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科学魔法の自警団  作者: asutarisuku
猫と少女と自警団
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8 違和感と迷い

 

 施設の中を僕は見回す。そこは、真っ白な清潔感漂う通路だった。白く、やけに明るいライトがそこを照らしている。

 僕は警備ロボットを探すが、僕の見渡せる範囲内に、動く影を確認する事は出来なかった。

 僕の前に、姶良さんが出てくる。ここからは、道のりのわからない僕の代わりに姶良さんが先導する事になっていた。




 ――それからしばらく後、僕たちはまだ通路を歩いていた。この研究施設は地下にのびており、意外と広かったのだ。

 明るい廊下を、足音をたてながら歩いていく。

 コツコツという音が、静寂の中に波紋を広げていく。


 姶良さんは唐突に振り返って言った。


「・・・おかしい」


 僕は頷く。

 僕たちは、ここまで一体も警備ロボットを見かけていなかった。

 姶良さんは、神妙な顔つきで言う。


「・・・この先に魔法の試験場がある。・・・今まで一回も使われることはなかったけど、広いし、待ち伏せかもしれない」


 その言葉に、わかってはいるものの問いかけずにはいられなかった。


「迂回路は?」

「・・・ない」


 当然の回答に、僕は顔をしかめる。

 ・・・このままだと、少し厳しいか。


 黙ったままの僕に、姶良さんはゆっくりと告げた。


「・・・もういい」

「え?」

「・・・もう、いい。ありがとう。・・・巻き込んでごめんなさい。ここからは、私一人で行く」


 そう言って、姶良さんは歩いていく。

 その言葉は唐突過ぎて、僕は動き出すのが遅れた。


「・・・ちょっと待った!」


 その言葉に、姶良さんは立ち止まってくれた。


「一人で行ってなにができるのさ!」


 僕は立ち止まっている姶良さんの背中に向けてそう投げかける。

 姶良さんは、僕の方を見ることはなく再び歩いていこうとした。


 わかっていた。こんな言葉では止まってなどくれないことを。

 だから、卑怯は承知の上で僕は告げる。


「・・・君だけで、姐さんたちを助けられるの・・・?」


 姶良さんは固まる。

 僕は畳みかけるように続けた。


「自分だけで、自分たちだけでできないと、助けられないと思ったんだろう? だから、僕たちに助けてって言ったんだろう? なら、今は僕たちの事なんて考えちゃダメだ。自分の事だけ、考えるべきだ」


 姶良さんは、僕の方を見ようとはしない。

 数秒の沈黙が、その場を支配する。


「・・・この先で待ち伏せされてるとして、あなたにそれが打開できるの?」


 突然、姶良さんがそう言った。

 ・・・正直、厳しいと言わざる負えない。一人でできることなど限界があるのだ。事実、さっきもそう思ったばかりだ。

 だから、


「・・・それは、わからないけど」


 こんな答えになってしまう。


 姶良さんは、勢い良く振り返った。


「それでっ! なんであなたは私に力を貸そうとするの! 死ぬかもしれないのよ!」


 まるで今にも泣きそうな顔でそう言った。


 これは、勝手な妄想だけど、きっと姶良さんは不安なんだろう。

 姐さんたちは、自分のせいで不幸になっている。そう思っているから。

 だから、巻き込むことに強い抵抗を感じている。巻き込んでも、それを後悔している。


 ――けど、そんなのは、僕には関係ない。


 僕の行動理由は、至極単純なことだ。

 ただ、この街の人が困っている。だから助ける。自警団として。


 だから、僕の答えは、


「僕がそうしたいからだ」


 こうなる。


 姶良さんは、意外にも強く発せられた僕の声に少しひるんでいた。


 僕はもう一度、僕の意志を伝える。


「僕がそうしたいから君を助ける。たとえついてくるなと言われても、それでも黙って追いかける。それが僕の仕事で、僕がこの世界にいる理由だ。ずいぶん自分勝手だけど、これが僕なんだよ」


 姶良さんが、呆然として立っていて動こうとしないから、僕の方から近づいていく。


「だから、手伝わせてください。僕がそうしたいから、そうさせてください」


 そう言って僕は頭を下げた。


 姶良さんは、さっきよりも混乱しているようだ。

 当然だろう。お願いする立場だったはずなのに、いつの間にかそれが逆転していたのだ。これで混乱しない人はそんなにいない。

 僕はただ、姶良さんの答えを待った。


 しばらくすると、姶良さんが僕に声をかけてきた。


「・・・わかった。けど、一つだけ条件がある」


 その言葉に僕は、頭を上げて首を傾げる。

 姶良さんは、僕の目を見て言った。


「・・・これが終わったら、私も自警団に入れてほしい。・・・そこで私は役に立って、あなたに恩を返すから」


 意外な提案だった。全く想像していなかった。

 だけど、別に悪い提案というわけじゃない。

 だから、僕は笑ってそれに肯定の意志を示した。

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