角田はキレイ好き
昨年より、我が家に便所虫が住み着いた。
始めは縁起物のひとつとして、彼を家族皆が盛大にまた快く迎えたのだが、十二になる次女の桜に華よ華よと赤飯が振る舞われる頃には、自然、彼は我々墨田家において、桜のレバーを狙う穢らわしいゴミ虫としての扱いを受けるようになった。
ゴミ虫は嘆く。
彼はジメジメとしたほの暗い場所を好む習性があり、また、墨田家の便所において彼の望む場所は、サニタリーボックスを置いて他に無かった。
元来、ゴミ虫はキレイ好きな性分である。己の寝床に汚らわしい肉の切れ端を捨て去る桜に対し、以前より好まざる感情を持っていたゴミ虫であるが、ある日を境、彼はついに限界を迎えることとなる。
てめえ、おい!
桜!
コラ!
多感な思春期を謳歌する桜は、彼の言葉に酷く傷付き、塞ぐようになる。
捨て場に困り、挙げ句、自身の部屋へと持ち帰る.
そんな桜に気付いた父は、彼と桜の仲を,また彼と家族らの仲を取り持とうと奔走するも、深まる溝は埋まる気配を一向に見せず、ついには桜の羞恥に同情した皆は、彼を悪者として扱うようになっていったのだ。
ゴミ虫は嘆いていた。
ゴミ虫はキレイ好きな性分だったのである。
ゴミ虫は願っていた。
もう、レバーが降ってきませんようにと。
便所虫は叫んでいた。
もう、降ってきませんように、と。
彼は死に際、とても悔しそうな顔をし、そして僕にさよならを告げて逝った。




