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便所虫  作者: 角田
9/10

さよなら角田さん

角田さんがアメリカへ遠征するとの話を聞き,僕とカークは言葉にできない焦りを感じた.



俺も遂に世界デビューだ.決めるぜ,パロスペシャル.

地が変わろうが関係ねぇ.

俺は俺だ.

世界中のファンへ,子供らへ,いつも通り全力の俺を見せるだけだ.

俺なりの正義ってやつだな.


ノー

ノー,カクタ.

シヌだけヨ..


シヌだと?問題じゃねえ.

正義かどうかに,死ぬかどうかは関係ねぇ.


カークにパロスペシャルを決めつつ,角田さんはいつも通りの眩しい笑顔を僕に向けてくる.


ヒロ,今度のマッチは世界100億ヵ国で中継だ.

応援,頼むぜ.








ヒロ...カクタはシヌね.

カクタはツヨイ.でもソレ,ニホンのハナシね.

カクタはアメリカをゴカイシテルよ.

ジュンジョ,ギャク.

カツからツヨイ.ツヨサ,カンケイないね.

アメリカ,ケッカがサキね.Goリシュギいうネ.

カレは,カクタはシヌよ.





テレビジョンに映る角田さんの笑顔は眩しかった.

いつも以上に眩しく,そしてやり遂げた顔をしていた.

そして角田さんは…




僕が戦争を習いに行った時,角田さんは僕に,正義の是非を問うた.

正義は誰が決めるのか.他人か自分か.


誰かが決めねば言葉は定義を失う.

誰かが決めねば、正義は正義でなくなるのか.

主観が占める観念に絶対的なものは無いはずだ.

一方で、主観を排した客体とは信条とは異なる概念である.

すなわち、絶対的正義などと言う言葉は,嘘偽りであるのだ.



そうした矛盾に,ヒーローである角田さんは,いつも悩んでいたのだろう.

悩みに悩みぬき,そうして角田さんが出した答えはアメリカであった.

結果としての正義.

角田さんはしかし,アメリカで彼なりの正義を貫くという未練にも思える誇りを,矛盾を以て,その身を投げいった.




自殺まで考えた角田さんの誇りは,間違いなく正義であるように思える.



正義かどうかに,死ぬかどうかは関係が無いらしく.

そして,死ぬかどうかよりも,正義かどうか.

そうした下らないことが.とても重要なことであるらしい.



僕は生きているつもりであった.

生きていたいと思っていた.




告別式では,いつものように冷めた目で,僕は角田さんの遺影を見ていた.

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