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便所虫  作者: 角田
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角田はレバー好き

ゴミ虫こと便所虫には,名前がある.


角田である.

墨田家のサニタリーボックスという角部屋に住まう彼に,ダジャレを込めて僕が付けた一つの愛称である.



角田は,レバーが好きであった.



排便時など便意の進まぬ手持無沙汰な時間を利用して,僕と角田は多くを語らった.

時に喧嘩し,時に悩みを打ち明け,時に歌い,生や死や,うんこやレバーなど,多くのことを共に考えた.



角田は,レバーの話をよく好んだ.



以前に友人の倉橋から聞いた話では,オンナは月に一度汚いレバーを股のあそこから出すとのことらしく,そうした一種の雑学とも言える小話を角田に話せば,彼はひどく喜び,


でかしたぞ.でかしたぞ,宏明!


と何度も僕を褒め,そしていつも以上に,高く高く伸びやかに歌を歌ってくれた.

大発見をした際の,そんな角田の笑顔が僕は好きであったし,また,彼の真剣な表情はとても好ましく感じられた.



しかし,角田はその日を境に変わってしまった.



生レバーは臭ってる.生レバーは腐ってる.


食えたもんじゃないと,僕を強く責めた.

僕の知恵を,考えを,そして僕自身を否定してくるようになった.



角田は,本当は嫌な奴だった.

良い奴だったけど,嫌な奴だった.



桜との騒動があって以来は角田と話す機会もめっきりと減り,ただ,排便時に聞こえる彼の呻く様な泣き声だけが,僕の記憶に強く残っている.



角田は泣いていた.

死ぬ時も,死ぬ前も泣いていた.



角田は,嫌な奴で,汚いゴミ虫だけど,

角田の泣き声は,可哀相に思えた.

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