・・」


 姐さんが後ろから私に声をかける。私は振り向くことはできなかった。

 舞い降りる沈黙の中で私たちは少しの間そのままでいた。




 ――突然、ドタドタという階段を大人数で降りてくる音が聞こえた。その後、バンという音と共に人がなだれ込んでくる。


「おまえら、いったい何者だ!」


 姐さんがそう叫んでいるのが聞こえた。


 振り返ると、黒い服と指揮棒のようなサイフォスを持った人達が立っていた。その中で、一番前にいた人が一歩前に出てくる。


「我々はマジックラボラトリー主導で設立された対適性者組織、SSMTだ。あなた達を保護しに来た!」


 そう言った人物はそれからすぐに命令を出す。


 そうして、私たちはわけがわからないまま、よくわからない組織に保護された。

圧倒的表現力不足

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