死んでくれて有り難う角田さん
死んでくれて有り難う角田さん
角田さんと最後のお別れを済ませた僕は,その足で近所の河原へと足を運んだ.
あのゴミ虫が死に.狙い澄ましたかの様に現れた角田さん.
角田宏明.
角田は死んだ.
宏明は死んだ.
妄想などではない.
あの虫,角田も,そして宏明…この僕も.妄想ではない.
しいて言うならば,角田宏明その人こそが僕の妄想だったのだ.
そう考える事で,僕は自身への疑念,自我の芽生えに伴う自死と言う問題を無いものとした.
角田さんは,僕の代わりに死んでくれたのだ.
角田さんはヒーローであるから.
そう、そういう事にし,そして僕は.
ヒロ,ココにイタね.
…
ヒロ,げんきダスね.
土手の上で、僕らはゆらりゆらりと流れる川面を眺めていた。
ゆらりゆらりと形を崩すその姿。
感傷に耽っているつもりはない。
ただ、どこか美しいと感じる。
僕はそれを、ただ眺めるしかない。
ゆらりゆらりと。ただ、眺めるしか。
幾分か過ぎた頃,帰ろうと促すカークに僕はうんと素直に答えた。
腰を上げ,そして最後にもう一度川辺を見やり,家路へと足を運ぶ.
陽射しに目を細め,カークと連れ立って.
夕日がこんなに眩しいものだと,僕はその時初めて気付いた.
その日,僕は死に,そして生まれたのだろう.




