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科学魔法の自警団  作者: asutarisuku
猫と少女と自警団
15/53

13 僕に対する思い

 僕の答えを聞いた姶良さんのお父さんは、小さくありがとうとつぶやいた。

 そして、少しの間の後、姶良さんのお父さんはおもむろに話し始める。


 話し始める前の間は、考えをまとめる為だろうか。それがいかにも人間臭くて、僕はまるで電話でもしているような気分になっていた。


「・・・私は、昔犯した間違いを魔法で取り戻そうとした」


 姶良さんのお父さんは、最初にそう言った。

 そして、


「まずは、私の間違いから話そう。いいかな?」


そう聞いてきた。

 ・・・僕は問いかけられても、肯定する事しか出来ない。だから、僕は頷いた。

 姶良さんのお父さんは「それでは、間違いから」と、まるで物語でも話すかのような口調で話し始めた。


「ある日、私は久しぶりに車で家族と出かけた。娘と、そして、私の妻とだ。運転は私で、妻も娘も楽しみにしていた。・・・本当に、楽しみにしていたんだ」


 そこで、姶良さんのお父さんの声は沈む。

 妻、つまり、姶良さんのお母さんのこと。そういえば、お母さんの話題は今までなかったということに今になって気づく。

 姶良さんのお父さんは声を沈めたままで続ける。


「私が悪かった。よくある話といえばそれまでだ。私は少し、ほんの少しよそ見をしてしまった。・・・そこから先は、誰でもわかる結末だよ」


 そこには誰もいないのに。ただ、ロボットのきれいな残骸が存在しているだけなのに。僕には、姶良さんのお父さんが俯いているように見えた。


「娘と私は、運良く軽傷だった。・・・ただ、妻だけは、あの子の母親だけはそうならなかった。いわゆる、植物状態という物になってしまった。私は、自分を責めた。病室で横になっている妻をまともに見ることができなかった。・・・そんなときだった。この街の話を思い出したのは」


 科学魔法はその万能性と可能性が注目されたときもあった。その時は、多くの研究機関がこの街に集まり、表面上は別の研究をしながら裏で科学魔法の研究をしていた。・・・けどそれも、この街以外で魔法が使えないということが分かると、すぐにこの街から離れていった。

 きっと、姶良さんのお父さんが思い出したのはこの時の話だろう。


「私は、一応科学者という職業に就いていたから、もしかしたらと思った。もしかしたら、妻を救えるかもしれない。ユニーク魔法の中に治癒魔法があるという事実も、私にそう思わせた」


 僕は治癒魔法という単語を聞いて、それについて思い出してみる。

 治癒魔法は随分すごい物のような気もするが、実際はそこまでではない。なぜなら、個人差はあるが治せるのはかすり傷程度という性能だからだ。

 確かそんな治癒魔法だが、使える適性者は意外と多かった筈だ。基本四属性に新たに五番目として加えようという話も出ている程だった。


 姶良さんのお父さんは「ふう」と深く息を吐く。


「もう、解っただろう? なにを取り戻そうとしたかは、今言った通りだ」


 取り戻したかったもの=姶良さんのお母さん。

 それは、理解出来た。猫が話さなかったのもわかる気がする。

 誰も、自分の母が死にかけているなんて話してまわる人なんていない。まして、それを他人が勝手に話すなんて言語道断だ。


 でも、なんで姶良さんのお父さんはそれを僕に話したのか分からない。だから、深く考えるなんて僕のがらじゃないから、率直に訊くことにする。


「なんで、僕に話したんですか」


 僕の問いにお父さんは暫く黙っていた。けどその沈黙は無視する時のそれではない。そんな気がした。考えて、考えて、どうにか答えを出そうとしているような、そんな感覚があった。


「・・・最初に言った通りだ。自分のため、自分のためだよ」


 僕は首を傾げる。

 僕に話すことで、なにが姶良さんのお父さんのためになるのか分からない。


「君は私の話を聞いた。娘の過去を知った。それなら、娘を支える責任が生まれると思わないか?」


 続けられたお父さんの言葉は、随分と勝手な理屈だった。けど、機械の言葉の筈なのに、それなのに、有無を言わせない迫力があった。

 自然と、僕は頷いてしまう。


「・・・私だって、強引な理屈だと分かっている。それでも、私は親として最後になにかしてやりたい。たとえそれを娘が望んでいなくても、私がいなくなった後の居場所ぐらいは作ってやりたい。そう思ったんだ」


 それは、僕にはわからないことだ。親の心なんて、親にしかわからない。

 さっきから、僕はわからないことが多すぎる。本当に、僕はなにも知らないと思い知らされた。

 そしてまた一つ、わからないことがある。


「どうして僕なんですか? あなたからしたら、僕は突然現れた赤の他人です。なんでそんな僕に姶良さんを支えて欲しいなんて言うんですか? 僕じゃなくても、姐さんとかいるんじゃないんですか?」


 これは、拒絶のための言い訳ではない。ただ、本当に疑問に思ったのだ。なんで、そんなに僕を信用するのか。

 僕は誰かを支えられるほど、自分が出来た人間とは思っていない。だからといって姶良さんのお父さんの願いを拒絶するわけではないが、聞いておきたかった。僕を選んだわけを。


 この質問には、姶良さんのお父さんは即答した。


「それは君が、娘と似ていると思ったからだよ。娘は昔から、強がりなんだ。強がって、自分の心を押さえ込む。たとえ逃げ出したくても、その心には従わない」


「それは、僕が強がっているということですか?」


「・・・違うかい?」


「・・・っ」


 言葉は、僕を見透かした。否定する事は出来なかった。


「君の目は、娘と同じように揺らいでいるんだよ。・・・私と話す直前に、なにか心に触れるようなことがあったのかい?」


 質問には答えられない。僕は、この人にはかなわない、そう思った。

 だからこそ、姐さんたちに慕われているのかも、とも。


「そろそろ、時間だ。私は壊されなくては」


 その言葉で、僕は本当に訊きたかったことを思い出す。

 早口でもう一度、僕は最初にした質問をくりかえした。


「なんであなたは、フルコピーは壊されることになったんですか?」


 お父さんは少し笑ったあと、静かに答えた。


「・・・私から頼んだんだよ」


 そしてその言葉を最後に、ロボットから姶良さんのお父さんの声が聞こえることはなかった。


 僕は、最後の言葉を反芻する。

 そして、


「・・・そんなの、残酷だよ」


そう呟いた。

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