過去からの依頼人(その5)
佳央里は自室にいた。雨戸を閉め切り、カーテンが開くことのない窓は外の明るさを室内に導くことはない。デジタル表示が変化するだけの時計に佳央里は何の意味も感じてはいない。
何画面もあるモニターの照明だけが顔面に当たっている。視線をせわしなく動かす。
長い髪の毛は後頭部で一つにまとめている。聡明な瞳の輝きをもつ佳央里はきれい好きだった。毎日お風呂にも入るし、うっすらと化粧も施している。
最後に母以外の人に会ったのは何年前になるだろう。佳央里はふと考えることもあった。しかし、「タスカル」の成功により、そんなことはささいなことに思えるようになった。「タスカル」はあらゆる機器に搭載され地球規模で浸透している通信機器となった。佳央里の銀行口座には莫大な資金が積み重ねられている。
「これは」
視線はあるファイルで釘付けになる。ほんの数分前、警察組織の最深部にアクセスすることに成功した。その中でもさらに隠しになっているファイルがあった。それはゼロ課の極秘ファイルだった。項目をくっていくと「ゼロ課配属者 能力一覧」のファイルがあった。
佳央里は配属当時の父をみつけると父の能力項目を呼び出した。
(知性)と書かれていた。
どういう意味なのだろうと佳央里は思う。続いて同僚の能力を呼び出す。幾人もの能力を参照する。
(ミツオ 予知)
佳央里は手帳に必要な情報を書き写す。
「これだ」
佳央里は小さくつぶやいた。それは8mmビデオテープ連続殺人事件のファイルだった。
第一の殺人 溺死
当時、人の住んではいない廃墟となっていた集合住宅の貯水タンク。被害者氏名 安西はじめ(65歳)
水の供給を再開された貯水タンク内で手足をしばられた状態で溺死。
安西は特殊詐欺グループの親玉として当局が最重要人物としてマークしていた男。




