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科学魔法の自警団  作者: asutarisuku
猫と少女と自警団
13/53

11 試験場での戦い

 

 地面に着地したあとの男は、ただ純粋な殺意を僕の方に向けていた。


「ひひっははははっ、分かったよ。お前から殺してやる。依頼には入っちゃいないが、お前が邪魔したんだ。いいよな?」


 男はナイフをくるくると回している。

 僕は、男の攻撃を避けることに意識を集中させる。

 勝つ方法は確かに存在する。だが、それにはタイミングが重要だった。


 男が回していたナイフを握る。そして、姿勢を低くした。

 来るっ・・・!

 そう思った時には僕の体は自然と動き出していた。

 あの男は、殺すことを第一に動いている。そして、僕を格下だと確信しているが故に的確に急所になる所だけを狙ってくる。僕はそう予想していた。

 だからただ、体を捻ってやればっ、


「死ねっ!」


 瞬間、目の前に現れたナイフが僕の眼前を通る。

 予想は正しく、僕は攻撃を避けることに成功した。しかし、油断するにはまだ早い。

 男は、避けられたことに舌打ちしながら今度はナイフを横凪に払ってきた。

 僕はそれを後ろに倒れ込むことで回避する。またも眼前をナイフが素通りした。

 僕は倒れ込みながら男目掛けて風を打ち出す。

 男は飛び退いてそれを回避した。

 僕は素早く起き上がり、男を見る。飛び退いた先で男は頭をかきむしっていた。


「ちょこまかと、うぜぇんだよ! さっさと死ね!」


 叫びながら、男は再び突っ込んでくる。

 僕は少し息を吐いたあと、再び避けるために意識を集中させた。


 右、上、下、縦横無尽に繰り出される攻撃は、時にフェイントを交えながら続いた。

 僕はそれを避ける、避ける、避ける。

 それはただ、男を苛立たせるために。そして、男の攻撃を単純なものにするために。


 何十分たったのか、僕にはもうわからなかった。

 長い時間のような気もするし、短い時間だったような気もする。


 男は、攻撃を避け続ける僕に完全にキレていた。

 最初の方はフェイントに次ぐフェイントに織り交ぜられた鋭い攻撃に、避けるのが難しいこともあった。しかし、今はもう全くそんなことはない。

 繰り返される攻撃は徐々に速くはなっているが、その攻撃は単純なものだ。そのため、避けるのは容易だった。


「クソっ、なんであたらねえんだよ! じっとしてろよクソヤロウが!」


 そう言って、またも真っ直ぐ突っ込んでくる男。その声には、最初の口調は完全に失われていた。

 放たれるのは横凪の一撃。それは、一般人が見てもどこからくるのか分かるようなもので、危なげなく僕は避けることに成功する。


「なんでだ! なんでだ! おかしいだろうが! 俺はっ・・・! こんな一般人に避けられるほど弱くないはずだろうが! こんな・・・! こんなっ・・・!」


 男はぐちゃぐちゃにナイフを振り回す。それはまるで、子供がだだをこねているようで、


「クソっ、クソっ、クソっ、死ねよ! さっさと死ねよお!」


 僕は、そんな子供の攻撃に当たるほど弱くはなかった。


 すべての攻撃を避けきり、地面を蹴って男から離れる。男は下を向いていて追撃してくる様子はなかった。


 次だ。・・・次に男が突っ込んできた時に全てを決める。


 男はぶつぶつと何かを呟いていた。その声は小さすぎて、内容は聞き取れなかった。


 ロボットの残骸が散乱する中を、沈黙が支配していた。

 僕は、男が突っ込んでくるその瞬間をただ待った。


 少しの時間の後、男は顔を上げた。すべてを決める次が来るのかと僕は身構えるが、男はその勢いのまま天井を見ると、突然、


「あああああああっ!」


と叫び始めた。

 その声は試験場の中に消えていく。声は、反響する事はなかった。


 男は上を向いたまま固まっていた。その腕は力なく垂れ下がり、手に持つナイフは今にも落ちてしまいそうだ。

 僕はそれでも、油断する訳にはいかない。僕がしようとしていることは、一発勝負なのだ。あの男が勘違いしているからこそできることだ。あの男が僕を風の魔法使いだと思っているから。


「・・・ははっ・・・ひひひっ・・・」


 男の叫びがまだ耳に残る中、唐突に笑い声が聞こえてきた。発信源は当然男だ。

 何事かと男を注視すると、男は顔をゆっくりと正面に戻した。上を向いていた男の顔が僕に見えるようになる。


 男の目は、黒く、深く濁っていた。それは、寒気がする目だった。

 暗い声で男は言う。


「もう、終わらせてやる。次は、確実に当ててやる」


そして、先ほどまでの怒りにまみれた声にかわり、


「殺してやる! 俺とお前じゃ、住んでる世界が違うんだよっ! 俺はお前を簡単に殺せるんだっ!」


 叫んだ男は、今までにないスピードで突っ込んでくる。

 その言葉は、きっと暗示なのだろう。僕は、その暗示の通りになる気は、毛頭なかった。


「確かに、僕が住んでた世界とは違うだろうね。・・・けど、僕が住んでた世界は、お前の世界より、もっと過酷だったんだよっ!」


 僕は魔法を発動させる。僕の周りに水色の粒子が輝きだし、男のナイフが僕に届く少し前に、男の足元に土で出来た段差が現れる。

 男の足は、突然現れた段差を避けることなどできず、段差に引っかかることになる。

 男は驚愕の表情をしていた。理由は理解できる。なぜなら、風の魔法使いだと思っていたのに、土魔法を使われたのだから。

 男は驚きながらも、出来てしまった隙を消すことに余念はない。

 こけそうになるその勢いを利用して、男は体を回転させながらナイフを振るってくる。

 その常人離れした反応速度に僕は再び、お前は化け物か、と思う。しかし、その先を考えていなかった訳じゃない。

 次に僕は土魔法の行使を放棄して、炎を自分の目の前に出現させた。それと同時に後ろに飛ぶ。

 男の姿は炎に遮られて見えない。だが、男は確実に炎に突っ込むことになるはずだ。

 ほんの、一秒にも満たない時間の後、炎の向こうから男の左手が姿を見せる。男は炎を左手で振り払いながらなおも突っ込んでくる。


「うらあっ!」


 男の叫びが僕の耳に届く。


 けど、僕はそこまで全部、


「予想済みなんだよっ!」


 炎を生み出していた魔法を放棄し、僕は手を前に突き出していた。その手の先に水の球体が現れる。

 男は急に止まることなど出来ない。

 僕は、その魔法に全身全霊の力をのせて、


「くらえっ!」


 そう叫びながら、男に向かって打ち出した。


 水の球体の直撃によって男は壁に向かって吹き飛ばされる。

 ドンっ、という鈍い音がしたあと、男は地面に崩れ落ちた。


「・・・僕の魔法は、ユニーク魔法。全属性適性なんだよ」


 僕は、倒れている男に向けて、そうつぶやいた。


 男に意識はなく、気絶しているようだった。


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